柔軟で違和感のあるキャラクターが強い
2013/12/11
──企業キャラクターのデザイン開発はどのように進められるのですか?
アートディレクターの糸乗健太郎(電通 第3CRプランニング局)とのユニットでクリエーティブ開発を行うことが多いですね。前回お話しした「ポンタ」のクリエーティブも彼と担当しています。通常は僕のコンセプトワークやネーミングなどのコピーワークに、アートディレクターの造形的なアイデアを重ねながら、そのやりとりの中で世界観の設定も含め最終的なブラッシュアップをしていきます。キャラクターだからアートディレクターが絵を描けば完成という考え方ではなく、企業キャラクターにはコミュニケーション戦略から導き出されるコンセプトがあって言葉やデザインがある。当然、デザイン開発の先には広告表現をはじめとした様々なクリエーティブ展開の企画、制作もあるので、必然的にこの体制が確立しました。
また、汎用性、展開性というのが非常に重要だと思ってます。キャラクターの柔軟性と言ってもいいかもしれない。例えば、過剰な装飾や演出はしない方が、立体化や動画化、様々な売りの現場からマスまで多メディアで使っていく上で運用しやすいですし、目印としてもシンプルさは有利に働くことが多い。ただ、シンプルな中にも、もちろん何かしらの「トゲ」「クセ」みたいなものをつけないとオリジナリティは生まれないのでそこは注意しつつ。企業キャラクターの第一の目的はまず生活者に振り向いてもらうことですから、違和感を感じて思わずつっこみを入れたくなるポイントを必ず埋め込むことを常に意識しています。
──直近では、テレビ東京の局キャラクター「バナナ」(※名称公募選定中)も手掛けられていますね。
2014年の開局50周年を控えた節目に、新たな局キャラクターをデビューさせるというクライアントさんからの依頼が始まりです。このキャラクターも糸乗と担当しています。「他のテレビ局と一味違う番組づくり」という、テレビ東京さんの姿勢を体現するオリジナリティと識別性を持ったキャラクター開発のために、まず競合分析からはじめました。
その中で、他のキー局さんのキャラクターは全て動物をモチーフにしていたため、造形的にそれらと被らない完全な差別性を追求すること、またコミュニケーション課題であるテレビ東京=「7チャンネル」を浸透させること、などを強く意識し練りに練ってたどり着いたのがバナナ!(笑)。 7(ナナ)だから「バナナ」ってただのダジャレ?という感じも受けるかもしれませんが、そのストレート感がキャラクターと企業を簡潔にリンクさせる土台として非常に重要になってくる。また、キャラクターはモチーフが分かりやすいものや、モチーフ自体が親しまれているものの方が愛着や信頼感を醸成しやすい。世の中に動物をモチーフとしたキャラクターが多いのもそれが一因だと思います。今回は動物を避けるという方針の中で、バナナというモチーフはテレビ局のキャラクターとしての意外性に加え、老若男女に広く親しまれている食べ物のため、テレビ局の幅広いターゲット設定にもマッチすると考えました。
──バナナが予想に反して「7」に曲がるというギミックも効いていますね。
「バナナが7に曲がる」というアイデアが同時に出なければこのキャラクターは提案しなかったかもしれません。「7チャンネル」を浸透させる上で「バナナ=7(ナナ)」という言葉のつながりだけでは、やはりまだコミュニケーションのスピードとしてもの足りないですし、果物のバナナの形状をそのままキャラクター化しただけではオリジナリティやひっかかりは弱い。この今まで見たことのないような違和感のある動きは、キャラクターの大きな差別化ポイントであり、訴求ポイントになると考えました。
──既にグッズ展開もされているようですが。
実は提案の時点でキャラクターグッズの展開も、こんなものを売り出したらどうかというアイデアをいろいろと提案させて頂いたんです。シンプルな造形がグッズの展開性を広げてくれるというポイントに加え、食べ物という設定も展開の可能性を感じさせます。企画段階で、実際に世の中に出たときの広がりがイメージできることは、企業キャラクターの開発や選定における必須要件だと思います。
今後は、特にウェブを中心に、個人発、企業発のキャラクターが次々とデビューしてきて、混然とした状況が続くと思われます。そんな中だからこそ、ただかわいいだけでなく、戦略性を持った企業キャラクターの真価が発揮されるんじゃないでしょうか。