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企業キャラクターをソリューションへNo.8

企業キャラクターに淘汰の波がやって来る?

2014/03/05

昨年2013年も企業、地方自治体などからキャラクターが続々とデビューを果たした年でしたが、そんな盛り上がりをキャラクター・マーケティング・コンサルティング会社、キャラクター・データバンク社長の陸川氏は「ブームの中で目的を見失いかけたキャラクターも多い」と慎重視しています。
いま企業キャラクターコミュニケーションはどうあるべきなのか。電通マーケティング・デザイン・センターの山本達也さんが近年の業界の変化と、今後の展望について聞きました。


多メディア化によってキャラクターの活躍の土壌ができた

山本:長年キャラクター業界を見続けられているお立場から、ここ数年のキャラクターをとりまく流れや変化で特に感じられるのはどんなことでしょうか?

陸川:全般的な話では、くまモンのように地方のご当地キャラといわれるようなキャラクターが、ソーシャルメディアなどをうまく活用してファンを獲得し、さらには商品化でも大きなマーケットを創出しているというのは、明らかに今までにない展開です。

山本:くまモンは本当に前例がないですよね(編集部注:くまモン成功の秘訣はこちらの記事もご参照ください)。御社でも昨年初めて、企業キャラクター専門のデータ集『CharaBiz Power Book -コーポレートキャラクター編-』を出されましたが、企業コミュニケーションにキャラクターが採用されることが急激に増えていますね。

陸川:それもここ2年くらいの顕著な傾向です。企業キャラクターが増えている背景としては、やはり本格的なネット時代を迎えて多メディア化する中で、かつてテレビCMを打つことである程度のボリュームの人たちにメッセージを届けることができた時代から、ソーシャルメディアを活用して、企業自らが生活者とのきめ細かいコミュニケーションをとる時代に変わったということがあります。

山本:企業側は使えるメディアが増えたことで、ますますキャラクターを制作し、活用しやすくなってきたこと、生活者側は新しいメディア、デジタルツールをうまく使えるようになってきたことが大きそうですね。

陸川:そういう背景があって、企業サイドとしては直接メッセージを出すよりもキャラクターを介して発した方がより生活者に受け入れられると考えて、積極的に活用する企業が増えたということでしょうね。

キャラクターのターゲットはもはやエイジレス?

山本:そういうキャラクターへの幅広い受容性は、日本人の文化的特性だといわれますね。とはいえ、僕自身企業キャラクターの開発に関わる中で、企業の担当者に必ず聞かれるのがターゲットのことなんです。結局子供や女性向けですよね?っていう。

陸川:そんなことは全くないです。現に弊社の調査でも、キャラクターが嫌いという層は全体で1割にも満たないですし、世の中的に女性ターゲットだと思われている既存のキャラクターでも、男性の好感度が思った以上に高かったりします。

山本:もちろんターゲットによって効きやすい層、効きにくい層はあって当然とは思うのですが、キャラクターコミュニケーションは全方位的に機能すると言い切ってもいいものでしょうか?

陸川:近いところまで来ていると思います。もう50代前半以下の人たちはすべて、子供の頃からアニメや特撮ヒーローで育ったキャラクター世代ですし、日常的にキャラクターに囲まれているという日本の文化特性も含めて、違和感はないはずなんです。ここ約5年の調査にみえる傾向として、これまでは思春期、つまり中高生あたりは子供っぽいものを嫌うためキャラクター好感度が一旦下がったのですが、今はあまり落ちなくなっています。

山本:それは何を表しているんでしょうか?

陸川:一般的に、キャラクターがもう子供っぽいものだとは認識されなくなってきた。言い換えると、それだけ市民権を得てきたということなのかなと。企業の広告担当者など、発信側でも、キャラクター世代といわれる人たちが決定権を持つ時代に入ってきたことが影響しているでしょうね。

山本:なるほど。そもそも企業キャラクターが増えてきた理由として、決定権を持つキーマンがキャラクター好き、キャラクターに違和感のない世代だからというのは言えるかもしれない。そういう上の世代に引っ張られて、全体的に底上げされているという見方は面白いですね。

生活者の「参加性」がキーワードに

陸川:いつも不思議に思うことですが、キャラクターが着ぐるみになるとそれだけで、たとえそれが知らないキャラクターであってもみんなかわいいと感じるらしいんです。

山本:着ぐるみは最近本当にすごく重視されますね。企業キャラクターのデザインも立体にすることを前提にプランニングしてほしいというお話も多いんです。そのキャラクターの世界観を生活者が体験できる「場」ということで、着ぐるみには有用性があるのではないかと感じています。

陸川:音楽業界でライブが見直されているように、ネット社会だからこそリアルな場の価値が高まっているんでしょうね。実際その場でキャラクターと触れ合うことでファンになる。そして自分の体験としてソーシャルメディアで拡散する。この個人の体験~拡散という循環がキャラクターコミュニケーションを支えているともいえます。

山本:そうですよね。生活者が企業のコミュニケーションに「場」で参加する。この「参加性」が、キャラクターコミュニケーションの鍵になってきているのかもしれませんね。

陸川:キャラクターというのはその世界観とか、物語性とか、背景にあるものすべてを理解してもらって、それで好きになってもらうというプロセスが重要ですからね。一方で、昨今のゆるキャラブームに乗ってとりあえず作りましたというキャラクター、一瞬で生まれて一瞬で消えてしまうようなキャラクターがたくさん出ていることには、本末転倒な印象も受けています。

当初の目的からブレてしまっていないか?

山本:僕も企業キャラクターは決してブームで作るものではなく、キャラクターを活用するコミュニケーション上の必要性があって初めて検討するソリューションであるべきだと思っています。今がたくさん作られた段階ならば、次はそれぞれがそれをどう活かしていくかという時期ですね。

陸川:この先は間違いなく淘汰の時代に入っていくでしょう。最近、自社の企業キャラクターが人気なので事業化(商品化展開)したいといったご相談を相次いで頂いたのですが、私はまず、経験のない中で商品化することのリスクを理解してもらい、企業のコミュニケーション課題を解決するために活用する、という最初の目的からブレさせない方がいいのではということをお話しするんです。

山本:単純に商品化によるライセンスビジネスをするというより、商品化することが企業のコミュニケーション、またコアビジネスにどういった影響を与えるかまで考え、戦略的に展開していくことが重要だと。

陸川:まさにおっしゃる通りで、商品化ありきでなく、コミュニケーション戦略に商品化を取り込むという発想で組み立てる方がいい。その上であれば、商品化によって新しいファンを獲得できる可能性も十分あるし、メディアの一路線として積極的に活用していくのは良いことじゃないかと私は思っています。

山本:企業キャラクターは、目的をブレさせず中長期的なビジョンで展開していくことが必要であるということですね。

陸川:業界では、キャラクターは30年、40年くらい生き続ければ以降はずっと継承されていく存在になるといわれています。それが企業キャラクターであれば尚更、続けるということに大きな意味がある。昨今のブームが本当にブームだけで終わってしまわないよう、ここで一度、おのおのがキャラクターの当初目的に立ち返ってみるといいと思います。