嫌われキャラだった“ガリガリ君”が、アイスの売り上げを3倍にできたワケ
2014/09/03
赤城乳業の主力商品「ガリガリ君」のキャラクターとして親しまれる“ガリガリ君”。1981年の誕生から30年以上がたち、今や子どもから大人まで知らない人はいない人気アイスの顔です。今回はガリガリ君のコミュニケーションを総括する同社のキーマン・萩原史雄氏と、キャラクター・データバンクの陸川和男氏を招き、“ガリガリ君”成功の軌跡を追いました。
山本:私自身、子どもの頃からガリガリ君には親しんできて、今でも昔のガリガリ君のイメージが強くあったりしますが、ガリガリ君は2000年に大々的なデザインリニューアルを行ったと聞いています。それ以前はキャラクターというより、ある意味商品パッケージについたマークのように捉えていたガリガリ君が、このリニューアルを境にキャラクターとしてイキイキと商品パッケージを飛び出して活躍し始めた印象があります。2000年を機にガリガリ君に対する意識も変えられたのでしょうか?
萩原:そうですね。1999年に全国の消費者に対して大規模な商品調査を行ったところ、キャラクターに関する回答で「歯茎が気持ち悪い」「汗が泥くさい」、ついには「絶対買わない」とまで言われてしまい(笑)、リニューアルの話になりました。考えてみれば、発売以来、それほど大きなデザイン変更もなく使っていたキャラクターでしたから、デザインテイストに対して違和感が出てくるのも当然かもしれません。
山本:とはいえ、発売が1981年ですので長年人々の記憶に刷りこまれてきた、ある意味既にアイコン化されたものを変えるということには勇気が要ったのではないですか?
萩原:でも前提として、ガリガリ君が守るべき資産は明確でしたので、ガリガリ君のアイデンティティーともいえる部分、調査でちょっと嫌な部分として指摘された要素も、ある程度残しながら昇華させようというデザインリニューアルでした。
萩原:しかし、実は根本的にガリガリ君に対する意識を変えるきっかけになったのは、その後の2004年。ちょうど猛暑の年でアイス業界の売り上げ全体が伸び、私がマーケティング部に異動になった初年度でもありました。某雑誌のキャラクターランキングで、ガリガリ君が嫌いなキャラクター第4位に入ったんです。しかも好きな方には入らず、嫌いなキャラにだけ単独で…。2000年にあれだけ嫌われていたのでわざわざリニューアルを行い、テレビCMをして歌もつくって、商品の売り上げも伸びて…という中でしたから、まさかまだそんなに嫌われているとは、ただただショックでしたね。
山本:認知度は向上しながらも、好意度の部分にまだ問題があったということですね。
萩原:そうですね。ただ、調べてみるとアイスは好きという声が多く、それならばまだ為すべきことはあると希望は持てた。そこから少しキャラクターの展開を広げるべく、キャラクタービジネス方面にも手を出すことになったんです。翌2005年は私自身、陸川さんのところにも相談に伺いましたし、大手のキャラクターライセンシーに何度も足を運んで、必死でビジネスモデルを学びました。
「ガリガリ君プロダクション」の誕生
陸川:その後、ガリガリ君専門のプロモーション会社「ガリガリ君プロダクション」(以下、ガリプロ)を立ち上げられたわけですが、今のガリガリ君の展開は、あの時に別会社にしたからこそやりやすい側面があるのではないかと私は思っています。
山本:企業キャラクター専業のプロモーション会社をつくってしまう企業は非常に珍しいと思うのですが、本社の中で、そうやって企業キャラクターのために新たに一つの会社をつくってしまうことについて議論にはなりませんでしたか?
萩原:いえ。そのへんはとりあえずやってみようという企業風土があって、社内で“ガリプロ”構想を少し話したところ、じゃあやってみろと、すんなり。2006年に子会社を設立して、先ほどおっしゃられた単なる商品パッケージのマークではなく、キャラクターとしてのガリガリ君というのを意識するようになった形です。本業への成果としても、2004年時点で1億5000万本だった売り上げが、直近2013年には4億7500万本に…。
陸川:10年で約3倍というのは、なかなかない数字ですね。企業キャラクターを軸にした戦略的な活用が商品の売り上げに直結している。まさに“ガリプロ効果”といえるのではないでしょうか。
企業キャラクターを生かす“ガリプロ”の仕組み
山本:ガリプロについて、その役割や日常業務についてもう少し教えていただけますか?
萩原:成り立ちはデザイン会社との合弁で、ガリガリ君に関するデザイン、広告宣伝などプロモーション関連、イベント運営、音楽、コラボ先のデザイン監修、ロイヤリティー関係と、ガリガリ君周りの全てを担っています。商品との一体感を欠かないよう、本社のガリガリ君プロジェクトチーム(開発、生産、マーケティング、購買などの部署横断チーム)の中に“ガリプロ”も必ず加わる形です。
陸川:いわゆる一般企業が、企業キャラクターを用いて広告販促活動以外のキャラクタービジネスを行う場合、ライセンシーと向き合いながらデザイン監修やロイヤリティー処理などの業務を受け止めて展開していくのは大変なことだと感じています。宣伝部マターなのか、広報部か法務部か、窓口がどこかによっても展開の仕方が限定されますし。そこの全てを統括できるのが“ガリプロ”で、理想的な仕組みだと思います。
山本:企業キャラクターの活用事例の中でほとんどない例ですよね。中長期的な視点で企業キャラクターを育てるに当たり、担当者の異動などに影響を受けず、組織としてしっかりとブランドを守っていく下地ができているというのは、何よりも強い気がします。
ライセンス展開としては、ガリガリ君は絵本化、漫画連載やゲームソフトとのタイアップの他、こんなものも!?という異業種・異業態コラボレーションを幅広く展開されていますよね。次回はぜひ、その展開に関するお考えなどを中心にお伺いしたいと思います。