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待っていても、はじまらない。―潔く前に進めNo.8

本当に信じられることで、一点突破しよう。

2016/12/01

お菓子を、進化させる。

これは、とびきりおいしい焼きたてチーズタルト「BAKE CHEESE TART」や、サクとろでやみつきになる焼きたてカスタードアップルパイ「RINGO」などを生み出す製菓企業、BAKEのステートメントです。お菓子の可能性はこんなものではないと、お菓子の作り方、見せ方、届け方に至るまで、お菓子に本気で向き合い、お菓子の進化に挑んでいます。ふんわりと甘い香りのするお店を、街角でご覧になった方も多いのではないでしょうか。

2016年の初夏、僕は、BAKEの社長である長沼真太郎さんに出会い、コピーライターとして、このステートメントやミッションの再定義をご一緒させていただきました。社員の皆さんに話を伺うのはもちろん、長沼さんの起業に至るまでのエピソードを深くお聞きしました。そこで、長沼さんの突き進んできた生き方、働き方をこのコラムで紹介したいと思い、改めて対談をお願いしました。

(右から)BAKEの長沼真太郎さん、著者・阿部広太郎

長沼さんは、1986年北海道生まれ。慶応大学を卒業後、丸紅の菓子食品課に従事。2011年、同社を退社し、父の経営する洋菓子店「きのとや」に入社。2012年、新千歳空港店の店長となり、「焼きたてチーズタルト」を開発。2013年、BAKEを創業し代表取締役に就任しました。僕の書籍『待っていても、はじまらない。―潔く前に進め』(弘文堂)の「番外編」、長沼さんの潔く前に進むための3カ条はこちらです。

 

自分を信じて一点突破する。

「小、中、高、ずっと野球部です。完全に野球中心の生活で、高3の7月に引退してから、本気で勉強を始め、入れるところはどこかという基準で大学を選びました。慶応大学の商学部の受験は、3教科のみ。センター試験も、他の学部も他大学も受けずに、商学部一本で勝負すると決めたので、この3教科だけをめちゃめちゃ勉強しました。戦略勝ちですね」

長沼さんはどんな10代を過ごしていたのだろう? そこから話を伺うと、そこには長沼さん流の物事の考え方がありました。現状を正確に把握する。その上で、目指すべき場所を決める。選択と集中。自分を信じて一点に力を注ぎ込み、壁を突破していく。ともするとギャンブラーにも見える行動の奥には、確かな戦略がある。

僕は、はっとしました。それは今のBAKEの「1ブランド1商品」というビジネスモデルとつながったからです。店舗で複数の商品を展開するのではなく、一つの商品で勝負する。この戦略は、長沼さんが、新千歳空港店で焼きたてチーズタルトを大ヒットさせたことに端を発します。

「店長に就いてから『チーズタルトしかない』と思い始めるようになりました。もともと私が好きだったというのもありますが、従業員に『15種類くらいある商品の中で、自分がお客さまだったら買いたいものは?』とアンケートを取ったら、全員がチーズタルトだったんです。以降、チーズタルトに絞り込んで、これを良くすることだけを考えて、アイデアを出し合いました。店内にオーブンを設置して焼きたてを出したり、2種類のサンプルを作ってABテストを重ねたり、改良し続けました。その結果、1日50個だった売り上げが、3000個も売れるようになりました」

どうしてそんなに揺るぎなく進めるのだろうか。長沼さんはこうも言ってくれました。

「本当に良いと思うものを、お客さまに薦めたい。その気持ちが全員同じだったんです」

強い信念が、一点突破を可能にする。そして、自分だけでなく、仲間と信じられたら、想像を超える未来を実現できるのだなと僕は思いました。

 

自分の性格を強みに変える。

焼きたてチーズタルトの開発に成功し、新千歳空港店の立て直しを成功させた長沼さん。ややもすると、その成功体験に一安心して、しばらく落ち着いてしまいそうなものですが、その後すぐ東京に出てBAKEの立ち上げに挑んでいきます。なぜでしょうか?

「私は飽きっぽいところがあって、チーズタルトで結果が出て自信がついたからこそ、次のことをやろうと思いました。大学時代の友人が、Eコマースでデジカメを売って成功したというのを聞き、インターネットすごいな、お菓子とネットを掛け合わそうと思ったんです。そう思って、『クリックオンケーキ』というデコレーションケーキの全国通販サイトをやり始めました」

「飽きっぽい」。長沼さんは対談中、何度かこの言葉を発していました。飽きっぽいからこそ、まだ見ぬ可能性へと鼻が利く、そして次へ次へと行動を起こしていける。自分の性格を見極め、強みに変える。長沼さんは、まさにその強みを生かして当初うまくいかなかった「クリックオンケーキ」を成功へと導きます。

「勢いで東京に出てきたのですが、当時は売上が立たなかったので、裏原宿のオフィスを『Airbnb』で、1泊3000〜4000円で旅行者に貸し出していたんです。そしたら、シリコンバレーで働いていた、本場のエンジニアが泊まりに来て。その時、私が目を付けていたのが『写真ケーキ』。ほとんどのサービスが、注文するのにケーキ屋と電話で写真の位置を決めてと、すごくアナログなやり方で作っていたんです。『これ、僕らならネット上で完結できるよね?』と、エンジニアの彼の力を借りて、1週間でサイトを作ってローンチしたら、3秒で売れました。それが今の『PICTCAKE』です」

「本当に運が良いんです」。長沼さんは、この言葉も繰り返し言っていました。飽きっぽいからこそ数を打つ。動いた数は縁をつくり、運を呼び込む。そう考えると、決して運という偶然だけには思えませんでした。自分の性格を見極め、行動を重ねていく、それは才能にもなっていくのかもしれません。

 

失敗しても戻れる場所をつくる。

BAKEは創業からわずか3年で、年商30億円を超える企業になりました。なぜ怒涛の勢いで突き進めるのか、それは長沼さんに戻れる場所があるからでした。

「私は父の会社『きのとや』が北海道にあるので、リスクテークしやすい環境にいたのは間違いないです。何かあったとき、最悪北海道に帰ればいいと思っていました。それから、自分が周りの優秀な人には勝てないことも分かっていた。だから、周りがやらないお菓子なら、父のリソースやバックグラウンドを最大限に使えば、圧倒的に勝てる気がしていました」

コピーライターをしている僕は、実家が商売をしている二代目ではありません。このコラムの読者の多くも、僕と同じだと思います。そんな自分にとって、戻れる場所とは何だろうか…。そう思ったとき、長沼さんは続けてこう語ってくれました。

「祖父の影響も強いです。小樽で金融業を一代で始め、築き上げた人です。中学、高校時代に祖父からよく言われたのが『お前は若いんだから、道にゴザを敷いて商売をしろ』ということです。そうすれば、最悪そこに戻って来られるから、と」

戻れる場所は自分でつくれる。僕は2009年にコピーライターになってから、目の前の仕事にがむしゃらに取り組んできました。自分には無理かもしれない、向いてないかもしれない、正直、弱気になったこともあります。それでも、仕事がたまらなく面白くてずっと続けてきました。仕事を通して身に付けたコピーを書く力。それは、素敵な言葉を書く力ではなく、いい考えを言葉にして人の役に立つための力です。

この力こそが、僕の戻れる場所でした。これから僕がどんなことに挑もうとしても土台として僕を支えてくれるはずです。リソースがなければ、つくればいい。長沼さんにも、450人もの従業員という仲間がいます。それこそがきっと、長沼さんが育ててきた戻れる場所なんだろうなと感じました。

以上が、潔く前に進むための3カ条です。長沼さんから教わったこと、それは、自分が本当に信じられる一点に力を集中して突破していくこと、自分の性格を見極めて、強みを生かしながら行動を重ねていくこと、そして戻れる場所を意識しながら、前向きに挑戦していくこと。自分の道をつくるヒントをたくさんもらいました。

特別編としてお届けした長沼さんのコラム。著書『待っていても、はじまらない。-潔く前に進め』には、他にも潔く前に進むヒントがたくさんあります。ぜひ、感じてもらえたらと思います。