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電通報ビジネスにもっとアイデアを。

【続】ろーかる・ぐるぐるNo.101

面白ければ「アイデア」ですか?

2017/02/09

一月、わが家はにぎやかでした。2日に遊びに来てくれた会社の後輩一家を振り出しに、テニス仲間やら仕事仲間やら、計5回もホームパーティー(というより宴会)をやったから。それに加えて以前もご紹介した同期入社でカメラマンの大串祥子さんが銀座で開いた個展のため2週間ほどわが家に滞在していたので、毎晩の一杯もついつい飲み会に盛り上がってしまったのでした。

飛翔する僧侶

今春、彼女は写真集『少林寺 Men Behind the Scenes II』を刊行しました。中国禅宗発祥の地、嵩山少林寺を舞台に少林武術に取り組む若き僧侶たちの姿を収めた一冊。3年にわたってその日常に密着し、立ち入り禁止エリアでの撮影も許可されたのだとか。伝統と鍛錬によって磨かれた技の数々は迫力満点です。

この少林寺以前にも彼女が選んだ被写体はとてもユニークです。ウィリアム王子も卒業なさったイギリスの全寮制名門パブリックスクール、イートン校の生徒。ドイツ連邦軍で兵役に当たる若者たち。コロンビア軍の麻薬撲滅部隊などなど。撮影も大変そうですが、それ以上にどうやって撮影許可をもらうのか想像できないくらい、難しそうな相手ばかりです。「なんか特別なコネでもあるの?」と聞いたところ、彼女の答えは「アイデアが明快だからよ」。

美僧

 

「秩序・階級・制服・規則・不条理だらけの男性社会を女性目線で切り取る」

皆さんはこれをアイデアだと思いますか?「アイデアとは面白いもの」と定義する人にとっては、笑えるものでもないし、物足りないかもしれません。実際、大串さんが「わたしのアイデアは、これ」と説明すると、キョトンとされることも少なくないようです。しかしロンドンにある世界的な大学で写真を学んだ彼女にとっても、一介の広告屋さんであるぼくにとっても、これは立派な「アイデア」です。

理由は「新しい」「視点」だから。

アイデアとは今までの常識を覆す「視点」でなければなりません。大串さんのそれは、明らかにモノの見方を問題にしています。

そしてその視点に従うと、従来のアプローチでは浮かび上がらなかった具体策に結びつきます。たとえば従来「少林寺」はスポーツや文化という側面から切り取られてきました。しかし、それでは大串さんが言うところの「美僧」(そんな単語は広辞苑にも載っていませんが)なんて、浮かび上がりません。「女性の目線」で切り取ることによって初めて少林寺の「新しい」側面が発見されました。

このように大串さんの言葉は「新しい視点」だからアイデアです。アイデアとは、その「視点」を理解する人(ある種のプロ)にとっては面白いものですが、それ以外の人にとっては笑えるものでもなし、どこにワクワクするのかもピンと来ない、そんなものです。

拳を突く僧侶たち
拳を突く僧侶たち

もちろん彼女に尋常ならざる行動力があることは言うまでもありません。イートン校を卒業制作のテーマに選んだとき、彼女の指導教官の反応ですら「アイデアは面白いけど、許可が下りたらの話だね」と最初から無理だと思っているような、冷淡なものだったそうです。

「その手があったか」というアイデアを、「そこまでやるか」というプロフェッショナルな写真技術を駆使し、「そんなことまで」という企業家精神で実現させてしまう友人の姿はとても刺激的です。男性の美と謎を追求する写真家の第一人者として、次に選ぶテーマが何なのか。密かに楽しみにしています。

大串祥子さん
大串祥子さん

個展が終わり、大串さんが佐賀に戻ると、わが家の中はガランとしました。妻も母も、少しさみしそうです。

ちなみに写真集はこちらから。