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PR視点のインバウンド戦略No.4

インバウンドにおける地域ブランディング

2017/02/14

「地域資源」と「魅力度」の相関関係

ブランド総合研究所が2006年から実施している「地域ブランド調査」の2016年の調査結果を見ると「地域資源」と「魅力度」には相関関係があり、地域資源ランキングの上位は、魅力度ランキングの順位も高い都道府県が多いことが分かります。中にはギャップが生じている県もありますが…。

「地域ブランド調査」は国内約3万人の消費者を対象としたものですが、トリップアドバイザーが発表している「外国人に人気の日本の観光スポットランキング2016」を見ても、地域資源の重要性が見えてきます。インバウンドにおける地域ブランディングを考える際には、「地域資源」と「魅力度」の相関関係を意識する必要があります。

 

地域ブランディングには、「外から目線」の客観的な「俯瞰力」が必要

観光庁の「訪日外国人消費動向調査」によれば、訪日外国人観光客の2人に1人が2大都市圏以外の地方を訪問しています。地方のみを訪問している訪日外国人観光客の訪問(活動)対象には、「自然・景観地観光」(65%)、「温泉入浴」(50%)、「旅館に宿泊」(47%)、「日本の酒を飲むこと」(36%)などが挙がり、ショッピングといった「モノ消費」から歴史・文化や精神的な癒やしの享受による体験型の「コト消費」に興味・関心が広がっていることがうかがえます。

 

地方には訪日外国人観光客にとって魅力的な地域資源を抱えていますが、個別の地域資源を活用して、地域全体の魅力度を高めていくためには、地域ブランディングという考え方が必要になります。地域ブランドを確立していくためには、個別の地域資源を一つにまとめ、第三者の「外から目線」で地域資源全体を俯瞰する客観的な評価・判断が重要になります。こうした評価・判断のプロセスを経て、地域の価値最大化としての地域ブランドが生み出されます。

地方に行くと「ここには何もない。ただ人がいて、風景があるだけ」と謙遜する声をよく聞きます。しかし、いろいろ掘り起こしてみると、歴史の中に素晴らしいエピソードがあったり、文化やスポーツという切り口で興味深いコンテンツが見いだされたりすることがあります。

確かに、その地域の中の人たちだけで自分たちの地域のことを見つめ直し、魅力を再発見するというのは結構難しいことかもしれません。内輪の議論でセールスポイントは温泉やグルメだと狙いを定めても、それに訪日外国人観光客が魅力を感じなければ何の意味もありません。

そんなときには、誘致したい国・地域のターゲットとなるネーティブの着眼点やわれわれのようなコミュニケーションをなりわいとする第三者の「外から目線」を活用することで、地元の人が気付かずにいた、“当たり前”のものが黄金の宝にもなり得るのです。

昨年11月に発表した書籍『PR視点のインバウンド戦略』(著者:株式会社電通パブリックリレーションズ/電通公共関係顧問(北京)・鄭燕/日中コミュニケーション株式会社・可越)の中で、中国の大手新聞社の女性記者が北海道に行ったときのエピソードを取り上げています。

彼女は北京の出身で、北京の冬はマイナス10度くらいになることもあります。取材後に彼女が中国に帰って書いた記事のタイトルは「北海道は暖かい」というものでした。この記事は中国国内のいろいろなメディアに転載されて大きな反響がありました。

日本では、「北海道は寒い」というのが常識です。日本人にとっては当たり前のことであっても、視点を変えれば当たり前ではなくなることもあり、第三者の「外から目線」での気付きの視点の一例ではないでしょうか。

最近何かと話題になっている自治体の動画制作のように、個々の地域資源を抽出し、さまざまな視点でその魅力を積み上げていくことで、地域のマーケティングとコミュニケーションの支援につなげていく手法もあります。

しかし、インバウンドにおける地域ブランドを浸透させるためには、第三者の「外から目線」で地域資源全体を俯瞰し、想定する国・地域のターゲットの腑に落ちる「文脈構築」と「文脈発信」の情報流通構造に基づく情報流通デザインの設計が欠かせません。

地域ブランドは短期間では育ちません。戦術はもちろん大事ですが、第三者の「外から目線」で地域資源全体を俯瞰し、こうした情報流通構造に基づくコミュニケーションが地域ブランドを中長期的に支えていくことにつながります。

次回の最終回では、インバウンド戦略に欠かせない、PRの果たすべき役割をテーマにした話をお届けします。