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コンテンツ提供ビジネスに新たな価値を生む“デジタルいけす理論”~メディア企業でデジタルマーケティング~

広告以外で、デジタルマーケティング №6

  • 魚住 高志

2017/07/19

コンテンツ提供ビジネスに新たな価値を生む“デジタルいけす理論”~メディア企業でデジタルマーケティング~

本連載では、主に消費者に対して広義のサービス提供を行う企業のデジタルマーケティング革新について説明をしています。今回は、メディア企業におけるデジタルマーケティングについてお話ししたいと思います。メディア企業の事業は、主に二つあります。一つ目は、他企業と同様に消費者に対して広義なサービスとして情報やコンテンツを提供するB2C事業。二つ目は、そのメディア企業をスポンサードするクライアント企業の商品・サービスがより売れるようにサポートするB2B事業です。特に二つ目の事業において、広告会社と共にクライアントの事業課題を解決するソリューションを提供しています。

コンテンツのファンは誰のもの?

さて今回、メディア企業のデジタルマーケティングをテーマにした理由は、メディア企業がデジタルマーケティングに取り組むことで、スポンサー企業に対する提供価値をより高めることができるのではないかと考えているからです。また最近クライアントやメディア企業の方から、コンテンツ内に広告が単に露出されるだけのスポンサード形式に疑問を呈する声を聞くこともあります。この課題意識を、私はよく「コンテンツのファンは誰のもの問題」と言っています。

私は、クライアントが抱えるマーケティング課題を、単なる広告施策のみで解決しようとすべきではないと考えています。特に耐久消費財や高額商材などは、全ての消費者が広告でブランドを認知したタイミングで購入するわけではなく、何らかのタイミングにならないとそもそも自分ゴト化されない商材です。

例えば保険サービスの場合、普段何度も広告に触れていてもなかなか加入を考えなかった消費者が、就職や結婚や出産などのライフステージが変化したタイミングになると、真剣に保険を考える機会が多くなることがそれに当たります。つまり、消費者一人一人のタイミングを察するための仕組みや仕掛けを、あらゆるマーケティング施策において考える必要があると思います。そしてそれは、メディア企業によるコンテンツ提供型のマーケティングサービスにおいても同様だと思うのです。

そのような仕組みや仕掛けを考える際に、私はよく「いけす」の話を持ち出します。をウィキペディアで調べると「漁獲した魚介類を販売や食用に供するまでの間、一時的に飼育するための施設である」(7月12日現在)と記載されています。この例えにおいては、DMPやMAなどのマネジメントツールを“生け簀”、コンテンツを“食物”、消費者を“魚”で表現しています(分かりやすさを優先していますので、例え方はご容赦ください)。つまりこの場合は「コンテンツを求めてやってきたファンに対して、コンテンツを提供し続けて関係を維持しながらも、いざタイミングがきたファンを察知し供することができる装置」という意味となります。

この“育成”と“察知”の機能をいかにコンテンツ提供という枠組みの中で仕組み化するかが、今後のメディア企業のコンテンツ提供ビジネスにおいては重要であると考えています。

コンテンツファンを育成し、タイミングを察知する。

では、具体的にコンテンツファンをどのように育成し、どのようにタイミングを察知すればよいのでしょうか。まず二つの考え方があると思っています。一つ目は、メディアが育成し察知する。二つ目は、クライアント企業が育成し察知する。もしくはその掛け合わせもあるかもしれません。

ここで、一つ目を考える上で大きなヒントになりそうな取り組みを一つご紹介します。先日、オールアバウトから発表されたリリース(オールアバウトがネイティブ広告にマーケティングオートメーションを導入し、プロモーション効果の最大化を図る取り組みを開始~AllAboutのオーディエンスデータとコンテンツを活用し、顧客の獲得、育成、CRMまで一気通貫でマーケティングを支援~)が、メディア企業の提供価値として非常に新しいと考えています。

これまでのメディア企業は、主に広告という単発のソリューションで消費者にクライアント企業のサービスへの関心を高めてもらうことが提供価値でした。しかし、この取り組みでは、メディア企業が自社コンテンツを通じ大量に保有している、クライアントにとっての顕在顧客を育成し、顕在化したタイミングを察知しクライアント企業に送客するというのが、新たな提供価値です。

先の保険を例に挙げるならば、保険会社が保有する潜在顧客へ、自社コンテンツで保険に対する関心を育成する費用対効果よりも、第三者的な立ち位置にあるメディア企業が保有する潜在顧客に対して、これも既に保有する多様なコンテンツを用いて育成する方が、効率が良いこともあり得るのではないかと思うのです。

なお私が実際に取り組んだ施策は、上記二つ目の方法です。

ある会社は強力なコンテンツに協賛をし、都度そのコンテンツを活用したキャンペーンを展開することで潜在顧客リストを保有しているのですが、いかんせんそのコンテンツを求めて会員登録をしている消費者ゆえに自社サービスに関する告知をしようものなら会員が大量に退会するため、コンテンツを活用し会員を維持するコストをどのように評価すべきか困っていました。

そこで取り組んだ施策は、コンテンツファン会員が集まったいけすでは、そのコンテンツを餌として提供しながら関係を維持し続け、自社サービスのことには一切触れないことにしました。ただし、そのいけすには会員のライフステージ変化をリアルタイムで察知できる魔法の網を設置し、会員の中で今このタイミングで自社サービスが売れる会員だけをピックアップ、その変化に合わせた告知を可能とする機能を持たせました。その考え方を図示すると以下のようになります。なお 「顧客変化を察知する魔法の網」の具体的な方法については、直接説明させていただければと思います。

話をコンテンツ提供の話に戻しますと、これからのコンテンツ提供ビジネスにおいては、コンテンツのファンとして集った潜在顧客をメディア企業が育成し、スポンサーのサービスが売れるタイミングを察知して送客するといった具体的な仕組みがセットとなっていることが提供価値になるのではないかと思っています。

潜在顧客との関係を維持する装置(いけす)

次回が本連載(広告以外で、デジタルマーケティング)の最終回となります。ここまで、広告会社が提供するデジタルマーケティングの、主に広告領域以外での取り組みを6回に分けて紹介をしてきました。ただしこれら取り組みは独立しているように見えて、全て企業のデジタルトランスフォーメーションを設計する上で考えるべきことをプロセスとしてフレームワーク化したものです。次回は、ご紹介したフレームワーク全てをプロセスに基づいて整理したいと思います。