現代シニアの変化をとらえよ!No.4
シニア市場の最有望ターゲット「モラトリアムおじさん」を攻略!
2017/04/13
6タイプのシニアの中でも、注目の「モラトリアムおじさん」
ビデオリサーチの生活者研究部門「ひと研究所」では、シニアを、価値観の表れとしての行動(積極的か、慎重・控えめか)と志向(伝統・保守を好むか、変化・刺激を好むか)という二つの軸で6タイプにセグメントしました。
左側のアクティブシニアと(普通の)シニアの象限は、従来から注目されていたシニアです。対して、右側の新型アクティブシニアとポテンシャルシニアの象限にいるシニアは、今回の調査により新たに発見されました。中でも、私たちが最も注目したのが右下ポテンシャルシニアの象限に位置する「セカンドライフモラトリアム」です。
「セカンドモラトリアム」は、シニア全体の約3割を占める最大派です。
この「セカンドライフモラトリアム」の中でも、男性こそは、これからのシニア市場活性化のカギを握っていると考えています。
最終回となる今回は、私たちが親しみをこめて「モラトリアムおじさん」と呼んでいるこの人々について、なぜこの人たちに注目したのか、どうアプローチしていけばいいのか、そのヒントを『新シニア市場攻略のカギはモラトリアムおじさんだ!』をベースに解説します。
「モラトリアムおじさん」とは?
このタイプは変化や刺激を好む新型シニアの中では唯一、行動が慎重で控えめ。社会に取り残される不安が強く、人とつながりたいがどうしたらよいのか分からないという思いを抱えています。その名の通り、これからの人生をどう過ごしたらよいのかを模索している人々です。
そんな人々の、特に男性に注目したのはなぜか? 交友関係が広くなく、社会に取り残されていく不安を感じている点は男女共通ですが、女性の場合は、人生の端々においてライフステージの変化、およびそれに伴う人間関係やコミュニティーの変化に男性よりも比較的慣れています。女性特有のコミュニケーション能力もあるため、それなりに上手に折り合いをつけていけますし、そもそも女性は男性より消費や行動が活発です。
しかし、男性の場合は、今まで誇りを持ってやってきた仕事や築いてきた立場がリタイアにより失われ、振り返ると、地域に友達はいない、これといって趣味もない、頭では分かっていたことだけれど、いざ本当にその時が近づいてきたり、あるいは本当にその状況になってみたりすると、これからの有り余る時間を何に使ったらよいのか分からない、という人が多いのです。
デジタルへの抵抗感は薄いため、インターネットを駆使していろいろ情報を集めてはみるものの、じゃあこれをやろう、とするといろいろ考え過ぎてなかなか一歩が踏み出せません。近所の知り合いに誘われたから、妻や子に連れて行かれたから、友人に強く勧められたから・・・といった理由があって初めて「仕方ないなぁ。行ってみるか」となるのです。
一見控えめで、シニア市場活性化には無縁そうに見えますが、今まで動きを見せてこなかったということは、逆にいえば潜在的なニーズが隠れているということ。モラトリアムおじさんたちは、心底では「このままではいけない」と思っており、他者や社会とつながるコミュニティーを希求しています。
健康で、能力があり、ぜいたくはできなくともそこそこのお金と有り余る時間があるため、消費をはじめとしたさまざまな面においてポテンシャルが極めて高いことは容易に想像されます。しかもシニア全体の約3割を占める最大派である点が特筆すべき点であり、この消費へのポテンシャルとボリュームの大きさこそが、私たちがこのタイプに注目した最大の理由です。
このような今まで動かなかった人たちが動きだせば、消費をはじめさまざまな面が活性化します。ポイントは、「このままではいけない」という変化を求めるモチベーションがあるうちに、一歩を踏み出すための背中を押してあげること。その方法はマーケティングの工夫に掛かっています。
「モラトリアムおじさん」の背中を押すキーワード
どうすれば「モラトリアムおじさん」たちの背中を押すことができるのでしょうか? 具体的には、「モラトリアムおじさん」特有の価値観から生まれている不安、不満を解消することですが、そのために、私たちが多くの「モラトリアムおじさん」たちに会い、さまざまな調査・研究・分析を重ね導き出したキーワードが六つあります。ここではそのうちの三つを紹介します。1
①再開/リベンジ
定年などで仕事から解放された途端、好きなことをしまくるぞ、と切り替えられるのは「ラブ・マイライフ」や「社会派インディペンデント」であり、すぐに切り替えられないのが「モラトリアムおじさん」です。心のどこかに自分のやりたいことを抑制してきた感はあるものの、仕事中心の生活が長過ぎて、何を我慢してきたのかすら自分でも分からなくなっているのかもしれません。
マーケティングの手段としては常とう的ですが、昔流行した文化や音楽に基づき、もう一度やりたい(再開)、あるいは昔できなかったことに再挑戦したい(リベンジ)という気持ちを思い起こさせるアプローチが考えられます。
なお、このアプローチは「モラトリアムおじさん」だからこそ効きます。やりたいことはすぐに行動に移してきた「ラブ・マイライフ」のようなタイプにはあまり効きません。
②大義名分
「モラトリアムおじさん」は自ら積極的には動きませんが、他者からの働き掛けや動かざるを得ない理由、すなわち「大義名分」があれば動きます。重要なのは自分に対すると同時に、対外的にも言い訳になることです。
「ラブ・マイライフ」や「社会派インディペンデント」と違い、単に「好き」「欲しい」「行きたい」という自分理由だけでは動かないのが「モラトリアムおじさん」。「自分のためではなく他人や社会のためになる」「請われたから仕方なく」「頼まれたから断れなくて」といった理由付けがあると行動しやすくなります。
本人に直接働きかけるより、妻や子どもなどから頼まれたり勧められたりすると「しょうがないなぁ」と言いながら動くことが多々ありますので、妻子からレコメンドしてもらうことを想定したコミュニケーションも有効かもしれません。
③ 新しいコミュニティー
「今までの自分を変えたい」と思っており、新しいステージやコミュニティーを希求している「モラトリアムおじさん」。誰かが参加するきっかけを与えてくれて、そこに自然にな染めるような工夫や仕掛けがあれば、動き出してくれます。
人口が減っていく中、シニアは大事な人的資産。会社員としてではなく、地域住民として、ひとりの生活者としての新たな自分の可能性に気が付いてもらうことはもちろんですが、過去を否定しないことも大事です。定年したのだから過去の栄光にすがるな、と切って捨てさせるのではなく、むしろ過去の経験値や人脈を上手に活用してもらうことで、思わぬ道が開けることもあります。
ここではご紹介しきれなかったキーワードを含め、詳しい内容や具体的に実践している事例は『新シニア市場攻略のカギはモラトリアムおじさんだ!』をぜひご一読ください。
4回にわたり、現代シニアの特徴やこれからのシニア市場について紹介させていただき、ありがとうございました。皆さんのお仕事の一助となれましたら幸いです。私たち「ひと研究所」では、これからも「生活者」の研究を続けていきます。今後の活動にどうぞご注目ください。