コトバがない広告って、つまんなくないですか?(前編)

Dentsu Design Talk №100

  • 福里 真一
  • 福部 明浩
  • 小杉 幸一
  • 尾上 永晃

2017/05/19

コトバがない広告って、つまんなくないですか?(前編)

電通デザイントークでは、東京コピーライターズクラブ(TCC)による『コピー年鑑2016』発刊を記念したイベントを開催しました。catch の福部明浩さんは、大塚製薬カロリーメイトの「見せてやれ、底力。」などヒット作を連発しているコピーライター。博報堂の小杉幸一さんはレディー・ガガを起用した資生堂などの話題作の他、『コピー年鑑2016』のアートディレクションを担当したアートディレクター。そして電通からは、日清食品「10分どん兵衛」や「こち亀40周年&終了キャンペーン」が話題になり、昨年TCC新人賞を受賞した尾上永晃さん。司会は年鑑の編集委員長を務めた、サントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」シリーズなどで知られるワンスカイの福里真一さん。職種もバラバラの4人が「コトバのもつ力」について語り合いました。

4人集合写真(前編)
(左から) catch 福部明浩氏、博報堂 小杉幸一氏、電通 尾上永晃氏、ワンスカイ 福里真一氏

コピーで大事なのは、文より文脈?

福里:今日はTCCの『コピー年鑑』刊行記念トークイベントになります。タイトルは思い切って、「コトバがない広告って、つまんなくないですか?」としてみました。当然、反論もあるかと思うのですが、私個人は、コトバがなんにもないと、どうも自分の人生とカンケイある感じがしなくてつまらない。それに、コトバというのは、とても便利で、広告にもコトバが付いていることで、後から思い出すことができたり、人に語ったり、話題にしたりすることができると考えています。

 

というわけで、まずは、福部さん、最近印象に残った広告の「コトバ」はありますか?

福里氏 前編

福部:元SMAPの中居さんを起用したキリン氷結のポスター「言わせとけ。」ですね。「前へ。」とか「よろしく自分。」とか、複数のコピーがあるシリーズでしたが、中でも「言わせとけ。」が抜群に素晴らしい。

 

今の時代、何をやるにしても周囲からいろいろと言われてしまうじゃないですか。その時に、「言わせとけ。」と言い切るすがすがしさ。たった5文字ですけど、時代を救っている言葉だなと感じました。時代が偏っているときって、こうしたカウンターパンチみたいなコピーが効くんですよね。

 

最近はコピーライターと名乗る若手が減っていると聞きました。博報堂でも、コミュニケーションデザインの領域に人気が集まっているようです。ただ、このコピーの話とも通じますが、時代が偏っているのであれば、その反対側に「おいしい場所」があるはず。今こそコピーライターをどんどん名乗った方がいいんじゃないでしょうか。そして「コピー年鑑」をこれ見よがしにデスクに置いて、自分はコピーライターです、という広告塔にしてはどうでしょう(笑)。

福部氏 前編

福里:昔、シンガタの佐々木宏さんが電通でクリエーティブに転局したばかりで仕事が全然なかったときに、社内の自分のデスクに自信のあるコピーを「誰か見てくれ」って、これ見よがしに張っていたらしいです。そこを当時電通のクリエーティブディレクター(CD)だった大島征夫さんがたまたま通りかかって、ある日、突然仕事をくれたと聞いたことがあります。なかなか普通の日本人の感覚だと恥ずかしくてできないことですが(笑)、まずは自分のやりたいことをアピールするというのは大事かもしれませんね。

 

福部:ただ自分がCDになってみると、コピーライターだけしかやっていない人は「発想が硬い」というか、正直なところ使いづらいなという感じはしています。博報堂ケトルの嶋浩一郎さんが「いいコピーライターは文ではなく、文脈をつくる人だ」と言っていました。まさにその通りだと思います。

 

そこで僕は、現代における理想的なコピーライターは「電通の尾上さんのことだ」と思っていて、今日の会に誘われたときにも「ぜひ、参加したい!」と答えました。

 

尾上:あ、ありがとうございます…。実は、僕の師匠は岸勇希さんなので、どちらかといえばコミュニケーションデザイン側の人間です。ただ、岸さんの下に配属されたとき、岸さんから最初に言われたのは、「広告はコピーが大事だから、コピー年鑑を1960年代からさかのぼって、その時代に何があったのか、時代背景と照らし合わせながらコピーを写経するように」ということでした。

 

文脈が大事というのも、まさにおっしゃる通りだと思います。商品についてネット上でコミュニケーションすると、そのフォロワーたちと延々と付き合っていかなければいけませんから、その商品がどんな性格なのか考えなければいけません。ぶれたらいけませんから。

 

そこで僕は商品を学校のクラスの中に居たキャラに置き換えるようにしています。例えば、コカ・コーラ君は「明るいクラスの人気者」なので、競合商品は「シニカルで人気があるひねくれ者」みたいに設定したり。そうすると、言うことや行うこと全部に芯が通っているように見えてきます。

尾上氏 前編

福部:商品をキャラクター化することで、文脈に乗るということですね。

 

福里:文よりも文脈というのは、コピーライターの技を発揮して凝った文をつくるというよりも、受け手が受け入れやすいコトバを使うといったイメージでしょうか。

 

福部:そうだと思います。僕が担当している大塚食品「ビタミン炭酸 MATCH」も、コカ・コーラや三ツ矢サイダーといった、100年を超えるビッグブランドとどう戦っていくかを考えて、とにかく高校生のナンバーワンの炭酸になろうと決めました。

 

最初のころは「青春と言わずに、青春を描く」のがコピーライターの仕事だと思って、青春という言葉をかたくなに封印していました。ただ、あるとき青春を描くなら、青春って言った方がコミュニケーションのスピードが速まるよねと思い直して、「青春ほどの難問はない」という三角関係をテーマにしたCMを作りました。その後のコピーも、青春というワードを2回入れている「青春がないのも、青春だ。」です。

 

福里:「青春がないのも、青春だ。」は、文脈にもはまっているとは思うんですが、文としてもうまいコピーですよね。こういうの、尾上さんから見たら、やっぱり鼻に付きますか?

 

尾上:何でそんなイヤなヤツ風に(笑)。すごく好きなコピーです。言葉自体、みんな言いたくなる感じがしますよね。

 

福里:僕が福部さんに聞いてみたいのは、カロリーメイトのキャッチフレーズが「とどけ、熱量。」から、「見せてやれ、底力。」に変わりましたよね。そこには、どんな意図があったんでしょうか。「とどけ、熱量。」は、すごくうまいコピーですよね。一方で「見せてやれ、底力。」は、わりと素直な言葉だと思うんです。

 

福部:「とどけ、熱量。」は、カロリーメイトの商品コピーとしては、完成品だと思っています。ただ、商品の視点が強すぎるかなとも思っていました。そこで、少し受け手側の言葉に変換した方がいいかなと考えて生まれたのが「見せてやれ、底力。」です。長距離ランナーの中には、この言葉を心の呪文として唱えながら走っている人たちもいるらしいです。

 

福里:たしかに、心の中で「とどけ、熱量。」とは言わないですね。それも、みんなが言いたくなるかどうかという視点なんですね。

 

福部:そうですね、広告の受け手が「言うか」「言わないか」は重要かもしれないですよね。このコピーを考えた背景には、ゼロカロリーブームがあります。カロリーメイトは「カロリー」という単語が名前に入っている以上、その文脈には乗れないわけで、違う文脈に置き換えて勝負した方がいいと思ったんです。

 

拡散していくコトバを見つける方法

福里:最近、シンガタの佐々木宏さんは「デジタル系でいま一番面白いのは尾上くんです」と呪文のように唱えています。おそらく澤本嘉光さんあたりに吹き込まれたことをうのみにしているだけだろうとは思うんですけど(笑)。

 

そんな尾上さんは、「コトバ」をどんなふうに意識しながら、キャンペーンを手がけているんですか?

 

尾上:どん兵衛のデジタルキャンペーンは1年半ほど担当しています。いろいろやってみた結果、デジタル広告は、テクノロジーを駆使する方法に限らず、デジタル上で話題になりそうな要素をちょっと入れるくらいのやり方でもいいんじゃないかと思っています。

 

最近、自主提案で実現した渋谷駅ホームのどん兵衛店舗「どんばれ屋」の閉店広告も、全然デジタルじゃないけどデジタル上で話題になりました。もともと僕は小さなお店の閉店メッセージが好きで、写真に撮って集めているんです。例えば、近所のお店なんですが、35年間続けたお店が閉店するのにA4用紙1枚しか張ってなかったりして。35年分の思いをA4に詰め込むって、そのA4の熱量すごくないですか?

 

6年の間愛されていたどんばれ屋でも同じことを実現したいと思って、「どんばれ屋店長」の思いは何だろうと考えた結果、出てきたのがこのコトバでした。

 

「お湯入れるだけでいいから楽だったのに…。ありがとうございました。」

 

閉店した店内にやかんと一緒にメッセージの紙を置いたら、どなたかが写真に撮って拡散してくださいまして、それがきっかけでいろんなメディアに取り上げられました。やかん代5000円で、5000万円分ぐらいの露出になりました。

 

福里:そうやって拡散していくコトバというのはどうやって、見つけていくんでしょうか。

 

尾上:みんなが言いたがっていることや言いそうなことを、こちら側が先に言うと拡散しやすいのではないかと思っています。これは10分どん兵衛やどんばれ屋を企画した時に気付き、「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の終了キャンペーンの最後に公開したサイトでも、それを実行してみました。

 

年表をずらーっと眺めた最後に出てくる「そして前人未到の連載40周年。200巻へ。ご愛読ありがとうございました」というメッセージの後に、「待て!!」「まだ終わりじゃないぞ!!」と、両さんを登場させて、「こういうときだけ『最近読んでないけど好きだった』とか、『もっと続いて欲しかった』とか言いやがって。うれしいけど」と書きました。これが言われそうだなと思っていたことです。こち亀マニアなもんで(笑)。

 

そして最後は、大原部長に「ちょっとはしんみりせんか!」と怒られるという、お決まりのオチをつけました。うれしかったのは「これこそ『こち亀』らしい演出ですね。お疲れさまでした」といった、ポジティブなツイートが多かったことです。

 

世の中の反応はこうなるだろうと予測して、投げるコトバを決めていく。その時に、キャラクターが文脈から外れないようにする。そうすれば、そこからおのずとコトバが広がっていくのだなと、どん兵衛や『こち亀』の施策を通じて手応えを感じています。

 

福部:やっぱりコトバが効いていますよね。「どんばれ屋」のコピーも「楽だったのに」のあとに「ありがとうございました」と、入れるかどうかで受け手の印象が全然違ってくる。

 

感謝のコトバがあるから「意外と店長、いいやつかも」と思ってしまう。『こち亀』も同じで、最後に両さんの「うれしいけど」の一言があるのとないのでは、受け手の感じ方がまったく変わってきます。

 

小杉:僕は『こち亀』ファンで、ウェブサイトも全部見ました。実はドラマのアートディレクションしているくらいです。ファンとしては、すごくうれしかったですし、尾上さんは、作り手側というよりもファンの中にいて、そこからコトバを拾ってくるのが、すごくうまい人だなと思いました。

小杉氏 前編

福里:尾上さんのお話を聞いていると、文脈を大事にしつつも、文も大事にされているように感じますね。それにしても、世の中の人がどう思うのか、どう受け取るのかを見つけるコツって、あるんですか?

 

尾上:シンプルな話ですが、Twitterを検索してます。すごく簡単な話ですが、右上の検索窓に商品名を入れて、みんながどんなふうに思っているのか、自分の考えとズレがないのか確かめます。

 

研究に近い感じかもしれません。仮説を立てて、実施して、反応を見て、また仮説を立てて、検証して…。そのうねりに合わせて精度を上げていくという。

 

※後編に続く
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企画プロデュース:電通ライブ クリエーティブユニット第2クリエーティブルーム 金原亜紀