Dentsu Design TalkNo.94
コトバがない広告って、つまんなくないですか?(後編)
2017/05/20
電通デザイントークでは、東京コピーライターズクラブによる『コピー年鑑2016』発刊を記念したイベントを開催しました。catch の福部明浩さんは、大塚製薬カロリーメイトの「見せてやれ、底力。」などヒット作を連発しているコピーライター。博報堂の小杉幸一さんはレディー・ガガを起用した資生堂などの話題作の他、『コピー年鑑2016』のアートディレクションを担当したアートディレクター。そして電通からは、日清食品「10分どん兵衛」や「こち亀40周年&終了キャンペーン」が話題になり、昨年TCC新人賞を受賞した尾上永晃さん。司会は年鑑の編集委員長を務めた、サントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」シリーズなどで知られるワンスカイの福里真一さん。職種もバラバラの4人が「コトバのもつ力」について語り合いました。
コトバがないと検索できない
福里:小杉さんはアートディレクターという立場ですが、広告のコトバをどうデザインしていますか。
小杉:僕はデザイナーですが、広告を明快なコトバで考えています。コトバにしてクライアントに伝えないと、どこかでペテン師的な印象を与えてしまうのではないかと怖いからです。コピーをデザインした具体的な仕事については、レディー・ガガさんを起用した資生堂の広告を紹介したいと思います。
僕らのチームのコピーライターは仲畑貴志さんでした。まず、仲畑さんからコピー案を提出いただいたときに、A3用紙にコピーをプリントし、その言葉の箇所だけをカットされていてびっくりしました。
福里:仲畑さんはご自身の就職活動のときに、世に出ているさまざまな新聞広告のコピーの箇所の上に、自分で書いたコピーを貼りつけて提出されたそうです。いかに実際に使われたコピーより自分のコピーの方がいいかをアピールするために。その感覚と近いのかもしれませんね。
小杉:提案いただいたコピーが「あなたはあなたでいて。それが、あなたの美しさだから。」でした。このコピーをどうデザインしていくのかを考えたときに、レディー・ガガさんの撮影ができない中、自然体の過去のガガさんの写真を起用したいと思い、事務所に意思表示をしました。ところが上がってきた写真は、すべてガチッと決まっているガガさんの写真でした。そこで、ネットに上がっている自撮りしているガガさんの画像をそのまま使えないかと交渉し、実現できました。
また、今回のターゲットは、若い人へのメッセージでしたので、今までの資生堂ブランドの固まったイメージを少しでも崩せるように、ロゴマークを大きくし、さらに椿マークもとりました。先方への提案前に先輩に見せたところ「これはない」と怒られたりもしましたが、仲畑さんだけは「いまの時代はこれぐらいがいいんだよ、これでいけ」と背中を押してくださいました。
スズキ「HUSTLER(ハスラー)」の仕事では、コピーの「遊べる軽、出た!」を目いっぱい大きくデザインしました。デザイン上のコピーの大きさは、メッセージの“声量”の大きさと同じだと思っています。僕は今回のコピーを見て、これで軽自動車というジャンルは「遊べる軽」と「遊べない軽」に分類されたと思いました。そこで、そのメッセージが誰にでも届けられるように、画面に対して目いっぱい大きくレイアウトしたのです。
福里:博報堂のクリエーティブといえば、アートディレクターとコピーライターがコピーを入れるか入れないかで、延々ともめ続けているというイメージが強かったですよね。大貫卓也さんのエピソードなどをよく聞いていたので。最近はそうでもないんでしょうか。福部さんも博報堂ご出身ですが、いかがでしょうか。
福部:僕はコピーを入れるかどうか迷ったら、絶対に入れた方がいいと思っています。最近もCMに関する反応を調べようとTwitterを見ていると、やはりコトバに反応しているんですよね。だからコトバがないと、広告を見た人が気になっても、どう検索していいのか分からなくなると思います。ハッシュタグを増やすつもりで、コピーは絶対に入れた方がいい。
福里:確かにそうですね。コピーがないということは、広告の呼び名がないということですからね。
コトバがないと、つくり手もつまらない
福里:それでは、今日は司会ですので、私の話しはごく短めにさせていただきますね。
広告のコトバが伝わっていくために、文脈が大事だとか、どう拡散させていくかとか、そういう話も重要だとは思うのですが、あんまりそういう話ばっかりでも考え過ぎて疲れちゃう、というところもあると思うんです。
「コトバがない広告」は、つくり手にとっても「つくりがい」がなかったり、面白くなかったりするのではないか。逆に、コトバを考えることこそ、広告づくりの一番面白い部分なのではないか。ちょっとそういう視点でお話しさせていただきます。
私が担当している、サントリー「BOSS(ボス)」の宇宙人ジョーンズ・シリーズは、この4月で担当して12年目に入りました。ボスのキャッチフレーズである「このろくでもない、すばらしき世界。」は、ブランドの世界観を伝えるコピーとしてもちろん大事です。ただ、CMでメッセージを伝えるという意味では「この惑星の~~は、~~だ」という、宇宙人ジョーンズのモノローグの部分を考える、というのが、BOSSというCMのコトバを考えることなんですね。そしてそれが面白い。
なにしろ宇宙人が言っていることですから、「この惑星では」を付けさえすれば、たいていのことは許されますし、たいして深いことを言っていなくても、何か深いことを言っているように聞こえる。自分で言うのもなんですが、なかなかの発明だと思うんです。
たとえば、人類ってなんでこんなに頑張るんだろう、疲れるなぁ、という自分の普段感じている思いをそのままコピーにすると、「地上の星」編のモノローグ、「この惑星の住人は、川を見れば橋をかけ、山を見ればトンネルを掘る。自ら壁を見つけてはそれを乗り越えようとする。一体どこに向かおうとしているのだろうか」というものになったりする。
特にどなたからも褒められたことがないので、いま自分で褒めているわけなのですが(笑)、このフレームがあることによって、自分が思っていることを自由に世の中に発信できる。
せっかくコピーライターという仕事に就くことができたのですから、こんなふうにもっとコトバを書くことを楽しんでもいいと思うんですよね。
福部:僕も最近CMの仕事ばかりしているのは、CMが楽しいからです。BOSSのCMは本当にあらゆる事象を取り込んでいけますよね。今回のトークイベントの事前の打ち合わせで話していて面白いなと思ったのが、福里さんが「山の8合目あたりをぐるぐる回っていて、高みに上るつもりはない」と言い切られたことです。
でも、それもすごく大事だと思います。先ほど尾上さんがウェブではユーザー側の視点が大事だと言っていました。いまの時代は「下から目線」の方が語りやすいですよね。ただ、ジョーンズは超「上から目線」ですが(笑)。
尾上:どういう人物が、それを語るのかということは重要ですよね。なぜこれを、この人が批判するんだって、炎上騒ぎの根本もここにある気がします。
これはメディアの構造上そうなんですが、テレビは上意下達で、ウェブは下から生まれてきたメディアなんで、企業側が発信するときも大事なことは常に受け手の思いに寄り添う“下から、もしくは横から目線”だと思っています。
『コピー年鑑』の有効活用
福部:尾上さんは打ち合わせのときに昔の『コピー年鑑』に載っている15段広告を、そのままウェブにトレースすると、もっと面白くなると言っていましたよね。
尾上:岸さんに言われ、年鑑の写経をやっているときに「デジタルっぽいもの」が多いなと思ったんです。例えば「ただ一度のものが、僕は好きだ。」という、秋山晶さんのキヤノンのコピーがあるんですけど、これで今何かやるとしたら、1回しか撮れないカメラつくればいいんじゃないの、とか。調べたら、海外ですでに1回しか写真が撮れないアプリが公開されてましたが。
糸井重里さんの「サラリーマンという仕事はありません。」も、実際に広辞苑から「サラリーマン」という言葉をなくしたら、ニュースになりそうですし。「消えたかに道楽」や「豊島園に、サンタフェの扉が、やって来た!!」なんかは、今そのままやっても絶対に話題になるでしょう。人間が考えることや思うことなんてそう変わらないので、そういう意味で『コピー年鑑』はネタの宝庫かなと。デジタルの訓練にもオススメです(笑)。
福部:人の琴線に触れるものは、過去に誰かがやっているということなんでしょうね。
小杉:今はさまざまなメディアがありますが、昔は限られていたために一つの広告に対する思いが、全然違っていたのではないでしょうか。だから過去のコピーには、時代や企業の思いなどが凝縮されて、シンプルに表れているのかもしれません。
福里:非常にいい流れで『コピー年鑑』の話になりました。つまり、『コピー年鑑』を持っていると、今も今後も、なにかとけっこう使える、ということですね。これは、多少ムリしてでも買っておいた方がいいですよね(笑)。最後に、今年の『年鑑』のデザインを担当してくれた小杉さん、デザインの見どころは?
小杉:コピーの神様を務めていただいた樹木希林さんが年鑑のいろいろな箇所にいらっしゃいます。さまざまなコピーに対して、全部で30パターン以上の表情をしていますので、ぜひ見てください。
福里:今日はどうもありがとうございました。
<了>
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