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企業キャラクターをソリューションへNo.4

Suicaのペンギンはこうして生まれた

(前編)

2014/01/08

誕生から13年を迎えた、おなじみのJR東日本さんの企業キャラクター「Suicaのペンギン」。もとは一冊の絵本の中に住むペンギンでした。この日本一有名なペンギンは、どのようにして生まれ、育てられてきたのでしょうか。今回は原作者で絵本作家の坂崎千春さん、アートディレクターの田中友朋さん、ライセンスを統括する栗林秀樹さんを招き、「Suicaのペンギン」による企業コミュニケーション展開の秘密を聞いてみました。

【ファシリテーター】
・電通 マーケティング・デザイン・センター 山本 達也さん
【座談会参加者】
・絵本作家 坂崎 千春さん
・電通 マーケティング・デザイン・センター 田中 友朋さん
・電通 ラジオテレビ&エンタテインメント局 栗林 秀樹さん
 

絵本のペンギンが企業の顔になったワケ

山本:もともと絵本など原作のあるキャラターが、オリジナルで開発されたかのような企業キャラクターとしてサービスの象徴になっていくことは珍しいケースだと思うのですが、まずはその経緯を聞かせていただけますか?

田中:Suicaのペンギンが初めて使われたのが2001年。当時広告の顔になれるものを探していました。坂崎さんのペンギンの絵本を見つけて採用したのは、僕の先輩アートディレクター。初期は、私はまだ参加していませんでした。坂崎さんどうでした?

坂崎:そうでした。一番最初は確かSuicaの導入キャンペーンのポスターにペンギンのイラストを使いたいというお話で、正式なSuicaのPRキャラクターにということではなかったと記憶しています。

田中:デビューから少し空いた2003年7月、新体制チームでの作業で、新「ビュー・スイカ」カードのローンチをすることとなり、「V」を頭に付けたペンギンを出しました。そこから第2期。ほぼ同時に「こんなにかわいいなら」というクライアントさんの英断で、Suica券面にもペンギンキャラクターが入ることになったと思います。それらで露出が一気に増えたこともあり、Suicaのコミュニケーションもペンギンをキャラクター化し、サービスの象徴として本格的な活躍が始まります。

坂崎:もともと絵本には存在しなかった、真正面を向いたペンギンの顔が使用されるようになったのもこの頃からですね。

田中:そう、「ビュー・スイカ」が始まるときに、斜めの顔と正面顔と両方つくったんだけど、そのとき真正面顔って切り抜くとロゴマークにも見えるね、みたいな話になって。しばらくは全部前向きに統一させてもらって、これまでよりキャラクターデザインをシステマチックに展開することにしました。その後は、逆さになったポーズとか、“チャージ”機能付きだからと“ジャージ”を着せたりとか(笑)。坂崎さん、いつも無茶をお願いしてすみません(笑)。

CD :大島征夫 + 山本高史
AD:田中友朋 + 小島洋介
CW:上田浩和

山本:確かに今では正面向きのペンギンは、Suicaのアイコンとしてかなり強く機能しています。ただ、坂崎さんには原作にはないデザインも含め一気にいろんな制作依頼が来るようになった中で、これはできない!みたいなこともあったりしたのではないですか?

坂崎:できないというよりは自分はどうしてもペンギンとしての動きにとらわれちゃうけど、みなさんはもっとキャラクターとして自由に動かす感覚で、それが面白かったです。

山本:いま、面白かった、とおっしゃいましたが、最初はご自身の創作活動として自由に描いていたキャラクターが、企業やサービスに表現をある程度合わせることで自分の意志とずれるような場面も増えてきたと思うのですが。

坂崎:自分がもともとアーティストというよりはデザインの方面にいたので、自分のものというよりは、何かのために描いているみたいなところがあって。必要に合わせて変えるっていうことにあまり違和感がないんです。他の方と組んでやるときは、いいなと思われる方向は試してみると面白いという感覚があります。

田中:坂崎さんとの信頼関係をベースに、クライアントさんとの信頼関係も含めてこのチームは「ダメ」の領域が比較的少ないんだと思います。あとは、こうやってチーム全体がお互いの雰囲気を知っているっていうのが重要なのかもしれません。

山本:企業キャラクターを育てるためには、クライアントさんとの関係づくりも重要ですよね。

田中:クライアントさんの関係者がみんなペンギン大好きで。「今回はどんなかわいいのになるの?」みたいな期待感をいつも持ってくれていて。

山本:本当にそこが大切で、もちろん最終的には生活者の愛着が重要なわけなんですけど、まず、クライアントさんが、とくに担当の方がファンにならないと。制作者サイドだけで盛り上がっていても、先方の担当者が愛着を持っていないとやっぱりうまくいかない。

あえてキャラクターには名前をつけない

山本:今回ぜひ聞いてみたかったことがあって。Suicaのペンギンって実は名前がないという大きな特徴があるじゃないですか? いわゆる、○○太郎みたいな名前が。何か意図はあるんですか?

田中:坂崎さんの絵本を見るといろいろなペンギンがいるんです。帽子を付けると女の子になるし、ひげを付けるとおじいさんだし、子どももいたりとかして。たとえば「J太郎」とかにすると、その段階で男になっちゃうでしょ。そうではなく、このペンギンは「ジャンル」なのだと。

山本:「ジャンル」って新鮮ですね。え~と、…つまり何なんですか(笑)?

田中:それぞれの生活者が所有するICカードの分身なんです、このペンギンたちは。初期のCMを見ると分かるけど、たとえば、使用者の横に必ずペンギンがいて、Suicaと一緒におでかけしましょうって。ピッと手をのばすと、ペンギンがICカードに変わるっていうストーリー。ひとりひとりのカードの分身だから、名前を統一するのもおかしいじゃないですか? ニュートラルさは、汎用性や展開性にもつながると考えた。であれば、「Suicaのペンギン」っていうジャンル、つまり、分類くらいがちょうどいい。

山本:なるほどー。キャラクター育成のセオリーからいうと、名前があったほうが生活者もより愛着を持ちやすいと思うのですが、「Suicaのペンギン」はジャンルだと(笑)。でも、しっかり生活者の心をつかんでいる。

田中:それは多分、はじめに坂崎さんのつくった世界観があったからでしょう。もしこれが、ゼロから企業キャラクターをつくってくださいという話なら、ジャンルというふうには普通考えられない。原作の世界観の力って大きいと思います。デザインに関しても、
世界観があるからこそ、平面とか、立体とか、ロゴマークとか、結構な差異がある中でもちゃんと一つのキャラクターとして見えてくる。

山本:原作があるキャラクターの企業キャラクター化ならではの大きな特徴ですね。世界観の話になりましたが、イラストをキャラクター化するには必ず、生活者が感情移入できるように性格付けをはじめとしたヒト化が必要になる。確かに、そもそも原作絵本のペンギンの設定は妙に人間くさいですね?

坂崎:もともと擬人化しているっていうか…。特に最初の絵本『ペンギンゴコロ』は、自己をペンギンに投影している話だったので。

山本:あ、ということは、ペンギンのモデルって坂崎さんだったりするんですかね?

坂崎:(笑)

(※後編は1/22に更新予定です。)