手もココロも消毒する「消毒先生」派遣します!
2016/11/29
「ホスピタルティ」とは?
こんにちは、コピーライターの橋口幸生です。突然ですがみなさんは、病院は好きですか? お医者さんの前だと緊張して、話もよく理解できない、言われたことをなかなか実行できない。病院の待ち時間も長く疲れる。どの病院もこういう感じなので、病院が大好き! という人は少なそうですよね。私も同じです。
このような状況を変えるために、電通社内のプランナーやコピーライター、アートディレクターのメンバーが集まり「HOSPITAL-TY(ホスピタルティ)」というプロジェクトを始めました。プロジェクト名は、「病院=ホスピタル」と「おもてなし=ホスピタリティ」を合わせた造語です。
例えばテーマパークに行くと、お客さんをもてなすためのさまざまな工夫がありますよね。だからアトラクションの待ち時間も、何とかガマンできるし、楽しい1日を過ごせますよね。同じように病院でも、患者さんが楽しく、前向きに治療に取り組める工夫をしていこうと考えました。
美原記念病院での取り組み
きっかけは、群馬県・伊勢崎市の美原記念病院から相談をいただいたことでした。病院はさまざまな課題と対峙しています。その中には長い待ち時間をはじめ、院内感染、患者さんの治療意欲や日常行動など、医療だけでは解決できない課題も数多くありました。
ディスカッションを重ねるうちに発見したのは「患者さんの意識、行動を変えることが、課題の解決につながる」というポイントでした。これまでの病院のコミュニケーションは「このために、こうしましょう」という論理を、一方的に伝えるものになりがちだったと思います。
でも、いくら「インフルエンザやノロウイルス対策に、手指を消毒しよう」と言われても、ついサボってしまいますよね。論理での説得より、感情に訴えて、楽しんでいただく。それが、患者さんの行動変化につながる。この仮説を基に私たちは、三つのアイデアを開発しました。
患者さんに親しみを感じてもらうため、それぞれに「○○先生」というキャラクターのようなネーミングをつけています。この連載では、この三つのプロダクトの「○○先生」についてご紹介します。まずは一人目の先生の登場です!
「ホスピタルティ」開発プロダクト1 消毒先生
ホスピタルティの顔として、患者さんを病院の玄関でおもてなしするのが「消毒先生」です。このコラムの最初に登場していますね。ポンプを押すと消毒液が出るだけではなく、ココロをキレイにする「名言」がスクリーンに表示されます。義務ではなく、楽しんで使ってもらい、結果として病気の予防につなげることを狙っています。
手指消毒は、毎日の習慣にする必要があります。1日や2日で飽きてしまっては、意味がありません。そこで名言は、全100種類用意しました。僕を含めたコピーライター3人が手分けして書いています。
「あなたの消毒は、他の人の健康も守ります」
「どんな人か。手を見れば、ほぼ分かります」
「どうせなら消毒した手で、誰かと握手しませんか」
「嫌われる勇気も必要です。特にバイキンには」
「自分より大切な人がいる。大人って、そんな人のことです」
「雲の向こうは、いつだって青空ですよ」
「かっこわるいのが、かっこいい。そんな時もあります」
「土砂降りの後は、虹が出るものですよ」
「今夜は早めに寝ませんか。翌朝には、ココロの消毒完了です」
「バイキンにモテる人は、人間にはモテませんよ」
デザイン面では、無機質な消毒器に愛着を持ってもらうことが必要でした。ただし、これが消毒器であるということは、一目で分からなくてはいけません。この2点のバランスを気遣い、元の消毒器の形状を生かしたキャラクター設計にしています。
白とピンクの2色で、医療の清潔感とキャラクターの温かさを表現しました。また、スクリーンに名言が表現される際、ポコポコと効果音が鳴るようにしています。話している感じを出して、人格を感じてもらうための演出です。
消毒先生は日々、使っていただくものなので、納品したらそれで完了…というわけにはいきません。設置した後も患者さんの反応をリサーチし、必要に応じて使い勝手の調整をしています。病院を訪れるのは高齢の方が多いので、予想外のリアクションもあり、あらためてプロダクト設計の難しさを感じました。
現在、消毒先生は病院の玄関を入ったところに設置され、患者さんを出迎えています。消毒先生とは別に、スクリーンなしの「量産型」が、病室や会計、事務所、地域住民の相談窓口など、計10カ所に設置されています。名言は出ないのですが、思わずさわりたくなる、かわいらしいデザインになっています