ベンチャーが未来を創るNo.2
オープンイノベーションの∞の可能性
2017/05/16
大企業とスタートアップ企業によるオープンイノベーションについて考えるインタビュー企画。今回はKDDIのスタートアップアクセラレータープログラムであるKDDI ∞ Labo(ムゲンラボ)。同社は2011年にプログラムを立ち上げ、世界で通用するインターネットサービスを応援。KDDI ∞ Labo長を務める江幡智広氏と、電通でオープンイノベーションを推進する奥谷智也氏が対談しました。
ギブファースト、スタートアップファーストの精神で、スタートアップを応援
奥谷:最近では、事業会社によるアクセラレータープログラムは増えていますが、KDDIはいち早く始めて、数多くのスタートアップを支援しています。まず、KDDI ∞ Laboについて、簡単にご紹介いただけますか。
江幡:立ち上げは2011年の夏です。日本からインパクトのあるビジネスが生まれるのを応援したいというところから始まりました。
奥谷:それほど早い時期にKDDIとして取り組まれたきっかけは何でしょうか。
江幡:始まりは2000年ぐらいでしょうか。携帯電話の液晶が大きくなり、カラーになった。EZwebなどのビジネスが動きだしたタイミングです。
KDDIとして通信のプラットフォームをしっかり整備して、お客さまに新しい価値や体験を届けるものも準備をしていこうと。しかし、そういう方向にかじを切ったとき、われわれは通信会社なのでインフラ以外に資産が何もないんですね。
奥谷:当時の日本の企業は比較的自前主義で、自分たちで開発するという考えの方が多かったと思いますが。
江幡:絶対にできません(笑)。コンテンツをつくれる人間がいないので。
一方で外部にはコンテンツやテクノロジースタートアップの方がたくさんいらっしゃった。彼らとパートナーを組み、その資産をモバイルやインターネットで一緒に出していけば、ビジネスとしてうまくいくのではないかと考えました。
奥谷:最初は外部の方と一緒にやっていく知見もない中で大変だったと思いますが、意識されたことはありますか。
江幡:ギブファースト、スタートアップファーストといった精神がありました。何をすれば彼らを成長させられるのか正直分かりません。だから話を聞くところからスタートし、彼らを支える。僕らが関わったことで成長度が見えたということは、もっと力を入れればより成長するかもしれないという確信が生まれたんですね。
奥谷:現在は第11期まできていますが、当初から現在までスタートアップの傾向に変化はありますか。
江幡:昔スタートアップはデジタル偏重でリアルを嫌っていて、リアルに適合できませんでした。プロダクトをつくったら、アプリマーケットで配布すればいい、という人がとても多かったです。でも、リアルの方がマーケットが大きくてマネタイズできるという事例も増えてきました。
奥谷:どのようなスタートアップがありましたか。
江幡:第1期にソーシャルギフトサービスの「giftee」がいます。SNSで気軽にギフトが贈れるサービスです。彼らとは今も協業しています。
奥谷:「giftee」は素晴らしいサービスですよね。私もよく使っていてBtoCの面でも秀逸なプロダクトなのですが、BtoBの面でもO2Oソリューションとしてスケールしそうですね。
江幡:他には、お客さまと配送員をつなぐ「軽town」ですね。個人で運搬している配送員は想像以上にいます。ただ、仕事がなかなかない。一方で、昨今の宅配便の現状があるように、荷物は相当増えている。そうしたアンマッチをいわゆるマッチングプラットフォームの中で解決して、例えば個人が頼むこともできるし、急に運べない量の荷物が来たらそのプラットフォームを使うというものです。
奥谷:マッチングやシェアリングというところで目の付け所が良かったということですよね。スタートアップの選択に当たってはどのような基準を設けられていますか。
江幡:KDDIをはじめ多くのパートナー企業がいますので、少なくとも半年間、その方々を含めてしっかり向き合える企業なのか、社長に向き合う意思があるのか、そういう点は基本にあります。あとは、半年間でしっかりビジョンを持って、ゴールが明確につくれるか。
奥谷:KDDI ∞ Laboというアセットをいかに使ってスケールするか、シナリオがちゃんと描けているかを基準としているわけですね。
江幡:成長できるという期待がプログラムにあるか、その期待に対して僕らが本当に応えられるのか。僕らは一貫して第1期から、資金はプログラム期間中には一切出さないと宣言しています。
奥谷:ビジネスモデルやセクターで選んでいるわけではないということですか。
江幡:僕らが関わることで成長できる領域、例えばVRとか、IoTとか、いくつかのトレンドがあるので、そのあたりは見ています。
メンターとしてKDDIの社員を起用。自身のスキルアップにも
奥谷:KDDI ∞ Laboでは、社員の方をメンターとしてつけていることも良いですね。
江幡:採択したスタートアップを成長させられる人材をメンターにつけています。30歳代前半の中堅社員が一番多いですね。一通り会社のことが分かっていて、助けてほしいといわれたら、どこにアプローチすればいいか頭の中で描ける人材をつけています。
とはいえ、組織が細分化しているので、実際に関わるスタートアップが求める範囲と、自分の業務の範囲が大きく違うという経験をします。メンターが終わった後、自分の事業を考える上での新しいスキルを身に付けられると期待しています。
奥谷:私たちも大企業とスタートアップ企業による協業の支援をさせていただいていますが、実はスタートアップ企業を成長させる過程で、大企業側も、特に人材が成長したり変革するという感覚を持っています。
江幡:そうなんですよ、若いうちにすごい経験ができて。KDDIで新しいことをやりたいとしたら、この経験を生かして比較的実現しやすくなるのではと思います。
奥谷:やはり人材交流や流動性は大切ですし、人材育成の面でもKDDI ∞ Laboは機能しているのですね。
江幡:KDDIではグループ会社も含めて人材交流がものすごいペースで進んでいます。
高度なテクノロジーがあっても、ユーザー体験価値が高くなければ意味がない
奥谷:アクセラレータープログラムを提供している中で、今後どのようなことが進むと、日本でもスタートアップのエコシステムがうまく回りだすと思いますか。
江幡:やはりM&A(合併と買収)の事例が少な過ぎると思います。日本的にいうと経営者は会社を守る、という感覚がすごくあります。出口というところで必ずIPO(上場)を目指して、生涯そこで1人の社長がやるのではなく、その時その時に一番やりたいことをどんどんやるべきです。ですので、IPOだけでなく、M&Aという出口戦略が必要ですよね。
奥谷:創業者側もいわゆる立ち上げて売ってを繰り返して、シリアルアントレプレナーを目指してほしいですし、大企業側もM&Aを繰り返すことで、PMI(M&A成立後の統合プロセス)を含めて知見が蓄積されるので、結果としてエコシステムが推進されますね。
江幡:僕たちもパートナーを見つけてM&Aなどを通じて事業開発を進めています。
奥谷:今後IoTのように世界を一気に変えるようなものが出てくる中で、そのインフラになるのがKDDIですし、その会社がオープンイノベーションを推進していくことが重要だと思っています。スタートアップを含め、あらゆるパートナーを巻き込んでIoT時代の新しいビジネスモデルを創る必要が出てきますね。
江幡:そうですね。ポストスマホの時代、ディスプレーがない時代が来るわけですから。
例えばBtoBtoCのビジネスモデルを考えたとき、ある企業の課題をあるスタートアップが解決しようとします。しかし、そのソリューションを通じて最後にCというお客さまがいるときに、企業であるBの課題を解決したとしても、その先のお客さまであるCが重要で、いくら高度なテクノロジーがあってもお客さまにとっての体験価値が下がると意味がないんですよね。価値を誰に提供するのか、右と左を両方見ていかなければならない。
奥谷:とても大事ですね。BtoBtoCやBtoBtoBが増えていく中で、シーズ発想とニーズ発想の両面が大切ですし、例えばIoTであればお客さまにとっても新しいプロダクトやサービスとなり、そのユーザー体験が極めて重要ですので、私たちも注力しています。
奥谷:KDDI ∞ Laboとしての、今後の展望を聞かせてください。
江幡:2年ほど前から、事業領域がリアルなところが増えてきました。そこで2年ぐらい前、第6期まではKDDIとの関係でやってきたのを、第7期からは各業界の大企業の皆さまに賛同して入ってもらうプログラムにしました。そのパートナー企業も最初は13社ほどでしたが、お問い合わせを頂いたりして、今は33社(取材当時)になっています。
奥谷:オープンイノベーションとして大企業の異業種連合にしているのは素晴らしいですよね。最後は自分たちのビジネスをつなげたいと思うと、どうしても囲い込みたくなりますが、他の会社を巻き込んで、例えば流通など足りない部分は担ってもらえばいい、と割り切れているのはすごいですね。
江幡:そこは僕らには足りないと分かっていて、助けてもらうしかありませんでしたからね。流通で革命を起こそうとするスタートアップと話をしても、流通構造が分からない。助けてくれる人に入ってもらった方がよっぽど早い、という感じでした。
奥谷:今日の一貫した印象としては、KDDIの懐の広さがすごいなと思いました。KDDIの社風なのか、トップマネジメントの考えなのかもしれませんが。
江幡:この事業をやり続けられているというのは、経営の判断や心づもりがやっぱり大きいと思います。新規事業セクションは1年で成果が出ないと、もうやらなくていいとなることも多いですからね。
奥谷:トップがすぐに結果を求めるのではなく、将来的なリターンと理解してもらえるのは大きいですね。KDDI ∞ Laboを通じてKDDIは新時代のイノベーションを次々と生み出すのではないかと思います。
本日はありがとうございました。
KDDI ∞ Labo公式ホームページ
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