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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.109

ひとの気持ちを動かす「意地悪さ」

2017/06/15

中学のころから女優・工藤夕貴さんのおっかけをしているぼくが勝手に「世界三大工藤さん」と称し、愛してやまないのがアートディレクターの工藤真穂さんと工藤章子さん。その真穂さんが、5月末をもって電通を卒業しました。

思い返せば、いろいろなチャレンジをご一緒しました。ちょっと変わったところでは、テレビ静岡他で放送したこども番組『からくり侍セッシャー1』(2011年~)のロゴマーク。CGを使った派手な戦闘シーンの代わりに、地元に密着した、ちょっと風変わりなヒーローものにふさわしく、ちょっと懐かしくて、やさしいデザインでした。

セッシャ―ロゴ

この「やさしい」という単語。真穂さんの作品について語るときにみんなが好んで使うキーワードのように思えます。ご本人もホンワカ、やわらかいお人柄なので、そういった印象が強くなるのでしょう。では本当に真穂さんは「やさしい人間」なのでしょうか?
今回、その謎(?)を解くカギを入手しました。この映像は昔々、彼女がつくったもの。かつて、ぼくはこれを見て「一緒に仕事をしたい!」と思ったのでした。

これを見ていただければ一目瞭然。そこにあるのは冷静な人間観察の目。ひとの気持ちをもてあそぶような、ある種の「意地悪さ」です。

広告会社で習うコミュニケーションの基本に「伝えること≠伝わること」というのがあります。たとえば、窓のそばに立っている年長の方に、その窓を開けてもらいたい場合、何と言えばよいのでしょうか?「窓を開けてください」だと「なんで、俺さまがわざわざ手を動かさなくてはならないの?」とへそを曲げられちゃうかもしれません。「恐れ入りますが…」と丁寧にすれば、ちょっとは改善されるかも。親切な方なら「この部屋、空気がこもって蒸しますか?」で十分でしょう。「外の空気、涼しそうですね」がかつてぼくが先輩に教わった、かつ気の利いた答えでした。


いずれにせよ「買いたい」とか「おいしそう」とか、この場合なら「窓を開けよう」といったような、コミュニケーションの結果として「獲得したい気持ち」をそのまま言葉にして伝えるだけでは十分でありません。相手(ターゲット)の様子を観察し、ホンネベースでどのような反応が起こり得るか、徹底的に考え抜きます。ひとの気持ちを動かすには、そこに起こる「化学反応」を計算に入れる必要があるのです。

当時まだ本当の若手社員だった真穂さんがこのコミュニケーションの大原則を熟知していることは明らかでした。以来、なにか新しいチャレンジをするたび、相談に乗ってもらうようになりました。

贈り物弁当

一緒につくった「贈りもの弁当」というカタログギフトは、まさに「お客さまの気持ち」と向き合った商品でした。詳しくは以前書きましたが、一見おいしそうなお弁当に隠された「仕掛け」が商品の魅力になっています。海外を含めたいくつかの賞でも、その点が評価されました。

コンセプトのつくり方

 

そうそう。忘れてならないのは、拙著『コンセプトのつくり方』の装丁。ふつうは目につかない帯の下に、こっそりぼくの似顔絵を忍ばせたイタズラ(イジワルではないですよね・笑)には困っちゃいましたが。

工藤真穂さんメッセージ

真穂さんはこれから、旦那様とお子さんの家族3人、ドイツに住むのだそうです。電通卒業はおめでたいことですが、正直さみしいなぁ。とはいえドイツに行っても、デザインのお仕事は続けるそうなので、必ずまたご一緒できるハズ。その日を楽しみに、心から「イッテラッシャイ!」

どうぞ、召し上がれ!