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広告会社とコンサル会社 その未来は競争か、協業か

ADWASIA2017リポート №3

  • アドバタイジングウィーク・アジア 2017

2017/07/11

広告会社とコンサル会社 その未来は競争か、協業か

昨年アジアに初上陸したマーケティング・コミュニケーションの祭典「Advertising Week」が、今年も東京で「アドバタイジングウィーク・アジア2017」として開催された。5月29日から6月1日の4日間、東京ミッドタウンには、ブランド、メディア、テクノロジーなど幅広いテーマを軸に世界から有数の経営者やCMOクラスのリーダーたちが集結。パートナー企業・団体数は昨年の50から64に増加し、約1万3000人が参加した。

多種多様なセッション群の中でも高い注目を集め、会場を満席にしたのは、広告会社とコンサルティング会社からパネリストを招いた「デジタル領域(データ戦略)における広告会社とコンサル会社の協業と競争」だ。電通、博報堂、アクセンチュア、PwCコンサルティングのデジタルを率いる面々が集結し、デジタルをどう捉えているか、そして互いの動きをどう見ているかを明かした。和やかながら白熱した議論の一部を紹介する。

広告会社とコンサルティング会社の領域が重なりつつある

生活者が自由自在にデジタルを使いこなす中、企業にとってデジタルはもはやマーケティングに欠かせない要素になっている。そうした状況に対応すべく、電通、博報堂の両社は近年相次いでデジタルの専門組織を立ち上げ、従来の“広告会社”の業務をはるかに超えた包括的なエグゼキューションの提供に注力している。一方のコンサルティング業界では近年、米国で大手コンサルティング会社によるデジタルエージェンシーやクリエーティブエージェンシーの買収が相次ぎ、デジタルをもって企業の経営課題の解決に取り組む姿勢を色濃くしている。日本でも、昨年アクセンチュアがIMJを傘下に収めたことがニュースになり、これを機に「広告会社VSコンサルティング会社」の構図がメディアをにぎわせるようにもなった。

それぞれの出自や得意分野が異なること、そもそもクライアント各社の課題が千差万別であることを考えると、一概に真っ向から競争関係になったとはいえない。しかし、米国ではデジタル領域における広告会社の売り上げランキングトップ3が全てコンサルティング会社になっているのは事実だ(※アドエージ誌「エージェンシーリポート2017」)。

今回のセッションを発案したのは、アドバタイジングウィーク・アジア事務局長であるイグナイト社長の笠松良彦氏だ。同氏はモデレーターとして登壇し、「広告会社とコンサルティング会社の事業領域が重なりつつある中、それぞれお互いをどう思っているのだろう、という僕自身の率直な疑問がセッションのきっかけ」と話す。

(左から)電通デジタルの鈴木禎久氏、博報堂の安藤元博氏、アクセンチュアの黒川順一郎氏、PwCコンサルティングの松永エリック・匡史氏、モデレーターのイグナイト 笠松良彦氏
(左から)電通デジタルの鈴木禎久氏、博報堂の安藤元博氏、アクセンチュアの黒川順一郎氏、PwCコンサルティングの松永エリック・匡史氏、モデレーターのイグナイト 笠松良彦氏

デジタルは人の体験を根本から変える

セッションはまず、各社がデジタルをどのように捉えているのかの解説からスタートした。昨年設立した電通デジタルで社長を務める鈴木禎久(よしひさ)氏は、「People Driven Marketing」という新たな概念を提示する。人を基点として考え、最終的に人が動くことを見据えて、同社が有するデジタルを中心としたメソッドを駆使してプランニングしていく考えだ。「経営や事業における課題にも、この概念をベースに取り組んでいく」と鈴木氏。

電通デジタルが提唱する「People Driven Marketing」
電通デジタルが提唱する「People Driven Marketing」

博報堂の執行役員・安藤元博氏は、人を基点にするという鈴木氏の発言に強く共感を示す。同社は1981年に博報堂生活総合研究所を設立。生活者を中心に、生活者にとっての価値を推進するとうたってマーケティングを実践してきた。「それこそデータの取り方から工夫してきたが、今デジタルの力によって、われわれがマーケティングの骨格としている『生活者データ・マネジメント・プラットフォーム』を完全に構築できるようになったと考えている」

博報堂ではデジタルによって「生活者データマネジメントプラットフォーム」の実現を目指す
博報堂ではデジタルによって「生活者データ・マネジメント・プラットフォーム」の実現を目指す

アクセンチュアでアクセンチュアインタラクティブを率いる黒川順一郎氏は、デジタルを「見えなかったものをテクノロジーによって見えるようにすること」と捉える。「茶碗の白米で例えると、アナログ時代は『お代わり大盛り!』といっていたのが、デジタル時代になると『お代わり3500粒!』となる。デジタルそのものはテクノロジーにすぎないが、これによってこの時代の人の体験や価値観、働き方、産業までを再定義する産業革命のような大きな変化が起きていると思っている」。同社の中でもアクセンチュアインタラクティブでは特に、顧客体験や企業と顧客との接点から企業全体を変革するという思考を持ち、これを「Experience-led Transformation」と表しているという。

顧客体験から企業を変革するアクセンチュアの「Experience-led Transformation」の概念
顧客体験から企業を変革するアクセンチュアの「Experience-led Transformation」の概念

PwCコンサルティング PwCデジタルサービス日本統括の松永エリック・匡史氏は、「デジタルとはエクスペリエンスだと捉えている」と語る。デジタルによって人の体験は大きく変わり、今や企業にとってカスタマーエクスペリエンスを充実させることは非常に重要になっている。「われわれはビジネスそしてテクノロジーの領域でコンサルティングを続けてきたが、今後はビジネス、エクスペリエンス、テクノロジーの三つの柱で新しい未来をつくろうとしている。これを『BXT』という言葉で提唱し、クライアント企業へも一方的な提案ではなく共に模索してつくり上げるような、新しいコンサルティングのスタイルを実践している」

PwCコンサルティングでは、デジタルを「体験を築きビジネス成果を上げるもの」と位置づける
PwCコンサルティングでは、デジタルを「体験を築きビジネス成果を上げるもの」と位置付ける

マーケティングそのものが経営に近づいている

デジタルが浸透し、生活者はさまざまな接点で企業とつながりを持つようになり、企業はその多くをデータとして取得できるようになっている。これを背景に4社とも、生活者あるいは顧客を中心に、その体験を重視していく姿勢は共通していた。では具体的に今まさに進出しようとしている事業領域を、互いにどう思っているのか。「広告会社として、これまではよりアウトプットに近い領域が得意なはずだったと思うが、どうやって経営に近いところへコミットしていくのか?」という松永氏の問いに、安藤氏は広告会社とコンサルティング会社の軸足の違いと、クライアント企業自身の変化を解説する。

博報堂 執行役員の安藤元博氏
博報堂 執行役員の安藤元博氏

戦略立案からアウトプットまでの流れの中で、コンサルティング会社は川上に、広告会社は川下に主に携わるといわれてきた。「僕が入社した80年代は『川下からのマーケティング』ということが言われ始めた端緒だった。とはいえ経営コンサルティングと僕らの事業領域は一部重なりながらも、両方の仕事がずっとあった」と安藤氏。一方で今、コンサルティングでもITコンサルは分けて捉えて、戦略コンサルと広告会社を考えると、大きな潮流としてマーケティングそのものが経営と近くなっているため、両社の事業が重なるようになってきたのだという。クライアント企業自体が変化している影響もあるというわけだ。

鈴木氏も、「企業のデジタル変革が進む中、お互いが向かう先が狭いゴールではなくマーケティング全般を見据えているため、事業領域は確実に重なる」と語る。時に競合にもなるだろうが、軸足が異なる分、場合によってはタッグを組むことで企業により貢献できる可能性もあるだろうという。

電通デジタル社長の鈴木禎久(よしひさ)氏
電通デジタル社長の鈴木禎久(よしひさ)氏

クリエーティブは広告会社に一日の長
 

端から見ると「VS」という対立構造で語られがちだが、その点にずっと違和感がある、と黒川氏。「そもそも今の鈴木さんの話も“代理店”の立場にとどまっていない。クライアント企業の事業を改善するとか、事業の先にいる生活者を豊かにするといったことに向かっている以上、それはもう代理ビジネスとは思えない。広告VSコンサルというより、得意分野が少し違うが同じことを目指す会社同士という印象」と語る。「コンサルティング会社は歴史的に経営の発想や経営改革に知見があるが、メディアバイイングができないため、補完的に組むこともあるだろう。さらに今後は、向き合うべき課題が1社でまかなえるほど小さくないことが頻出する。そのときに、組むことで良い結果が得られるなら、それは日本経済を良くすることにつながるはず」

「コンサルティング会社は、仕組みをつくるのがうまい印象。グローバルでの事例をスピーディーに応用できる」との安藤氏の意見に、黒川氏は「僕らもそこまで“型”で解決できるわけじゃない」と反応する。必ず結果を出すことを求められるから、分かりやすい方法として成功事例を参考にするが、やはりクライアントごとに解はすべて異なるという。

アクセンチュアでアクセンチュアインタラクティブを率いる黒川順一郎氏
アクセンチュアでアクセンチュアインタラクティブを率いる黒川順一郎氏

逆にコンサルティング会社から見た広告会社について、「クリエーティブには一日の長がある。それらを自分たちの中に取り入れて、クライアントに創造的な解を提供したいとも考えている」と黒川氏。鈴木氏はそれを受けて、「クリエーティビティーの一歩先を行かなければと感じている」と課題を話す。

この時代、結果を出すことが求められるのは広告マーケティングの領域でも同じだ。デジタルによってさまざまな効果の可視化が可能になっていることもあって、強いアイデアひとつでは提案が通らず、ある程度の分析を踏まえた“勝ちパターン”+“実践知”で結果を導く方向へシフトしている状況がある。「そのときには、やはり従来よりも引いた視点で事業全体を捉えた上で、今どういう段階にあり、どんな仕組みやコミュニケーションが必要なのかを考える必要が出てきている」と鈴木氏。

「非連続」のジャンプをどう起こすか

一方で松永氏は、デジタル事業に向き合う姿勢が広告会社とコンサルティング会社で大きく違うのではと指摘し、コンサルティング会社としての自社が持つ強い危機感を口にする。「われわれはどちらかというと、顧客視点よりも、市場や外部的な要因から解を導くことをしてきた。だがそれではいけないと強く感じている。会社全体が、それこそ会計監査や税理士まで全員の意識が変わる必要があるので、生活者の体験を基点にするという広告会社の考え方に学びたい」

PwCコンサルティング PwCデジタルサービス日本統括の松永エリック・匡史氏
PwCコンサルティング PwCデジタルサービス日本統括の松永エリック・匡史氏

今までのメソッドでは通用しない。そう語る松永氏が挙げるキーワードは「非連続」だ。新しい思考を取り入れて、非連続的な変化に対応し、さらにそんな変化を自ら起こしていかなければならないのは、企業もコンサルティング会社も同じのようだ。そこでは、今まで積み重ねたノウハウやメソッドが、逆に弊害になっていることもある。「一回ゼロに捨ててしまうことも重要だと思っている」と松永氏。黒川氏も、そもそもアクセンチュア内のデジタルチーム自体が、社内を変える起爆剤になり、新しい文化をつくり出すことを期待されていると話す。「自分たちが変わってこそ、クライアントの非連続な変化を起こせる」

モデレーターの笠松氏は、「経営層は“再現可能性”を求める。一方で先ほどから挙がっているクリエーティビティーには、再現可能性がほとんどなく、かつ時代の空気やさまざまな不確定要素も絡んでくる。その間にデジタルを駆使してチャレンジしていこうという気概を、皆さんの話を聞いていると共通して感じる」と語る。

イグナイト社長の笠松良彦氏
イグナイト社長の笠松良彦氏

最後に、競争なのか、協業なのか、どういう形がベストなソリューションだと思うかを問われると、安藤氏から「共闘」というキーワードが。「打ち合わせの時点で、実はものすごく話が弾み、完全に同じ方向を向いていると感じた。企業の成長を支援する方法は複数あるが、支援するに当たって責任を持たなければいけないという点では、広告会社なのかコンサルティング会社なのかは関係ない。良き競争関係にもなるだろうし、目的のためには得意分野を組み合わせて協業・共創もあり得る。いずれにしても、共に闘っていければ」

加えて松永氏は「この4人が集まって盛り上がったこと、これをベースにまた何かが始まりそうな感じが、僕はデジタル時代ならではだと思っている。課題やプロジェクトベースで、時に会社の枠を超えて個々人が能力を持ち寄って取り組むことも大いにあるのでは」と重ねる。まさに、広告やコンサルティングの業務は“人”をベースにしていることを実感させられる結論を見たセッションとなった。