サービスモデルキャンバス~顧客の事前期待を超える体験設計フレーム~
2017/05/17
最近、「カスタマージャーニー」以上によく目にする「顧客体験」(カスタマーエクスペリエンス)とは一体何なのでしょうか。さまざまな定義がありますが、私は「企業が顧客との全接点上で、顧客の事前期待を超える体験を提供すること」と定義しています。ちなみに「カスタマージャーニー」は、この全顧客接点を時系列で整理したものと定義しています。顧客インサイトをより可視化するために、企業と顧客の接点上にはない顧客の行動や思考までも含めることもあると思いますが、私が通常取り組むプロジェクトのアウトプットには企業と顧客の接点のみで十分だと考えています。ただし、時々広告メディアのみの顧客接点を時系列に羅列したカスタマージャー二―を見かけることがあります。もちろん、作成の目的にもよりますが、あえて広告メディアのみに限定する特別な意図がないのであれば、カスタマージャーニーが持つ本来の趣旨には適さないように思います。
さて、なぜ突然「顧客体験」について触れたかというと、私は本連載のテーマである「デジタルマーケティング」の定義を「“企業が伝えたいメッセージ”を効率的・効果的に提供すること」ではなく「“顧客が求める体験”を効率的・効果的に提供すること」としているからです。なぜメッセージではなく、体験なのか。それは、企業のマーケティング戦略が新規顧客獲得から既存顧客維持に少しずつシフトしている中、施策も商品認知を得るためのキャンペーン施策型から顧客満足を維持する継続施策型にシフトしているからです。また、ネットワークを介して顧客と企業がつながり続けることにより、提供する体験自体で収益を生むことも可能となっています。継続的な施策で顧客満足を維持しつつ、それ自体が収益ともなり得る体験を、企業が提供する「サービス」と定義しています。
サービスを考える
それでは本題の「サービス」について考えていきたいと思います。今や、あらゆる企業がサービス業化していると言っても過言ではないほど、顧客への提供価値が「製品」から「サービス」に変化しています。それに合わせて特にマーケティングの4Pにおいては、例えば以下のような変化が起こっているのではないかと考えています。
Price:製品単品の売り切りモデルから、サービス内容に応じたサブスクリプションモデルへ。
Promotion:新規顧客獲得のリードジェネレーションから既存顧客維持のCRMへ。
Place:CRMを高度化させるために、チャネルを限定せず、マルチチャネルを有機的に連動させるオムニチャネルへ。
実際に「サービス」とは、顧客に対してどのような価値を提供するものなのでしょうか? 顧客が享受できると価値としては2種類あると思います。
1.顧客が、対価に相当すると思っている価値
2.対価に含まれると思っていない予想外な価値
特に顧客満足を維持するサービスとして効果的なのは二つ目で、顧客が抱く事前期待を相対的に超えた体験を提供することが、顧客満足に非常に良い影響を与えるといわれています。また現在、このような顧客期待に対する提供体験のマネジメントを「CEM」(カスタマーエクスペリエンスマネジメント)といい、注目されています。例えば、ビジネスの現場では「事前にクライアントの期待値調整をする」といった発言を耳にするかと思いますが、顧客の事前期待を高め過ぎないこともマネジメントの一環です。
さて、私は企業から提供されるサービス体験への顧客の事前期待としては「正確であってほしい」「機敏であってほしい」…などの六つの期待に分類しています(詳しくは直接ご説明をさせていただきます)。この六つの事前期待の何れかを超えるために企業が提供するサービスを「広告」「コンテンツ」「機能」「接客」「情報」に分類しています。
例えば、最近ご無沙汰となっている顧客にライフステージの変化が起こっていたとして、企業はすぐさま売りたい商品の広告を提供するのではなく、まずは顧客がライフステージ変化に伴い直面しているだろう課題を解決するような「コンテンツ」を提供する方が、顧客の持つ事前期待を超えた予想外の体験であり価値になるのではないでしょうか。これは、広告会社にとって「広告」以外にも提供領域が広がったと考えることもできると思います。
このように顧客の事前期待を超える体験設計をサポートするフレームワークとして「サービスモデルキャンバス」を提供しています。
またターゲット顧客がどの接点でどういった事前期待を抱き、現状その事前期待に応えられているのかを、第2回でご紹介した顧客感情を可視化するカスタマージャーニーを用いて定量的に検証します。その後、課題接点を発見して超えるべき事前期待を特定した後に、社内プランナーと共にサービス戦略とコンセプト設計を行います。その設計をする際には三つの視点が必要です。
1.「顧客」に対して、顧客の事前期待を超えるサービス品質を定義できているか。また具体的な提供サービスを先の五つの分類軸で整理します。
2.サービス提供する「従業員」に対して、従業員がサービス品質を維持するための判断基準や権限委託およびモチベーションが定義できているか。
3.サービス提供する「プロセスやシステムやデータ」に対して、それらが顧客や従業員に対して価値あるものになっているか。
特に最後のプロセスやシステムやデータの改革を「デジタルマーケティング」もしくは「デジタルトランスフォーメーション」と言っています。
広告会社が広告接点の最適化以外に提供できるソリューションとは
企業の顧客接点として広告以外の重要性が増す中で、広告会社が広告接点の最適化以外に提供できる具体的なサービスのソリューション例を挙げたいと思います。
コンテンツ
企業と顧客の接点が増す中で、企業にとって自社リソース以外を活用したコンテンツの重要性が増しています。そこで、出版社などの外部が所有するコンテンツを効率的に仕入れ企業が提供するサービスへと昇華するノウハウを提供しています。
接客
例えば自動車ディーラーの接客高度化を実現するシステムとして、顧客の自動車による来店をディーラースタッフが察知し、入店時に適切な声がけやおもてなしをサポートするシステムを提供しています。また商談自体を高度化するため、例えばセールストークに生かすことができるマスメディアやソーシャル上の自社商品に関する情報をサマライズするシステムの提供も行っています。
機能
例えば自動車会社の顧客に対して、24時間365日いつでも所有する自動車をディーラーへ入庫予約ができる機能の提供などを行っています。このようなサービスは、顧客の「機敏であってほしい」という事前期待を超える体験提供はもちろんのこと、従業員の日中の予約対応業務を軽減することで、より重要な顧客への接客時間創出にもつながっているのです。
このようなソリューションは先ほどのプロセスやシステムやデータの改革「デジタルトランスフォーメーション」によって実現されるものです。次回はこの「デジタルトランスフォーメーション」のフレームワークについてお話ししたいと思います。