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スナフキン×三島邦彦:僕らはスーツを着なくていい仕事をしている

ラッパーvsコピーライター №5

  • スナフキン
  • 三島 邦彦

2017/07/12

スナフキン×三島邦彦:僕らはスーツを着なくていい仕事をしている

世間を席巻するフリースタイルラップバトルの魅力。それは出場者の圧倒的な熱量に終わりません。若者たちの心を捉える一因は、巧妙な押韻の応酬にもあります。マシンガンのようなライミングスキルで快進中のラッパー。対するは淡々と“長持ちする”本質的なコピーを生み出すコピーライター。同年代ながらいかにも対照的な2人が、その違いと共通点を見いだしました。

ラッパーのスナフキンさん(左)と、コピーライターの三島邦彦さん
ラッパーのスナフキンさん(左)と、コピーライターの三島邦彦さん

ネクタイ不要のアナーキーな世界にどっぷり

スナフキン:コピーライターになろうと思ったのはなぜですか?

三島:わりと不純な動機なのですが、当時大学に毎週電通の澤本嘉光さんが広告の授業をしに来ていて、何気なく受けた授業だったんですが「広告の仕事はスーツを着なくていい」という言葉に妙に惹かれたことを覚えています。そして、授業の課題であれこれ言葉をこねくり回すのが面白くて、これが仕事になったらいいなと思ったのがきっかけですね。

スナフキン:スーツを着たくないって理由、共感できます(笑)。俺はグループでラップを始め、仲間が次々と辞めて一人残ったタイミングから本格的にラッパーを目指しました。

三島:僕はあまり音楽を聴かなくて。

スナフキン:ラジオですか?

三島:はい。ラジオか落語です。

スナフキン:やっぱり。俺も家で聴くのはヒップホップじゃなくラジオです。AMですよね。

三島:伊集院光さんの番組を中心にTBSラジオの深夜帯が好きで。びっくりするくらいくだらなくて面白いことを考える人が世の中にはたくさんいて、この世界は捨てたもんじゃないって安心できるんですよね。部屋を暗くして聴いています(笑)。

スナフキン:俺も電気を消す派です(笑)。その方が言葉が入ってくる。深夜ラジオは、言葉の置き方の間とアナーキー感がヤバい。

三島:リスナーとの関係性というか、何を言っても許されるところが面白いですよね。ラジオは音声とともに消えていくので、雑誌やテレビよりも証拠が残りづらい。フリースタイルラップ感覚じゃないでしょうか。

スナフキン:確かに、俺はフリースタイルバトルを記録に残してほしくない派です。

三島:バトル動画をアップされるのは嫌なものですか?

スナフキン:リリックのテロップが間違っていることもあるし、合っていたとしても残す必要はないと思います。例えば2000年ぐらいのMCバトルでKREVAが優勝したとか、MC漢がすごく強かった時代って、映像が上がっていないんですよ。ヤバかったといううわさだけが耳に入ってくる。フリースタイルバトルは瞬間のコールアンドレスポンスなので、その場にいる人だけが共有すればいいと思います。

ラッパーのスナフキンさん
ラッパーのスナフキンさん

三島:伊集院さんいわく、ラジオのパーソナリティーの極意は「うまく言えないことも含めてリアル」と。生放送だからしゃべりが止まることもあるけど、それも含めて状況をリスナーと共有するものだと。流ちょうにしゃべるだけがいいパーソナリティーじゃない。表現はすべて、キレイにしすぎない方がリアリティーがあるのかもしれません。

スナフキン:深夜ラジオもフリースタイルラップも、自由さと臨場感が醍醐味。ネクタイの話じゃないけど、縛られていないから面白い。落語もそういうところがありますよね。

三島:好きな落語家さんの独演会に行ったり、昭和の名人や亡くなった立川談志師匠についてはCDやDVDで楽しんだり。落語の速記本というのがあるので、本で読むこともあります。

スナフキン:俺はCDで聴くことが多いですけど、起承転結の付けかた、盛り上げ方やオチへの持っていき方が参考になります。

三島:僕の好きな「井戸の茶碗」というはなしは、オチが鮮やかで快感があります。落語の面白さは、言葉だけでひとつの世界を構築することでしょうか。聴いているだけで脳が刺激されますよね。落語は、スナフキンさんのラップに影響していますか?

スナフキン:落語をラップに役立てようと意識したら純粋に楽しめないですけど、少なからず影響を受けていると思います。

“気にならせる”ための最大かつ普遍的なレトリック

三島:僕はあまりラップを聴いたことがなかったのですが、スナフキンさんの歌詞は韻が多いのかなと思いました。繰り返される響きに音楽的な気持ち良さというか、中毒性がありますね。

スナフキン:言葉で音楽をグルーブさせたくて押韻しています。

三島:僕は英文科でシェークスピアの勉強もしたのですが、シェークスピアのすごさは実は韻にあって、文章が音として美しく構成されているんですよ。言葉を音として届けるという点において、ラップはシェークスピアにも通じている普遍的な文化なのかもしれないです。

スナフキン:響きが整うと聴き心地がいいんですよね。母音でしか韻を踏めない日本語に比べて、英語は自由度が高い。俺は昔、韻を踏むために知っている日本語を左側に、調べた英単語を右側に並べ、韻を考えていました。日本語の響きを崩して英語っぽい発音でライミングするんです。

三島:興味深いテクニックです。CMでも使用されるコピーの場合は語呂や音感が大事なので、韻は強い武器だと思います。「でっかいどお。北海道」みたいなコピーは最高の例じゃないでしょうか。

スナフキン:広告コピーは、人をハッとさせるための逆説や比喩表現の使い方は勉強になります。
バトルでは韻以外にも、リスペクトから往年のパンチラインや対戦相手の言葉を引用したり、セルフボースティングといって自分を大きく見せて相手をあおったりします。コピーライティングにもいろいろなレトリックがあるんですか?

三島:広告コピーのレトリックに関しては、あらゆる手段があると思います。いろんな文章形式の中で、最も技巧が凝らされるのが広告かもしれません。1980年代のコピーは本当に感心させられます。ただ最近は、「IQが高い」といって否定されることもあるので、凝ったレトリックは敬遠されがちです。

コピーライターの三島さん
コピーライターの三島さん

スナフキン:技巧も大事ですが、気にならせなきゃ負けですよね。

三島:全く新しい言葉を生み出すのは難しいので、いかに初めての言葉の組み合わせを発見するか。

スナフキン:地元のファミレスにいるんですよ、センスのあるギャルが。「ピネェ」と言うので意味を聞いたら、「ピはパの次だから、パネェより上なんだよ」って(笑)。

三島:彼女たちにしかできない発想ですね。僕の場合は、悩みながら言葉を書き散らして、その中から探し出す感じです。

スナフキン:コピーを作るときは、文字で書き起こすんですか? ラップの場合はフロウが大切なので、俺は歌い回しや抑揚を忘れないように録音します。

三島:僕は文字を読みながら頭の中で音読するタイプなので、ナレーションのない広告でも心地良いリズムや響きのあるコピーを書きたい方です。

スナフキン:コピーの言葉は短いですね。

三島:CMには時間の制約があるので、12~20文字ぐらいです。

スナフキン:アクエリアスのCMは、漢字ひと文字じゃないですか。「挑」とか「熱」とか、いずれかは自分のシチュエーションに当てはまる。それぞれの設定が展開され、結論が「人はとっても渇くから。」。文字をサブミリナル効果として使い、あえて全部語らないところがうまいなと思いました。

三島:漢字ひと文字と感情の組み合わせで、人間のイメージを増幅させるという仕組みを考えたのはアートディレクターでした。感情がすごく動くときに、人間は生理的な喉の渇きにも似た感覚を覚える。その瞬間をひと文字と映像で描き、「人の渇きを潤す」というアクエリアスの本質を浮き彫りにしました。

スナフキン:「潤」じゃなく「渇」を選び、ネガティブなイメージをポジティブに変換したのもいいですね。

三島:「潤」だと違和感がなさ過ぎて、気になってもらえないと思うんです。

発するのが自分か、自分じゃないかの決定的な違い

スナフキン:最近はフリースタイルラップの認知度が上がって「商品をラップで宣伝してくれ」という依頼もあるんですよ。でも、自分が興味を持てない限り、言葉が出てこない。サングラスの広告があれば引き受けたいです(笑)。コピーライターさんは幅広い仕事をしますよね。

三島:万が一何の興味も持てないものがあったとして、その仕事をやることになったときに、何でこれが生まれたんだろう、これを作る人や買う人はどういう気持ちなんだろうということを、研究するのが面白いのかもしれません。

スナフキン:どうやって研究するんですか。

三島:最初はまずは自分の人生経験の中でフラットに考えます。これを欲しいと思うのはどんな時だろう、と。それからインターネット上の言葉や人々の反応を収集したり、身近な人に「これってどう思う?」と質問したりもします。ある種コピーライターはイタコ的な存在で、どんなクライアントや人間の気持ちにもなれなくちゃいけないと思っています。

スナフキン:エミネムというラッパーは、ザ・スリム・シェイディという設定で音楽を作っていて、インタビューでも「俺じゃなくスリム・シェイディに聞いてくれ」と答えていたのを思い出しました。俺もストーリーテリングのノリで、自分以外の誰かが書いている体で作詞をすることがあります。

ラッパーのスナフキンさん(左)とコピーライターの三島さん
ラッパーのスナフキンさん(左)とコピーライターの三島さん

三島:語る主体が自分か、自分じゃないかという点がラッパーさんとコピーライターの違う点かもしれません。

スナフキン:確かに。コピーの仕事は一般的に匿名性が高いですもんね。ラップは基本的に自分の思いを自由に発するものです。

三島:ほぼ自由な状態から発するものがあるってすごいことです。しかも、バトルではシナリオがない状態のぶっつけ本番で。

スナフキン:フリースタイルバトルとうたっていても、ルールはあるし、完全に自由じゃない説もあります。制約がない方が不自由だし。でも、自分が先攻で、相手が知らないラッパーだったら大変です。言うことがない。

三島:そういうときはどうするんですか?

スナフキン:自分のヒップホップ観やアティチュードを語って、突き放すか、「おまえはどうなんだ」と振るかですね。

三島:なるほど。スナフキンさんのラップはスタンスが明確で、「この人は信用できる」という印象を受けました。使える言葉の自由度が広告とは違うので、僕らにはすくえないリアリティーがあります。広告で描けるのは世界の一部にすぎないということを強く感じました。

瞬間風速を生む言葉と、長持ちする言葉

三島:アルバム「Welcome to Bedtown」の中でもいろんな表現と言葉を使いながら、ちゃんと地元である埼玉のベッドタウンにストーリーを集約していますね。一つ一つのチャプターがクライマックスへ向かっていく、映画みたいな構成です。

スナフキン:最近は、アルバムを作る際にストーリー性を考えるようになりました。アルバムは全体を通して聴いてもらいたいので、俺は曲単位でダウンロードできるデジタル配信をしていません。
三島さんのお仕事の気仙沼ニッティングのビデオは、尺も長くて映画みたいでしたね。バタフライエフェクト感があって。編むことで人が暖まって、街が暖まり、世界が暖まるというストーリー性に一貫性を感じました。

三島:あのビデオの個人的なテーマは、ニットの制作過程を美しく記録して、編み手さんたちを応援することだったんです。

スナフキン:俺は制作背景や努力している姿を隠して、サラッとすごいことをやるのがカッコいいと思っていて。サイファーをディスる曲を作ったこともあるぐらい(笑)。でも、あのビデオを見たら、あえて裏側を見せるのもいいなと思えました。裏側を知ると余計に染みます。

三島:御手洗さんという気仙沼ニッティングの社長が「ビデオ作りたい」と言っているのを知りそれは是非やりたいと思って。気仙沼ではもともと編み物が盛んで、船の上では漁師が、家では家族がそれぞれに編み物をしていたんです。おじいちゃんから編み方を習ったという人もいて。手編みなら工場がなくても、どんな場所でもできる。だからこそ被災地だからどうこうではなく、きちんと高品質な商品を生み出すブランドとしての見え方を心がけました。そこで、ブランドの根っこにあるストーリーを知ってもらいたいと。

 

 

ラッパーのスナフキンさん(左)とコピーライターの三島さん
ラッパーのスナフキンさん(左)とコピーライターの三島さん

スナフキン:あえてお涙頂戴の部分はカットしたんですね。

三島:会社にとって一番の財産は編み手さんなので、その人たちが誇れる作品にしたかったんです。

スナフキン:あれはどういうところで流れているんですか?

三島:百貨店の催事場で流されたりしていました。見るとちょっと買いたくなるみたいで、うれしいです。

スナフキン:一瞬もてはやされるより、長く見られるものですね。

三島:コピーライトの目的は、話題の瞬間風速を上げることと本質を捉えることの2種類です。前者の場合は、Twitterならつぶやかれる回数とか、動画なら再生回数とか、何らかの数値目標があります。僕はできるだけ、簡単に使い捨てられない、長持ちするコピーを作りたいと思っています。

スナフキン:俺の場合、話題性はフリースタイルラップで、本質は音源作品ですね。本質の部分には、譲れないアートフォームのスタンスがある。広告が公開された後で、ネットやTwitterの反響はチェックしますか?

三島:ネットから学ぶことも多いですが、やはり仕事によりますね。話題にならなくてもいいとは言いませんが、伝えたい人に伝えたい事がしっかり伝わればそれが一番ではないかという気もしますので。スナフキンさんはどうですか?

スナフキン:ある程度チェックします。へイターが多いほどステータス。もの申すってことは、時間を割いて1回は見てくれて、気になっているということだと思うので。

三島:話題性と本質、それぞれに役割と意味があるということですね。

プロデュース:加我 俊介
題字:青木 謙吾
ラッパー人選:太華