デジタルマーケティング設計診断ツール
2017/06/21
第4回「サービスモデルキャンバス~顧客の事前期待を超える体験設計フレーム~」の記事で、顧客ロイヤルティーを向上するためには、顧客の事前期待を超える体験を顧客接点で提供することが必要であり、それを実現するための顧客や従業員に対する業務プロセスとシステムとデータの改革が「デジタルトランスフォーメーション」だと紹介しました。
今回はこのデジタルトランスフォーメーションを推進するフレームワークを紹介します。以下の図がその全体像です。
デジタルトランスフォーメーションの進め方
デジタルトランスフォーメーション全体を設計するには、まずはその目的となるKPIとKGIを設定します。方法としては第2回で紹介した顧客感情を可視化する手法を活用する事で、KPI・KGIに設定した項目を毀損している現顧客体験を発見します。
次に、その顧客体験を改善することによる顧客ロイヤルティー指標や業績指標の改善予測値を算出することで効果を可視化します。そしてそれら改善策をアイディエーションするために、例えば連載第4回で紹介した「サービスモデルキャンバス」のフレームワークを活用して、顧客の事前期待を超える施策のアイデア出しを行います。
さまざまな施策案が出された後に、それらを具現化するデジタルトランスフォーメーションとして、どのチャネル(顧客接点)で、どのようなデータを活用し、システムとしてどのような機能が必要で、そしてそれらを運用するための業務プロセスや組織はどうあるべきかという設計図を作成します。
その設計図から必要なコストが算出できるため、先に算出した改善予測値から各施策の費用対効果を算出することで、どの施策から優先的に着手するかの意思決定を支援することも可能となるのです。
デジタルトランスフォーメーション診断ツール
上記のような進め方で、さまざまな業種企業のデジタルトランスフォーメーションの支援を行っていた中で、どのような企業においても必ず設計検討が必要となる項目を整理しチェックリスト化したものが「企業のデジタルトランスフォーメーション設計深度を診断するツール」です。2015年11月11日時に作成し、更新を続けています。
この診断ツールは、企業が顧客に対して事前期待を超える体験を提供するため、デジタル改革設計の深度を客観的に診断するチェック項目と判定ロジックにより構成されています。チェック項目は「データ(顧客理解)」「チャネル(体験設計)」「業務(分析・企画・運用)」「マーケティングシステム」の四つのカテゴリーから構成されています。
チェック項目は大項目・中項目・小項目の合計50問。これらの項目のヒアリングを通じて企業のデジタルトランスフォーメーションの設計深度を判定していきます。なお、判定方法としては、米国の大学を中心に開発された組織プロセスの「成熟度モデル」を、この診断ツール用に改良開発したプログラムを利用しています。
具体的な診断方法については、ぜひ直接説明させていただきたいので、ここではチェック項目の概要を紹介いたします。
1「チャネル」について
・ターゲット定義ができているか
・ターゲット顧客が抱く顧客接点上の体験評価ができているか
・顧客を一元把握するチャネル統合環境
など
2「データ」について
ターゲットとなる顧客に関する
・所有データ属性(オンラインorオフライン、匿名or非匿名、自社or外部など)
・所有データ管理環境(名寄せ状況やポリシーなど)
など
3「システム」について
・クラウド利用に関するポリシー
・マーケティングシステム導入環境
・データ連携設計(クラウドと基幹システム間、自社と外部間など)
など
4「業務」について
・組織間でのKGI、KPIの指標管理と運用環境
・データオリエンテッドなマーケティングに対する体制や風土
・運用に対する組織や人材環境およびアウトソーシング環境
・組織間で連携が必要な業務に関する横断プロセス設計
など
また設計深度は、デジタルトランスフォーメーション全体と4カテゴリーおのおのを5段階で判定しています。
これらの診断ツールなどを活用して、これまで自動車会社や保険会社、エネルギー会社などを中心に支援を行ってきました。特に製販分離で対面営業チャネルの比重が大きい場合、マーケティングのデジタル化が経営課題として社内プロジェクト化していることの多い業種です。
そのような企業に対して、例えばデジタルチャネルと対面チャネルを統合した最適な顧客体験シナリオの作成や、メーカーと販売店のデータを統合し管理する仕組み、外部データを活用し遠隔でライフステージ変化や競合関心を察知し営業力や業務効率を向上する仕組み、シナリオに準じた顧客体験をオートメーション化して提供する仕組みの導入などを支援しています。
個人的な意見ですが、「デジタルマーケティング」は、今は購入および契約する気がないターゲットを動かすことは苦手だと思っています。それよりも、マスメディアで緩く集客し囲い込んだターゲットの中から潜在的に購入可能性がある顧客のイベントをリアルタイムで察知し、おのおののイベントに即した最適な切り口で効率的にアプローチする役割を担わせた方が全体投資対効果は高いと考えています。
このような手法は「イベント・ベースド・マーケティング」と呼んでいますが、私はこの全体戦略を「いけすマーケティング」と称しています。次回はこの考え方の詳細を紹介したいと思います。