ラッパーvsコピーライターNo.6
呂布カルマ×田中直基:言葉にできずにいた“確かに!”が共感を生む
2017/07/26
インディーズでありながら、CMやテレビドラマでもその存在感が無視できなくなったラッパーたち。今回は、フリースタイルラップバトルで異彩を放ち、強すぎるパンチラインで圧倒的な支持を誇る呂布カルマさんが登場。対するコピーライターは、CDCとDentsu Lab Tokyoに在籍し、マスからテクノロジー領域まで広く手がけ、また自ら観覧に申し込んで足を運ぶほどバトルに興味津々の田中直基さん。二人には意外な共通点がありました。
営業職で磨いた想像力とディベート力
田中:僕は呂布さんの大ファンで、会えるのが楽しみでした。呂布さんは美大を出ているんですよね。
呂布:デザイン科でグラフィックや絵の勉強をしました。インダストリアルデザインの一環としてコピーの勉強もしたんですよ。
田中:じゃあ、僕より早くコピーライティングに出会っていますね。
呂布:田中さんは昔からコピーライターを目指していたんですか?
田中:僕は9年ほどコピーライターをしていますが、入社して最初の4年間は営業職でした。
呂布:僕もラップだけで食べられるようになる前は、塾の営業職と掛け持ちしていました。ラップを辞めたやつが営業職に就くと、たいてい成績がいいんです。営業マンって頭も口も回る。それを身に付けたくて営業を選びました。
田中:たしかにラッパーさんは、営業向いてそうです。
呂布:営業のコツは第一に相手が喜ぶことを言うこと。一方、契約を逃すようなワードに対しては、資料や回避法を用意して臨んでいました。
田中:どういうことを言われたら、喜んで商品を買ってくれるのか。意識はしてないけど、営業職もコピーライターも思考プロセスは同じかもしれない。どれだけ相手のことを想像できるかだと思います。営業のときはクライアントのことだけ考えていましたが、制作側に回ってからはどちらかというと広告を見る世の中の人のことを考えています。
呂布:フリースタイルラップも相手との対話ですが、ディベートに近いですね。でも営業現場のように密室でやっているわけではないので、勝負だけじゃなくオーディエンスを盛り上げなくちゃいけません。
“What to say”が際立つ呂布カルマのバトルスタイル
田中:強いですよね。呂布さんのバトルは。
呂布:そうですね。まあまあ強いと思います。
田中:相手の“表層的に良さげな感じの言葉”をバッサバサと根元から叩き折るところが最高に気持ちいいです。僕は、いいコピーは第一に「What to say」、つまり何を言うかが圧倒的に大事だと考えています。呂布さんのラップは「What to say」が異常に強い。
呂布:バトルでは、相手の発言とお客さんの反応を見ながらギリギリで言葉をビートに乗せています。頭の中がアドレナリンでワーッとなっていて、あまり覚えていないんですよね。勝ったと思っても負けることもあるし、バトルは水ものだと思っています。
田中:瞬間に自分の中にある言葉を拾い集めているんですね。想像しただけでオエッてなりそうな作業です。
呂布:僕も最初のころはオエッてなってました(笑)。
田中:そんな時期があったんですか!?
呂布:ありましたよ。自分のターンが終わった後、マイクをスタンドに戻す手が震えて止まらないとか。
田中:意外です(笑)。せっかくの機会なので聞いちゃいますが、呂布さんは韻を踏むときと踏まないときがありますよね?
呂布:口触りよく発語するのがフリースタイルラップなので、反射的に韻が飛び出てくることもあるし、余裕があれば相手の言葉を拾って計算づくで踏むこともあります。基本的に僕は無意味な韻なら、無理に踏まない方ですね。
田中:コピーでは「What to say」の次に「How to say」、要するにどう言うかも大事で、世の中にコピーを出すときには表現を少しいじったり、それこそ押韻に近い、ダジャレのような言葉遊びで響かせたりするレトリックと呼ばれるコピーもあります。呂布さんが韻を重視しない理由はあるんでしょうか。
呂布:バトルに出るラッパーの多くは、輪になってサイファーをするんですよ。サッカーのリフティングみたいに、言葉をビートから外さないように投げ合う練習です。僕らの中にはパターンと共通認識が出来上がっていて、ライム読み(※)というテクニックまで存在する。想定の範囲内で勝負をしても面白くないので、リフティングはせずにシュートだけを打つ心意気でやっています。
※ライム読み:相手が言いそうな韻を予想し、先につぶす手法。
田中:韻にとらわれない呂布さん独特の言い回しも支持を集めている理由のひとつだと思いますが、どんなものから影響を受けていますか?
呂布:ラッパーや物書きはたくさん本を読んだ方がいいと言われますが、僕はそう思いません。作品に反映させるために読書をするのはパクリじゃないですか。食事を楽しむためじゃなく、いいウンコをするために食事をするみたいで解せない。
田中:(爆笑)なるほど。では、音楽はどうですか?
呂布:ほかのラッパーたちはアメリカのラップを聴いて、和訳を読んだりしているかもしれないですけど、僕は洋楽を聴きません。以前は邦楽ロックが好きでしたが、妄走族というヒップホップクルーの曲に影響を受けて邦楽ヒップホップを聴くようになりました。
田中:その頃僕も、ヒップホップのスクラッチバトルが好きで結構な数のレコードを集めていました。あるとき、偶然買った餓鬼レンジャーの「シド&ナンシー」という曲をきっかけに、日本語ラップを好きになった覚えがあります。コンプラ的に、とてもここでは言えないアンダーグラウンドな内容だけど、こんな言葉の使い方があるのかって衝撃を受けました。
呂布:「シド&ナンシー」は下品だけどインテリジェンスがあって、めちゃくちゃカッコいい曲ですね。僕は常日頃、音楽の表現規制だけが特別に厳しいと思っているんです。映画や小説の中には殺人やセックスの描写があふれているのに、音楽だと許されない。それだけ歌詞はストレートに耳へ入ってきちゃうからなんでしょうか。インディーヒップホップの歌詞は、メジャー音楽のように検閲されていません。日常会話の延長だからリアルで自由な世界だし、口だけなら元手もかからない、ラップは練習しなくてもできそうだと思ったんですよね。
言われて痛快な「確かに!」がパンチラインになる
呂布:ラップの言葉数に対して、コピーはパンチラインのみじゃないですか。本来はラップのリリックも、頭から尻まで全部パンチがなきゃいけない。1行のパンチラインがあって、それを4分の曲に希釈しました、っていうんじゃダメだと思います。
田中:広告の言葉にも、キャッチコピーとボディーコピーというのがあります。ボディーコピーはあまり世の中の人に読まれない。だから、僕は1行1行がキャッチコピーであるようにボディーコピーを書けと教わったことがあり、今もそれを実践しています。やっぱりラップとコピーは近い部分がありますね。ひとつひとつの言葉が強くなくちゃいけない。呂布さんは、今まで気になったコピーってありますか?
呂布:YouTubeの「好きなことで、生きていく。」は強い言葉だなと思ってました。塾に勤めていたとき、当時小学3年生の生徒がYouTubeの広告を見て「将来ユーチューバーになるんだ!」って言っていたんですよ。
田中:この広告の翌年、小学生の将来なりたい職業ランキングでユーチューバーが4位に入ったんです。当時はまだ、一人でPCのカメラに向かって動画を配信するという行為が世の中から理解されていなかった。その新しい行為にポジティブな意思が加えられてます。 商品を売るためだけの言葉じゃなく、誰かの目に入ったときにふと引っかかる言葉です。
呂布:しかも、誰かが行動を起こす原動力になる可能性もはらんでいる。そこで、「君が大人になるまでこの文化があるかどうか分からないだろ、大丈夫か」と水を差すのが僕の立場かもしれません(笑)。
田中:確かに(笑)。呂布さんらしい。コピーって「当たり前」「確かに」「ワケ分かんない」の3段階あって、「当たり前」はスル―されて、受け手側が一番欲しいのは「確かに」の共感だと思うんです。そこを通り越すと「ワケ分かんない」になってしまう。
呂布:何となく言葉にできずにいたけど、言われてみれば!みたいなことですよね。分かりますね。ただ、「ワケ分かんない」ことも繰り返し耳にすることで入ってくるのが音楽なので、僕はその3段階を混ぜて作詞します。
一部の人たちの目線に迎合した途端に魅力が失せる
田中:作詞やパフォーマンスにSNSの反応は影響しますか? Twitterには呂布さんを装うアカウントが後を断ちませんし、動画の再生回数もすごいですよね。
呂布:僕は完全にスルーですね。人がアーティストに憧れたり食らったりする理由は、自分の感性と全然違うからだと思うんです。だから一部の人たちの目線に迎合した途端に魅力が失せる。理解してもらえなくてもいいから、褒められたら僕は逆へ向かいます。そこはインディー音楽と広告の決定的な違いかもしれないですね。
田中:賛否どちらの反応もあるのが健全だとは思いますが、僕らにとって突き放すやり方はリスクが高いです。
呂布:商業の言葉は、ある程度誰にでも理解できるように手を引いてあげなきゃいけませんよね。
田中:大体の場合、目的はクライアントの課題を解決したり、世の中の人たちの「好感」を得ることですからね。ただ、インターネットの普及によって面白いモノが溢れてる今の環境では、テレビや新聞で待ってるだけでは効率が悪くなった。だから、僕の戦い方もコピーやCMだけではなく、より手段をニュートラルにする考え方にシフトしてきました。例えばマツコデラックスさんのロボットを作るようなマツコロイドの企画を考えたのも新しい方法論だと思います。
呂布:マツコロイドは何の広告なんですか?
田中:大阪大学の先生が「精巧なアンドロイドロボットを作る技術があるが、もっと世の中の人に知ってもらいたい」と思いをつぶやいたことがきっかけですかね 。それを受けて自主的に動いたんです。選んだ戦い方は、一番目立つ人を、一番目立つ場所でエンターテインメントにしてみる、というやり方でした。
呂布:人を動かす方法は、言葉だけじゃないんですね。
田中:SNSはチェックしますし、反応を見ながらフィードバックするような案件もあります。近いものでいうと、ココナッツサブレというお菓子の仕事でしょうか。ご存じですか?
呂布:定番品ですね。知ってます。
田中:50年以上パッケージも中身も同じままの…、もはやお菓子の中ではかなり地味な存在でした。そのイメージを逆手にとって、後輩コピーライターと一緒に商品の年表を作ったんですよ。「19??年、世の中では何がありました。ココナッツサブレは、特に何もありませんでした」っていう(笑)。ネット上でバズっているネタは、広告より皆がオーガニックに作っているものの方が面白かったりする。ネット上の人たちと同じ目線で遊ぶ感覚で作った広告です。
呂布:どうやって発想に至るんですか?
田中:お題をもらって商品のリサーチもしますが、どちらかというと世の中の人の気持ちを想像しますね。その中に潜んでいる問題の本質を見つけることから始めます。コピーも企画も結局それが見つけるのが良い企画への近道だと思ってます。でも、それがなかなか難しい。もう9年もやってますが相変わらずしんどいです。呂布さんが楽曲の作詞をするときはどうですか? テーマやタイトルを先に決めるんでしょうか。
呂布:テーマも何もなく書き始め、タイトルをつけるのは最後ですね。テーマを設けるとその周辺だけで発想してしまうから、決めない方がどんどん広がるイメージです。でもAbemaTVの「NEWS RAP JAPAN」という番組では、与えられた時事ニュースのお題を基に作詞しています。下調べをして、かみ砕いて16小節に収めます。この作業はコピーライティングに近いのかもしれません。
田中:呂布さんのスキルと言葉の強さがあれば、コピーも書けますよ。
呂布:ラップ以外の表現にも興味があります。美大時代は漫画家を目指していたので、また描きたい気持ちも持っていますし。
田中:ぜひ作品を見てみたいです。これを機会に一緒にお仕事をできたら最高ですね。
プロデュース:加我 俊介
題字:青木 謙吾
ラッパー人選:太華