広がりゆく動画視聴体験の「見取り図」を描く

動画サービスの未来像 №4

  • 美和 晃

2017/03/21

広がりゆく動画視聴体験の「見取り図」を描く

情報メディア白書2017』の巻頭特集では、「百花繚乱の動画メディアは私たちの日常の中でどう棲み分けているのだろうか」と題し、多種多様な動画サービスの利用意識に迫る調査の結果を取りまとめた。

「動画」と一口でいっても、それを目にする機会は劇場での映画鑑賞に始まり、テレビ放送、DVDなどのパッケージ、ネット配信ないし共有サービス、さらに近年ではソーシャルメディアでのコミュニケーション、電車のディスプレーやビルの屋外ビジョンなど、ますます広がり続けている。そこで、利用者が多彩な動画メディアやサービスの視聴体験から感じる印象が、どこまで共通し、どこで異なっているのか調査することにより、動画体験にまつわる現在の「見取り図」を利用者視点で作成することにした。

図表1に示すように、この調査では26種類の動画メディアや動画サービスを対象とし、それぞれの印象を尋ねた。

そして、これら26種類の動画メディアやサービスから利用者が感じ取る印象について23項目を設け、それぞれが当てはまるかどうかを尋ねた。回答結果は七つの領域へと統計的に分類した(図表2)。

動画メディア利用者が感じるこれら23の印象とそれをくくった七つの領域との対応関係を簡単に整理してみたい。

「社会トレンド感」と名づけた領域には、世の中へとつながり、話題や流行が入ってくることを表す動画体験の印象項目が並ぶ。

「フィット・親和感」の領域には、「暇つぶし」などの日頃からの習慣性を示す印象項目に加え、「情報を効率的に得られる」といった使い勝手の良さに関する印象項目が含まれている。

「追従・進展感」の領域は、動画を通じて、関心ある人物の動向やものごとの成り行きに立ち会ったり情報を追い掛けたりする感覚を示すような項目で占められている。

「セレンディピティ感」とは、“思いがけない偶然の出合い”という意味の言葉で、近年しばしば使われるようになった。この印象領域には、動画を通じた周囲の友人・知人とのつながりや新しい関心事の広がりの起点となる情報や知識への意外な出合いの感覚が含まれている。

「ノリ・高揚感」の領域には、「盛り上がり」「気晴らし」「楽しくハッピー」など、素直な感情の高まりとともに、それを共有する相手との一体感の感覚まで広くカバーされている。

「没頭感」の印象領域は、これとは対照的に興味や関心の向くまま時間を忘れてひたすら映像と向き合う感覚を表す項目がまとまっている。

「選択感」の領域には、「見たいときに」「何度でも」というふうに、同じく自分本位でコントロールしている感覚の印象項目が並んでいる。

こうして分類した七つの印象領域、23の印象項目のお互いの近さや遠さを見取り図として表現してみると次の図表3のようになる。

 

 

この印象マップに26種類の動画メディア・サービスの位置付けを大まかに重ね描いてみる(図表4)。

 

ここではいくつかの特徴的な印象領域との距離が近い動画サービスについて、それらの位置取りを確認するとともに利用者視点から見た主な価値を考えてみたい。

放送による動画体験は出合い・気付きのための“のりしろ”

放送サービスのうち、地上波テレビが世の中の大きな社会トレンドを感じさせる印象領域付近に位置しているのに対し、BSやCS・CATVの多チャンネル放送は「セレンディピティ感」の領域に近い。BSやCS・CATVの多チャンネル放送視聴者にとってのセレンディピティとは、単純なる「偶然」ではない。それはむしろ興味・関心を傾けて視聴するうちにたどり着く「これは自分が探していたものだ」と感じられる「気付き」のことを意味しているのではないだろうか。同じ放送でも、地上波による動画体験は世の中の幅広い動きを「押さえる」ため、またBS・CS・CATVでは、視聴者自身にとってしっくりくる「気付き」を得る上で必要な“のりしろ”ないし“あそび”の役割を持っているといえる。

VOD配信による動画体験は“自己解放”

動画配信サービスの多くは「ノリ・高揚感」の印象領域付近に並んでいる。このうち印象領域の下の方にある放送局の有料配信は図表3の印象項目で見ると「共感・盛り上がり」とか「参加感・メンバー意識」といった側面が強い。人と話題にしやすいとか、盛り上がりのネタになる、といった放送コンテンツが喚起する性質が、時と所を変えた配信型サービスの中でも生きているのかもしれない。他方、dTV、Hulu、Netflix、Amazonプライムビデオなどの有料配信は「自分の興味に特化」「楽しくハッピー」「気晴らし・発散」といった側面が強い。大きくいえばYouTube、放送局の見逃し配信、ニコニコ動画などもこの領域に近い。多様な動画ラインアップの中で利用者の興味にマッチするコンテンツが呼び水となり、自己を解放されるきっかけを配信サービスが担っているといえる。

ライブ配信・SNSによる動画体験は新たな“臨場感覚”

AbemaTV、LINE LIVEなどのオンデマンド型でない配信サービスやInstagram Stories、FacebookライブなどのSNSサービス内の動画ストリーミングサービスなどが「追従・進展感」の領域付近にプロットされ、また、ツイキャスなどいくつかは「セレンディピティ感」の方に並んでいる。これらの比較的歴史の浅いサービスにおける動画が果たしている主な役割とは、後戻りしない時々刻々の出来事の変化に、今、まさに立ち会っている感覚、つまり「場に臨んでいる」という意味での「臨場感覚」だろう。

歴史を振り返ると、インターネットの普及以前の時代には、動画を通じて「セレンディピティ感」「ノリ・高揚感」「追従・進展感」などの多様な印象や感覚を味わえる日常的なサービスは、地上波テレビ放送だけだったのではないだろうか。しかし、放送は、その後、現在に至るまでBS、CS、CATV、IPTVなどへとチャンネルを広げているし、ネット上では動画配信・共有からソーシャルストリーミングまで放送以外の新しいサービスが続々と登場・普及してきた。かつてないほど身の回りに動画があふれる中で、さまざまなサービスが互いの特長を生かして棲み分ける時代に入ったといえそうだ。

『情報メディア白書2017』では、さらに、これらの多様な動画メディアが一日の時間の流れの中でどう使い分けられているのか、分析を試みた。「動画」の時代はまだ幕を開けたばかりといえる。2016年に大きな話題になったバーチャルリアリティーを含め、これから普及すると思われるさまざまな動画メディアや動画サービスが、人の感覚をどのように押し広げ、生活にどう浸透していくのか、ますます注目される。

 

「情報メディア産業の動向」の章「広告・プロモーション編」の目次からトッピックスを紹介。
詳細なデータや論考の完全版は書籍『情報メディア白書2017』をご確認ください。

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