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顧客感情を可視化するカスタマージャーニー作成法

広告以外で、デジタルマーケティング №2

  • 魚住 高志

2017/03/15

顧客感情を可視化するカスタマージャーニー作成法

今回は、前回お伝えした「顧客体験をマネジメントするソリューション」の詳細についてお話しします。
まず「デジタルマーケティング」という言葉ですが、一般的にデジタルに閉じたマーケティング活動や、デジタル広告だけで語られることがあります。本連載では、デジタルマーケティングとは、リアルなマーケティング活動さえも高度化するものであると考えます。
その中で、私たちは、リアルとデジタル双方の顧客接点を通じて企業が提供する「広義なサービスの顧客体験」を評価する手法「デジタルトランスフォーメーション支援サービス」を株式会社Emotion Techと開発し提供しています。顧客体験価値を分析し、企業のサービス提供上の課題を発見した上で、デジタルやITを活用した解決策を提案しています。今回はこの分析手法について事例も交えながら紹介します。

カスタマージャーニー作成にありがちなこと

サービス開発の際「カスタマージャーニー」を描くことが多くあります。このカスタマージャーニーの描き方は多種多様なアプローチがありますが、主にはワークショップ形式で関係各所から集められたメンバーたちが意見を出し合い、共同で描いていくといったやり方が多いのではないでしょうか。

この時、常々違和感を覚えるのが、ジャーニーマップ内の生活者導線に沿って、「顧客の気持ち」や「顧客のモチベーション」なる波グラフ枠を設け、導線上の各ポイントで顧客の感情の遷移をフリーハンドで何となく描いていることです。

つまり、「気持ち」や「モチベーション」とは何なのか、またグラフ縦軸の「尺度」は
何なのかが明確でないまま、定性的に何となく作成されることが多いため、ワークショップ形式で多人数の工数をかけたにもかかわらず、具体的な施策実行には費用対効果が見えず、結局ジャーニーマップを作成するだけで終わる…という結果に陥りがちな気がするのです。

顧客体験価値(CX)を可視化する

「デジタルトランスフォーメーション支援サービス」のコンセプトは、「顧客体験価値を可視化する」つまり「顧客感情の可視化」です。定量的に顧客感情を把握することで、施策実行の妥当性と投資効果の明確化をサポートします。

それでは、「デジタルトランスフォーメーション支援サービス」について具体的に説明します。可視化に用いるCX調査は、一般的なCS(顧客満足度)調査とは項目数に違いがあります。CX調査は、基本的に以下の3項目のみです。

①サービスの総合推奨度(スコア0~10)
②サービスを11個のシーンに分解しそれぞれが総合推奨度へどのように影響したか(加点、減点、どちらでもない)
③影響を与えたその理由(フリーコメント)

CX調査の質問項目が少ない理由は、この3項目だけで分析可能なこと、またサービス改善結果の継続的な調査を想定しているので、できるだけ顧客への負担を減らす必要があるためです。

例として、とある不動産仲介業(マンション事業部)の事例を取り上げます。従業員は1500人ほど。近年、競合他社に水をあけられる中で、営業活動の改善を図りたいという課題があります。そこで、営業業務上の課題点と改善ポイントを明確にするため、モデルルーム来訪後の見込み客に対して3問の調査を実施し、後日実際の成約データと付き合せる分析を行いました。

顧客の感情データの取得
 

まず、目的変数を成約データとし、その説明変数をQ1の推奨度とし単回帰分析をかけると、推奨度が1ポイント上がれば成約率が1.4倍強になることが分かりました。そこで、次は、何をすれば推奨度が上がるのかを分析していきます。

 
 

Q2の「加点に影響した」「減点に影響した」「どちらでもない」の回答を0と1に数量化し、今度はQ1の推奨度を目的変数に、Q2の1~11の各営業サービスシーンを説明変数にして数量化1類を実施します。すると、各シーンが推奨度をプラスあるいはマイナスへ向かわせるのかという影響度を可視化できます。

さらに、Q1に対する影響の強さの〝中身〟が可視化される
 

上図の「Current State」の②のグラフが、各シーンの推奨度に与えるプラスとマイナスの影響度です。そして「Impact Power」の①のグラフがプラスとマイナスの影響度の絶対値のインデックス。「Current State」の③のグラフはプラスとマイナスの影響度の差分値とそのインデックスです。①が示すことは「良くも悪くも顧客の推奨度に影響を与えやすい度合い」で、②が示すことは「実際に推奨度に対して総合的にプラスなのかマイナスなのかを示す度合い」です。
この結果をカスタマージャーニー風に落としてみると下図のようになります。

顧客の感情を鮮明に可視化することで、手を打つべき点を浮き上がらせる
 

横軸は、企業が提供するサービス(本件では営業サービス)の時系列にそった各シーン。縦軸は、成約と相関性を持つ推奨度に対する影響度です。緑の曲線グラフは先の①に当たる「顧客への良くも悪くもの影響度の強さ」を示し、ピンク色のグラフは先の③に当たる「実際の影響度の強さ」を示しています。
この結果を見ると、CX調査Q2の5「こちら(お客さま自身)の要望を踏まえた提案」とCX調査Q2の6「質問に対する的確な応答」活動のサービスシーンが、顧客推奨度に対して影響度を持つ活動である割には、マイナス評価を受けてしまっているのです。
では、各活動のどのような点がマイナス評価を招いてしまっているのか、その理由を知るには、先の調査のQ3の自由回答を活用します。自由回答もテキストマイニングにかけ数量化し説明変数にしてQ2を目的変数にして同じく数量化1類を実施します。こうすることで、回答された自由回答の中でも、特にどのような理由が評価に影響したのかを把握できるのです。本分析においては、「こちら(お客さま自身)に適した提案がされていない」や「聞いていないことばかりしゃべる」といった理由がマイナスの影響度を招いていることが分かりました。
このような分析を通じ、顧客体験価値を毀損するタイミングの把握と、それらを改善することで得られる成果をある程度推定することが可能となります。
そこで本事例の結果にもあるような「顧客理解不足」を解決すべく、前回の記事で紹介した、営業職員の顧客理解深化による適切な営業活動を支援するデジタルマーケティング施策の導入が進んでいます。

以上のような方法で「顧客感情の可視化」に取り組んでいます。どこか右脳的なアプローチで語られがちなカスタマージャーニーですが、このような積み上げ式な描き方も参考していただければと思います。
またこのように、企業が提供するサービスがデジタルだけでなくリアルもチャネルとなっている以上、「デジタルマーケティング」はデジタルで閉じたマーケティング活動だけを示すものではありません。またデジタルマーケティングというと手法セントリックになりがちですが、まずは顧客体験上の課題セントリックで考え、それらの解決には手法のみならず、業務プロセス改善や組織改編までもが必要となってくるのです。よって最近は、そのような課題についてITやデジタルを用いて解決する取り組みを「デジタルトランスフォーメーション」と称して、「デジタルマーケティング」と区別しています。
次回以降でこのデジタルトランスフォーメーションを支援するフレームワークについて紹介していきます。

※ご紹介した調査手法や統計解析手法を基にしたいくつかのアウトプットフレームは、Emotion Techが申請中の特許範囲に該当しています。