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ADWASIA2017リポートNo.2

テンセント、フェイスブック~テクノロジーが人々を自由にする ITプラットフォーマーが描く近未来

2017/06/27

昨年アジアに初上陸したマーケティング・コミュニケーションの祭典「Advertising Week」が、今年も東京で「アドバタイジングウィーク・アジア2017」として開催された。5月29日から6月1日の4日間、東京ミッドタウンには、ブランド、メディア、テクノロジーなど幅広いテーマを軸に世界から有数の経営者やCMOクラスのリーダーたちが集結。パートナー企業・団体数は昨年の50から64に増加し、約1万3000人が参加した。

キーノートから、アイソバーに続いてテンセントとフェイスブックの講演を紹介する。方や中国で、方やグローバルで、プラットフォーマーとして揺るぎない地位を築いている両社。スマートフォンによって、先進的なユーザー以外の層にもテクノロジーが浸透する中、高機能ながら誰もが簡単に使える仕組みやインターフェースで多くのユーザーを擁している。彼らが考える“次に来るもの”とは?

 

中国の若年層に影響与えるセレブリティー

「中国におけるデジタルの歴史は、それほど長くありません。しかし、デジタルは今、中国人の生活に大きなインパクトを与えています」と解説するのは、テンセントのコーポレート・バイスプレジデント、スティーブン・チャン氏。19年前に設立した同社は、翌年にメッセンジャーサービス「テンセントQQ」をリリース。以降SNSやゲーム市場で収益を伸ばし、時価総額でアリババ・グループとアジア1位の座を激しく争っている。スマートフォン決済やクラウドサービスも拡大し、今年4月には世界の時価総額ランキングでトップ10に浮上している。

またAI領域へも積極的に進出。「2016年のリオオリンピックでは、AIによる記事作成に取り組み、16日間で3600以上の記事をリリースした」とチャン氏。この5月には、自国に次いで2カ所目となるAI研究所を米シアトルに開設している。

現在、中国の人口は14億人近くに上るが、その中でSNSアプリ「Qzone」は現在8.6億人、認証制のメッセンジャーアプリ「WeChat」は9.4億人ものユーザーを誇る。「それでも、人口の半分ほどにしかリーチできていない」とチャン氏。スマートフォンの増加も続いており、まだまだチャンスが眠っていると意気込む。「われわれはソーシャルのDNAをもって、テクノロジーを使ってコンテンツを届け、人々をつないでいます」

テンセント コーポレート・バイスプレジデントのスティーブン・チャン氏
テンセント コーポレート・バイスプレジデントのスティーブン・チャン氏

SNSは友人とのコミュニケーションを主な目的に使われているが、特に若い世代にとって、購買の決定にもSNSが大きな影響力を与えている。チャン氏が紹介する1980年以降生まれ(Post80s)と90年以降生まれ(Post90s)の購買決定に関するデータによると、いずれの世代でも1位「好感を持った(I like it)」、2位「価格(Pricing)」は同じだが、Post80sでは3位の「口コミ(Word-of-mouth)」がPost90sでは4位、逆にPost90sでは3位に「友人の勧め(Friends Recommendation)」が挙がっている。実に70%以上が、ソーシャルメディアを経由して買い物したことがあるという。

「また、中国では若年層に対するキーオピニオンリーダーとして、タレントやミュージシャンなどのセレブリティーの影響力が高く、マーケティングにおいて重要です。加えて、日本ではどうか分かりませんが、中国では親からの勧めも強く作用します」

中国の若年層の70%以上が、購買の意思決定にソーシャルメディアの影響を受けている
中国の若年層の70%以上が、購買の意思決定にソーシャルメディアの影響を受けている

モバイル決済の覇者の座を狙うテンセント

現在、テンセントは数多くのローカルおよびグローバルブランドをクライアントに持つ。「われわれのプラットフォームを通して、各ブランドはキャンペーンをよりリアルタイムに、そしてより共感を得る形で展開することができます」とチャン氏が強調するように、近年では主にWeChatを活用した複数の事例で目覚ましい効果が上がっている。

例えば化粧品ブランドのロレアルは、カンヌ国際映画祭の公式スポンサーとして毎年メークアップのトレンドを発信していることを活用し、2015年にWeChatを通じたキャンペーンを展開した。中国のPost-90女性層にとってカンヌは身近なテーマではなかったが、WeChatのタイムラインで、同社のスポークスパーソンであるセレブリティーたちから「今カンヌにいるの!」と、まるで友人のように“Personal Voice Invitation”を配信。公式アカウントへ誘導し、カンヌからの発信にリアルタイムで接する体験を通して、そのファンベースをわずか10日間で25万人から50万人へ倍増させた。若年層向けのトレンディーブランドとしてのイメージは42%向上し、Eコマースの売り上げは454%伸長した。

他にも、データ活用の事例として、SNSアプリ「QZone」の膨大な写真データを活用して個人の振り返りを生成するコカ・コーラのリオオリンピックキャンペーン「Golden Moments」を紹介。また「今やあらゆるものがソーシャル化でき、人とつながる媒介になる」と提示し、音楽プラットフォーム「QQ music」を活用したナイキの「NIKE RUNNING RADIO」を例に挙げる。走るペースに合った音楽が提供され、それを友人とシェアできるのだ。

さらに今、中国が国を挙げて推進するシェアリングエコノミーについても、チャン氏は「『WeChat Payment』を通して実現している」と語る。そしてWeChatをマネープラットフォームとして活用した初の施策となった、デジタルギフトカードを贈り合えるスターバックスのキャンペーンを示しながら「モバイル決済は素晴らしいビジネスの可能性を秘めている」と、その覇者になることへも自信をのぞかせた。

WeChat Paymentを使ってO2O(Online to Offline)を促進したスターバックスのキャンペーン
WeChat Paymentを使ってO2O(Online to Offline)を促進したスターバックスのキャンペーン

フェイスブックが注力するビジュアルコミュニケーションとAR

次に何が生活者のスタンダードになるのだろうか? それを読むのは容易なことではない。フェイスブックのチーフ・プロダクト・オフィサーのクリス・コックス氏は、自身がスタンフォード大の学生だった2005年、シェアオフィスに入居していた同社を初めて訪れた際のことをこう話す。「同じオフィスにはアンドロイド社が入居していました。フェイスブックチームは『ブラックベリーがあるのになぜモバイルOSをつくっているのか』と思っていたし、向こうは『マイスペースがあるんだからフェイスブックなんて要らないんじゃない』と思っていたでしょう」

フェイスブック チーフ・プロダクト・オフィサーのクリス・コックス氏
フェイスブック チーフ・プロダクト・オフィサーのクリス・コックス氏

当時は大学生向けのディレクトリーサービスだったフェイスブックが、今どのような変容を遂げたかは周知の通りだ。「直近では2016年、フェイスブックとインスタグラム、メッセンジャーアプリなど各種の機能を取り込んで、シームレスに使えるようにしました。結果的に、例えば世界中で今、フェイスブックは災害時の安否確認にも使われるようになりました」

今後の展望として打ち出されたのは、「ビジュアルコミュニケーションの時代になる」ということ。まず今年、動画の共有がスタンダードになる、とコックス氏は指摘する。「ゲーム、ショッピング、レシピ、メッセージ…全てに動画が組み込まれることを、デザイナーやエンジニアは注視する必要があります。つまり、動画のコミュニケーションへアクセスするのに一切の摩擦を取り払い、シームレスに設計しなければなりません」

その一助として、フェイスブックでは新しい機能のいずれでも、使いやすいフォーマットにこだわり、企業での活用も促している。例えば15年から提供しているニュース配信サービス「インスタントアーティクル」では、誰もが直感的にリッチコンテンツを作成できるが、現在日本では東洋経済オンラインがこれを導入し、サイトの滞在時間を向上させ収益も40%伸ばしているという。

「さらに10年後は、モバイルも使っていないかもしれない。眼鏡のようなウエアラブルデバイスが主流になるのでは。動画よりもさらに没入感がある手法としてAR、VRも拡大するでしょう」とコックス氏。すでにこの春、フェイスブックカメラにエフェクト機能を追加し、開発者がARエフェクトを自作できる「Camera Effectsプラットフォーム」もローンチしている。「われわれが考えている、テクノロジーを使って人々をつなげていく構想の一部をお見せしました。これらが身近になるのはもうすぐそこです」と語り、期待を高めた。

コックス氏は静止画、動画の他にもカルーセルやチルトスクロールなどの新しい表示フォーマットを紹介
コックス氏は静止画、動画の他にもカルーセルやチルトスクロールなどの新しい表示フォーマットを紹介