くまモンが一人勝ちしている本当の理由
2014/02/05
熊本県のPRキャラクターとして登場して4年、真っ赤なほっぺがトレードマークのご存じ「くまモン」は、今や日本全国、海外にまでファンを広げ、飛ぶ鳥を落とす勢いです。
そのコミュニケーション戦略は、企業・団体キャラクターのあり方を考える上でのお手本と言えると思います。
今回はそんなくまモンの成功の秘訣を探るべく、育ての親のお一人で『くまモンの秘密』(幻冬舎新書、2013年)の著者でもある、くまもとブランド推進課長・成尾雅貴さんにお話を聞かせていただきました。
くまモン誕生、そのとき熊本では・・・
山本:「くまモンのヒットの秘密はなんですか?」的なインタビューはかなり受けられてきたかと思いますので、今日はちょっと変化球の質問から。くまモンに対しての成尾さんの第一印象はどうでしたか?
成尾:正直言って、良くも悪くも、その瞬間にそれほど強い印象はなかったんです。九州新幹線全線開業に向けて新幹線元年事業のアドバイザーを小山薫堂さんにお願いしたところ、「くまもとサプライズ」のキャッチフレーズを提案いただき、そのキャンペーンロゴに付随する「おまけ」として提案を頂いたキャラクターでして、もともと我々がキャラクターの提案をお願いしていたわけではなかったこともあって…。
山本:では、スタッフの皆さんの中でも、予想外に突然出てきた黒いクマに(笑)、最初は少しとまどった部分もあったんですか?
成尾:自治体キャラクターの場合、まずその自治体の特徴とか主産業をモチーフにデザインされていくことが多いと思うのですが、ではこのキャラクターのどこに熊本らしさがあるのか。頬の赤がおてもやんや「火の国」を象徴しているということは感じ取れましたが、熊本とクマは関係ないし、クマは熊本に対して田舎くさい印象を与えるのでは?と、危惧する意見が一部からあったのも事実です。
山本:なぜ初めにこの質問をしたかといいますと、僕自身企業キャラクターの開発に携わらせていただいている中で、民間企業だけでなく、官公庁、諸団体を含めた広義の企業キャラクターを育てていくためには、キャラクターにかけるインナーのモチベーションが非常に大切であると感じていて。今ここまでくまモンが盛り上がるまでに、そんなふうに最初は懐疑的だった人たちがマインドチェンジした瞬間はどこなんでしょうか?
成尾:関西での人気が上がったことは大きかったと思います。新幹線元年事業の一環として、関西における熊本県の認知度向上がミッションとしてありましたから、徐々に関西でくまモン人気が盛り上がりを見せる中で、自然と県民もスタッフたちも「くまモンいいじゃん」という雰囲気になっていきました。
山本:成尾さんご自身も、コミュニケーションをやっていく中で徐々にくまモンを好きになっていった感じですか?
成尾:そうでした。関西でまだくまモンが鳴かず飛ばずの頃から地道にPRをしていましたから、ちょうど新幹線開業1カ月前に大阪・なんばで開催したくまもと逸品縁日というイベントで、くまモンのサイン会に長蛇の列ができたのを目の当たりにした瞬間の驚き。あれは忘れられないですね。
山本:その瞬間がまさに、くまモンに対するファン度が変わった瞬間だったわけですね。
成尾:やっぱりくまモンが多くのファンに囲まれて、本当に受け入れられていることを自分の目で見たのは大きかった。だから今も新しく来た職員にはなるべく早く現場に足を運んでもらって、肌感覚でくまモン人気を知ってもらうようにしています。
リアルな世界での展開がターゲット層を広げた
山本:さっき、くまモンスクエア(くまモンの情報と熊本県の観光・物産PRの発信施設)のエントランス近くで、くまモンに抱きついて写真を撮っていたおじさんがいらっしゃいましたけど、くまモンのターゲットって幅広いですよね。
成尾:本当にそうなんです。私自身、キャラクターなんてって言うと怒られてしまいそうですが、子どもとか女性が好きなものというイメージが最初は強かった。ところがこうしてくまモンが生まれて、フタを開けてみたら、大阪での初のファン感謝デーに来てくれたのはまさに老若男女幅広い方々で、大阪弁でいう「おっちゃん」たちも結構いらしたのにはびっくりしました。
山本:僕も企業キャラクターのコンサルティングにあたって、よく企業の人から、キャラクターは子供や女性にしか刺さらないのではないか?という意見を伺います。もちろん、ターゲットによりキャラクターに対する温度感の違いはあるのですが、日本人は全体的にキャラクターの受容性が高い文化特性であることも併せて説明させていただくんです。でも、これからはくまモンを事例に使わせていただこうかなと(笑)。
成尾:いや私自身も驚いているんですよ。年配の方も、私たちおじさん層にも満遍なく受けていることには。ただ、最近では人気者となったくまモンと一緒に写真に写って友人に自慢したいというだけの人もいらっしゃるかもしれない(笑)。
山本:アニメや平面だけではなく、着ぐるみというリアルな世界中心で展開していったことも、幅広いターゲットに対してキャラクターへの愛着醸成につながったのかもしれないですね。民間企業と違って、行政の場合にはターゲットを絞らず幅広い展開が必要な場面も多いと思います。そういう意味でもやっぱりくまモンのコミュニケーションはうまくいっているなと思います。
シンプルゆえに展開しやすいデザイン
成尾:毎日いろんなところからくまモンの商品化の利用許諾申請が上がってくるのを見ていると、その幅広さって実はくまモンのデザインのシンプルさが良かったからじゃないかと感じます。たとえば、迷彩服を着せたくまモンが自衛隊の購買部でめちゃくちゃ人気があったりとか…。
山本:へ~、自衛隊バージョンなんてあるんですね。
成尾:あとは白衣に聴診器のくまモンは医師会、ぶどうを持ったくまモンはソムリエ協会、他にも消防署、社会福祉協議会等々いろんな団体にうまく使っていただいています。
山本:そう。ゆるキャラっていわれますけど、くまモンのデザインってまさに柔軟性と展開性を兼ね備えていて、実はすごく戦略的に計算されているんじゃないかと感じていました。
成尾:団体のシンボルになるだけじゃなくて、昨年熊本県で「全国豊かな海づくり大会」を開催したときには、大漁旗柄の法被を着せることで大会のキャラクターになってもらったり。ご存じの通りデザインはアートディレクターの水野学さんですが、最初から幅広いターゲットを相手にいろんなメッセージを出していくことを狙っていたとすれば、本当にすごいと思います。
山本:ただかわいらしいだけでなく、そうやってさまざまな展開を行いやすい機能的なデザインというのもヒットの原因として大きいですよね。
成尾:ヒットはうれしい悲鳴ですが、くまモンはここまでの展開が速すぎて一気にピークが来てしまった気もしていて、どこかで一気に落ちるんじゃないかと常に不安にさいなまれているんです(笑)。もうちょっとゆっくりでいいんですけどね。
くまモンは100年に一度の救世主?!
山本:最近はオウンドメディアやPR手法の活用に非常に注目が集まっている中で、企業さんからも、膨大な費用のかかるマスを中心としたキャンペーンではなく、うまく同様の効果が得られるような「レバレッジの効いた展開案」を求められることが多いです。ところが面白い企画をしてもその存在を知ってもらう、マスコミなどに取り上げてもらうのは結構むずかしくて。その意味でくまモンはPR施策を中心とした戦略が非常に機能しているように思うんですが、秘訣はあるのでしょうか?
成尾:どうなんでしょう。もともとくまモンは「くまもとサプライズ」から出たキャラクターなので、我々チームのメンバーもとにかく人を驚かせることを基本に様々なPR企画を狙っています。これはマスコミにとっては常にニュースソースを提供する存在であるということで。今では、新しいことをやれば高い確率で注目してもらえるようになりましたが、きっかけは何だったのかといわれると私も明確には分からないんですよ(笑)。
山本:今の状況に至るまでの最初のビッグバンは何だったんでしょうね。そこの勝因みたいなところがすごく知りたいんですけど(笑)。
成尾:いろいろと「たられば」の話はできますが、いずれにしても全部がうまい流れできた。県外では最初に関西で勝負したこと、企業訪問の苦戦中に「ゆるキャラグランプリ2011」で優勝できたこと等々…そもそも九州新幹線の全線開業は関係者の間で熊本にとって「100年に1度のチャンス」だとか言われましたが、そのタイミングで生まれたくまモンがこうして盛り上がっている今、熊本にとっては100年に1度(生まれるかどうか)のキャラクターが、くまモンなんじゃないかとも思えたりしています。
山本:なるほど、勝因を知るにまだまだくまモンの大解剖が必要なようですので、次回も引き続き、よろしくお願いいたします!
※後編は2/19に更新予定です。