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企業キャラクターをソリューションへNo.5

Suicaのペンギンはこうして生まれた

(後編)

2014/01/22

JR東日本さんの企業キャラクター「Suicaのペンギン」。原作者で絵本作家の坂崎千春さん、アートディレクターの田中友朋さ ん、ライセンスを統括する栗林秀樹さんを招き、「Suicaのペンギン」による企業コミュニケーション展開の秘密の後編をお届けします。※前編はこちらから。

愛されるデザイン・機能するデザイン

山本:今回はまずデザイン制作に関してお聞きしたいと思います。以前から気になっていたんですが、ペンギンの身体の線には特徴的な細かい揺れが付けられていますよね?

坂崎:はい。もちろんつるんとさせることもできるんですが、好みとしてちょっと手跡が見えるような線が好きっていうのがあって。手描きのゆがみが味になるというか。

田中:また、あのブルブルが相当いいんですよね。圧倒的にやわらかく見えるし、身近な感じに見える。簡単にMacでぱっぱっとやっているのではない、時間をかけて描いている感じ、積み重なっている感じがちゃんとあります。こういうのが確実にSuicaのペンギンの重石になっていて、昔ながらのアートの世界の印象がうまく出ているんだと思います。

山本:細かい部分からの雰囲気づくりが、クオリティーと愛着を感じさせる一因にもなっているんですね。色に関しては、黒いキャラクターはアイキャッチャーとして目立ちづらいと一瞬思いがちですが、ここまで世間に色があふれていると、このシンプルさが逆に際立つ要因なんですかね?

田中:目立ちますね。黒と白の組み合わせって、最強の明度差だから。あと色が入っていなくてすごく助かるのは、ブランディングでは絶対必要なクライアントさんのコーポレートカラーやサービスカラーなどを入れやすいじゃないですか? なので、モノトーンのほうが実はやりやすかったりする。


広告とグッズの密接な関係

栗林:クリエーティブのそういう考えを踏襲して、グッズも最初のころは黒、白と、JRさんのコーポレートカラーの緑、この3色しか使えなくて苦労しました(笑)。

山本:お、ここで商品化ライセンス担当ならではの苦労話ですね(笑)。Suicaのペンギンでもう一つ大きいと思うのが、販促用のノベルティーから販売用のグッズまで、すべてのアイテムのトーン&マナーが統一されていること。ここまでグッズのブランディングがしっかりなされている企業キャラクターはなかなか無いのではないかと思います。

田中:先ほどの栗林君の話の通り、グッズ展開に関しては当初、デザインがバラバラになるのが嫌で、ペンギンの黒と白、Suicaのキーカラーである緑しか使ったらダメ、イラストも3種類しかダメと、かなり厳しく管理した時期が続いたんです。

栗林:ちょうど10年目に入ったくらいから、広げていく時期に入ったということで使える色もデザインもぐっと増えてきました。

田中:はじめに基準を厳しくしておいたことで、クライアントさんも含めスタッフの中で「こういうことはやっちゃいけない」というクオリティーに関する意識の共有がなされ、グッズのラインナップが増えてもブランドが保たれているんだと思います。

山本:坂崎さんはグッズ化したもので、特に思い入れがあるものはありますか?

坂崎:いろいろなお話を頂きますが、個人的にトランプはうれしかったですね。でもたまーに、これは•••というのもあって、栗林さんと二人で頭を悩ませることもあります(笑)。

田中:キャラクターには、進化させるところと変えないところがあって、例えば毎回同じようなフォルムだと飽きちゃうから、ちょっとずつ変えていくとか。グッズの物販もそうだし、販促用のカレンダーを見ても微妙に変化していると感じるんですけど、坂崎さんは意図的にやっているんですか?

坂崎:やっぱり世の中の動きとか、広告の企画意図とかの影響は自然と受けていて、たとえばペンギンの身体だと丸く、かわいいほうにいっていますね。特にグッズ化するとどうしても丸っこくなる。だから、子供っぽくなり過ぎないラインのところで意識をするようにはしています。今は少し気を付けて、ちょっと胴をのばすようにしてみたりとか。

山本:クライアントのグループ各社さんも商品化を行い、グループ全体でSuicaのペンギンを盛り上げていく、というような広がりが出てきていますね。ホテルのペンギンルームもそうですし、ペンギンの駅弁もネットで話題になった。企業キャラクターって広告で完結してしまうことが多いですけど、事業としてこういう広がりを持っているのも珍しい。

栗林:商品化に対する考え方として、グッズでもブランドストーリーを更新していけるという思いがあります。常にCMが流れていなくても、あのペンギンがずっと進化しているというのを、グッズを通じて世の中に出すことは意識しています。

山本:広告コミュニケーションと、ライセンス商品が一体化して世界観を展開していくSuicaのペンギンの動きは、今後の企業キャラクターコミュニケーションのひとつのベンチマークになっていくかもしれないですね。

Suicaのペンギンがめざす先

栗林: 少子化が進んで、小売店舗ではキャラクターのグッズコーナーが少なくなって、メーカーも売れるコンテンツしか手がけなくなってきているんです。そんな中でSuicaのペンギンは駅などで常に露出があってグッズの販路も安定しているという環境にあります。

田中:「Pensta(ペンスタ)」っていうグッズ専門店が東京駅の構内にあります。そこのネーミング、「ペンギンショップ」でもいいかと思いますが、あえて、スタジアム的なネーミングになったのです。スタジアムなら印象として、様々な広がりを期待させられますよね。サラリーマンやOL層だけでなく、子供向けに「ペンスタこどもミュージアム」みたいに。それができるような気がします、このペンギンの坂崎さんの世界観って。クリエーターの妄想ですが(笑)。

坂崎:さらに多くの世代の方々にペンギンが愛されるなら、こんなにうれしいことはないです。

田中:長く広く愛される「企業キャラクター」ってそんなに沢山いないですよね。この成長は、クライアントの様々な方々からも愛され続けているから。dof大島ECDやコトバ山本CDをはじめとする諸先輩方や、世界観を作り続けている後輩クリエーター軍団と異常なほどペンギンの出方にこだわるAE軍団ら、制作を回すチームがペンギンに過剰なほど真摯に関わっていて(笑)、それも効いてる気がします。あんまりない、いいチーム。

栗林:私も諸先輩から引き継いでおり、弊社営業局の継続的な理解と連携もあっての現状だと思っております。クライアントの方々と、商品化を進めていただいている各社ご担当の方々の熱意も、恐ろしいほど感じております(笑)。

山本:すごい熱気(笑)。 絵本から、企業キャラクター、さらにその先、どのようにペンギンが進化していくのか、今後もすごく楽しみにしています。ありがとうございました。