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企業キャラクターをソリューションへNo.7

ライバルはキティちゃん?!くまモンはどこへ向かうのか

2014/02/19

前回に続き、くまモンの成功の秘訣を探るべく、育ての親のお一人で『くまモンの秘密』(幻冬舎新書、2013年)の著者でもある、くまもとブランド推進課長・成尾雅貴さんにお話を聞かせていただきました。

華やかなPR施策の裏には地道なセールスも

山本:くまモンはかなり初期のころからどのPR施策も話題化につながっていたような印象を受けています。企業とのコラボ商品なんかも、結構すんなりと決まっていたような印象が…。

成尾:いや、そんなことはなく、企業から門前払いも数多くあったんですよ。最初に先方からお話を頂いたのが2010年末、エースコックさんの「太平燕(タイピーエン)」とのコラボでした。それをヒントにこちらから「積極的に売り込みに行こう」となったんですが、思うようにことが運ばず…。

山本:じゃあ、ヒットの裏ではアポ取りとか地道なセールス活動もあったわけですか?

成尾:ええ毎日スタッフが電話をかけて、で、断られて(笑)。いま成功したといわれている施策の裏には失敗、苦労もたくさんあったんです。本で取り上げられているような話題になったPR施策は本当に氷山の一角なんですよ。

山本:くまモンは百戦錬磨とばかり思っていたので、陰でちゃんと地道な営業もされてきているというのは、他のキャラクターにとって励みになる重要なお話でした(笑)。

成尾:私たちがやりたいだけではなくて、企業さんの方も面白いと思ってくださりキャッチボールがはずむ中で形になっていくものはいい方向に進みますね。たとえばBMWとコラボしたコンセプトカー「くまモンMINI」もそうでした。くまモンがパディントンベアの招待を受け、イギリスのオックスフォード工場を訪ねるというストーリー性をもたせたPRでメディア露出も大きくなり、お陰でその返礼ということで、国内115カ所あるディーラーさんに熊本の観光ポスターを貼っていただいたり、景品用に県産品を採用していただいたりと、相乗効果の高いキャンペーンになりました。

山本:やっぱりキャラクターを広めていくためには関係者がみんなファンになって、自分も楽しむという感覚も必要ですよね。今日も成尾さんとお話ししていてずっと、本当に楽しんでやられているんだなと感じていますし。

成尾:そう思いますね。くまモン人気でまずやってみようと一緒に進んだ結果、双方が想像した以上の反響があって、じゃあまた次ご一緒にっていう、いい循環ができているんですよね。

熊本県民のブランディングに貢献

成尾:グッズの広がりは非常にうれしい。一方で我々としてはグッズを売ることが主目的ではなく、くまモンには故郷・熊本のPRという目的があるわけで、グッズと共に熊本県が一緒に発信されていけばいいなという考えのもと展開を行っています。

山本:まさに企業・団体のキャラクターが目指すものってそこだと思います。しかもくまモンはみんなまず熊本と切り離して考えないはずで、ちゃんと運用主体とキャラクターがリンクしている。熊本県民の方のブランディングに相当貢献していますよね。

成尾:確かに。一昔前は熊本県民に「出身は?」と聞いても、「九州です」と答えることが多かったように思えます。でもくまモンのおかげで、最近は「熊本出身です」と誇りと自信を持って言えるようになってきたように感じています。いずれは県民の皆さんが海外でも「日本の熊本から来ました」と言える環境づくりを、これからはしていきたい。

ファンが独自にクオリティーコントロール

山本:キャラクターが広がっていく上ではそのクオリティーコントロールも重要になってくると思うのですが、そのあたりはどう考えて取り組まれていますか?

成尾:今くまモンは原則として国内流通しか認めていないんですね。その中でもロイヤリティフリーでやっていると偽物というか、若干、勇み足で商品が出回っているものも結構存在しています。でもそういうのもね、国内ではファンの方がお店やネットを巡回して見つけてきてくれて、事細かに報告してくれたりするんですよ。製造番号がないよとか、こういうチラシがあったよとか。それを元に対応したりできる。ありがたいことです。

山本:巡回員がいるわけですか(笑)、すごい。そうやってファンがクオリティーコントロールまでしてくれるって、なかなか特異なキャラクターですね。

成尾:他方でそういう偽物に対して、ロイヤリティフリーでの運営の中で、県民の皆さんからお預かりしている税金を使って徹底的に駆逐していく意味があるのか、費用対効果も含めて、というのが悩みどころなんです。

山本:特に今後海外に出るとなると問題は対策費用面も含めてさらに大きくなってくる。しかも商標の問題は各国単位だから余計に大変…。

成尾:そうなんです。今できることとして、利用許諾の際の相手方との取り決めを見直して、海外の製造工場等に対するロット管理にも責任を持っていただく等、川上での対処をしていく必要性は感じています。その上で、海外でのキャラクタービジネスのノウハウ、費用負担などを県としてどこまでやっていくのかというのは課題です。

山本:でも国内で流通しているグッズなんかを見ていると、トーン&マナーとかの統一もできているし、比較的コントロールもうまくいっているように感じます。

成尾:そうですね。そもそもくまモンは県が持っている財産として、上意下達で許諾しているわけではないですよね。国内の事業主さんはそれこそくまモンに対して愛情を持って、協力的にやってくださっていると思いますね。

地元・海外の両軸で熊本を世界に発信する

山本:僕自身、企業・団体のキャラクターには中長期戦略が重要だと思っています。なぜなら生活者とのリレーションシップは一朝一夕では構築できないから。くまモンの今後の長期展望についてお聞かせいただけますか?

成尾:実はこれから何をやっていくかと聞かれるのが一番つらいんですよ(笑)。楽しいことだけやっていられれば幸せなんですけど、海外、とくに今後販路になるアジア地域への県産品の売り込みや観光客の誘客、前段で出た商標の問題…と課題も山積していて。あとやっぱり一番大事にしないといけないのは熊本県内なんですよね。たとえば幼稚園とかを地道にまわっていく。陶磁器など県内の伝統的工芸品とのコラボレーションもやっていく。それがうちの本業ですから。

山本:地元と県外・海外、内向きと外向きの両軸での展開ですよね。くまモンのキャラだけが立って熊本県自体のブランド力が上がっていかなかったら意味がないですからね。マンガやアニメのコンテンツキャラクターではないし、あくまでそこの軸はブレないようにと。

成尾:そこは私たちもいつも間違えないようにしなければと思っています。我々はくまモンを売ることが仕事ではない。冷めた言い方になるかもしれないですけど、くまモンは熊本を売るためのフックに過ぎないんです。

山本:僕もよく企業さんに対して「企業キャラクターは、あくまで企業課題のソリューションなんです」というお話をさせていただくんですが、まさに成尾さんたちにそのご理解があってくまモンがちゃんと機能しているんだということがよく分かりました。

キャラ立ちした4年目は「初心に立ち返る」

山本:ご著書『くまモンの秘密』(幻冬舎新書、2013年)の中で、くまモン成功の秘訣として、「ターゲット、TPO、SNS、キャラクターの動き、トップの理解と支援」の5つを挙げられていて、出版から半年ほど経ってまた少しキャラクターが成長したかとも思いますが、今あらためて重要だと思われること、また、新しく付け加えたい要素はありますか?

成尾:やっぱり、継続していく中でトップの支援というのは大きな力になっていると思います。蒲島郁夫知事がきちんとバックアップしてくれているからこそ、くまモンも成長することができている。そして最近あらためて意識している要素が「サプライズ」です。成功だ成功だと皆さん言われますが、実は私自身はまだ成功だと思っていなくて。今くまモンは「熊本県営業部長」という肩書では成功していますが、経済効果ばかりが表に出て、実は当初目的の「サプライズ」がトーンダウンしてしまっているんです。

山本:確か「くまもとサプライズ」は、県民が身の回りのサプライズを再発見して県外へ発信しよう!という、インナー(県内)モチベーションアップの側面も持ったキャンペーンですよね。

成尾:まさに、熊本県民の精神運動というのがベースにありながら、それがまだまだ浸透していない。くまモン自身は行動原理としてサプライズを貫いていると思います。私たちも意識しながら次の展開を考えるようにしています。ただ、「くまもとサプライズ」が県民のみなさんに根ざしているかと問われれば…。くまモンが来れば人が集まるだろうという「くまモン頼み」の現状を、いかに県民自身がサプライズ体質になってお客様を喜ばせるかという方向にシフトしていかなくてはいけないと思っています。そういう意味で、4年目にして地元ではやっと土壌ができたかな?と感じていて、その旗振り役として、くまモンは今こそ生きるんですよ。

山本:今のくまモンの話なら誰でも耳を傾けてくれますしね!

成尾:3月12日のくまモンの誕生祭も、今年は熊本市の中心市街地を全部巻き込んで行う計画です。全体のデコレーションは県がするので、それぞれ自分たちでやれることをやってくださいと働きかけると、今は本当に伝わり方も早い。同様に、サプライズを提供する主役は県民でくまモンがそれを手伝うという、当初のキャンペーンに沿った形のイベントが県内各地で起こって、初めて熊本が面白くなってくると思うんです。

山本:このままの勢いでいくと、2020年の東京五輪の頃には海外からの観光客も期待できそうですね。

成尾:昨年Japan Expo 2013でフランス・パリに行ったとき、高速道路のサービスエリアにキティちゃんが売られているのを見て「いつかくまモンも…!」と私の中に火が付きました(笑)。一地方自治体のキャラクターがそこまで世界的になれば絶対面白いし、くまモンならやれるんじゃないかと思える。そして、東京に来た方が京都に足を延ばすように、くまモンの故郷にも行ってみたいと思えるように目指していきたいです。一方で、そんなチャンスにせっかく熊本に人が来てくださっても、そこが「いいね!」で共有したくなるような面白い場所でなければ意味がない。だからくまモンの本領が発揮されるのはまさにこれからだと思うんですよ。その意味で、今がスタート地点なのかもしれませんね。

山本:あくまで、熊本あってのくまモン、熊本のためのくまモンという、成尾さんの一貫した姿勢。企業キャラクターコミュニケーションに携わる者として大変刺激になりました。ありがとうございました。