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「届く表現」の舞台裏No.15

建築家 伊東豊雄氏に聞く 
これからの建築、これからの時代

2017/05/29

「『届く表現』の舞台裏」では、各界の「成功している表現活動の推進者」にフォーカスします。今回は、建築家の伊東豊雄氏に、人々の新しいライフスタイルや、これからの建築について伺いました。

伊東豊雄氏
 

都市の行く末で最も気に掛かることは、均質化、ということです。再開発や建て替え自体はよいと思いますが、建築物が高層化や経済性の追求でどれも同じようになっているのではないか。その結果、人々の暮らしや働き方や表情まで、自然から離れていき均質化してしまうのではないか。私は、都市における自然との関係回復の方法をとても気にしています。都市には今までのいろいろな歴史が堆積されていますから、それらを掘り起こしていくような作業が必要なのではないか。そうすると、建築物もおのずから「その場所にしかないものを」となります。建築が自然や土地になじみ、そこで自然と接した暮らし方を回復するようにしていきたい。

例えば東京には、坂や大きな木や庭園など、江戸の名残が随所にある。大阪なんかにはもっと昔のいいものもあるかもしれない。各地方都市に、きっとそれぞれの歴史の堆積がある。こうした各土地の固有の特性が見えてくるような開発をしていってほしい。それは、和風の建築を、ということではないんです。土地の持っている力を掘り起こす、という考え方です。結果としてそれぞれの土地、ひいては都市全体の価値を上げていくことにもつながっていくと思います。

今後、人々の暮らし方もきっと変わっていくでしょう。今までの経済性偏重の考えの下では、あらゆるものが一方的に都市に向かっていた。大都市対地方という二分された暮らし方思想が当たり前だった。これからは、都市にも住むし田舎にも住む、それらが境界の切れ目なく結ばれていくような社会が日本には理想的ではないか、と思っています。日本ほど交通インフラが発達している国はないですし。そして移動空間もますます快適に進化して居住性が高まり、その時間も部屋や建築物で過ごす感覚になっていくことでしょう。鉄道はだいぶそうなってきているようですし、これから車の自動運転化も進むでしょうから。

私は今、瀬戸内海の大三島に頻繁に通ってあるプロジェクトに取り組んでいます。もともとは他の方からのミュージアムの建築依頼がこの島とのご縁だったのですが、クライアントが私のミュージアムにしてはと言い始め、今治市も乗ってしまったので、深く関わるようになっていきました。ちょうど東京・恵比寿で「伊東建築塾」という私塾を始めた頃で、塾生と一緒に通ううちにみんなすっかり気に入ってしまって、島の方々との交流も始まって。

昔からの共同体の考え方や暮らしが残るこの美しい大三島を舞台に、明日のライフスタイルを考えてみるような取り組みです。観光地化でもないし「島おこし」の言葉とも違う。都会から移住して仕事もできるようにしたい。それで、島と東京や大阪といった都会を結ぶような暮らし方のモデルをつくりたい、と思っているのです。まだまだスタートしたばかりですが、少しずつ形になってきています。建築家の仕事の領域を超えていると言われることもありますが、私は今建築家に一番必要なことは社会の中にもっと深く入り込んでいくことだと思っているのです。

日本は資本主義の最先端に到達してしまって、豊かさの指標を経済万能思考から別の方向へとパラダイムシフトする必要がある、という考えに私は深く共感します。若い人があまりモノに執着しないとかシェアすることを重視する考えを持つとかは、直感的に次の時代を嗅ぎ取っている気もします。かつての経済成長を遂げた日本をもう一度、というのはもはや古い考え方に思えるのです。新しい別の思想で変わっていく日本の姿を考えてみることに、とても興味がありますね。

大三島での活動を紹介する展覧会「伊東豊雄展 新しいライフスタイルを大三島から考える」が 東京・京橋のLIXILギャラリーで6/18(日)まで開催中/©Ayumi Yoshino
©Ayumi Yoshino
大三島での活動を紹介する展覧会「伊東豊雄展 新しいライフスタイルを大三島から考える」が 東京・京橋のLIXILギャラリーで6/18(日)まで開催中