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ロンドンのクリエーティブあれこれNo.2

ジェイミーが汐留の広告会社で働く理由

2017/07/20

今回は、電通イージス・ネットワーク(以下、DAN)について「海外ではどう見られているのか?」をお伝えしたい。今回インタビューしたジェイミー・マッコンビル氏は大学卒業後、ニューヨークのクリエーティブエージェンシーに勤務、その後ロンドンのマクギャリ―・ボウエンでアカウントディレクター(営業)を務め、現在は東京・汐留の電通本社に勤務。グローバル都市を渡り歩いている彼女から、DANはどう見えているのだろうか。


「協業」「人材交流」がグローバルビジネスの鍵に

ジェイミー:ハロー、ジェイミーです。ベジタリアンで、好きな日本食はお好み焼きです。スコットランド生まれで、ロンドン大学(UCL)で哲学と経済学を学んだ後、ニューヨークのクリエーティブエージェンシーで数年働きました。

武重:ニューヨークにいたときは電通とは関係ないエージェンシーだったそうですが、当時から電通の存在は知っていましたか?

ジェイミー:はい。まだニューヨークにいた2012年ごろ、アドエージ誌でティム・アンドレー氏(現電通取締役)のインタビュー記事を読んだのですが、彼のリーダーとしてのカリスマ性と強みに加え、電通という会社の持つパワーと、これからグローバルで成功する可能性を感じたことを覚えています。

アメリカ文化に染まったニューヨーク時代
アメリカ文化に染まったニューヨーク時代
 
 

武重:マクギャリ―・ボウエン時代、私から見るとジェイミーはとても楽しそうに働いている印象でした。あの頃、DANとしての課題を感じたことはありましたか?

ジェイミー:営業として働いていた自分の役割の中での話になりますが、いくつかヨーロッパ全域のキャンペーンを担当していたときに、各国での展開をサポートするネットワーク内の仲間を見つけるのに苦労したことはありました。でも、ネットワークの仲間と共に働くのは大きな喜びでしたし、これから会社間、エリア間でいっそう協業が進んですばらしいネットワークになると期待しています。

ジェイミーが汐留で働く理由

武重:私のように電通から海外に出る人はもちろんですが、ジェイミーのように、海外から日本の電通で働く人も増えるといいですね。「人材交流した方がいい」と自分で言っておいてなんですが、よく日本で働くことを決めましたね。言語やビジネスカルチャーの違いなど、外国人が日本の広告業界で働くハードルは決して低くないと思いますが。

ジェイミー:そうですね、私の場合、日本に来る前は「こんにちは」「はい」くらいしか知らなかったので、言語は間違いなくハードルになります。日本語は、特に漢字は難しいですが、同僚の力も借りながらある程度まで克服できればと思っています。
でも、文化的な違いからくるハードルの方が、克服するのは難しいかもしれません。社内における慣習やヒエラルキーなど、日本独自の文化をできる限り理解しようとしていますが、ネーティブの日本人にはなれないので、外国人として、いい仕事をすることが目標です。

武重:ジェイミーにとって、電通で働く魅力って何でしょうか。

ジェイミー:とてもシンプルな理由です。汐留はDANの「Mothership」だからです。その仕事の量と幅は海外から見ても常に魅力的なものでした。東京に住むという経験ももちろんですが、「Mothership」で仕事を経験するということが私にとってはとても意味のあることだったのです。
また実際に来てみて、電通はひとつ屋根の下にいろんな分野や能力が集まった素晴らしいデパートのようだと感じています。

武重:なるほど、とても分かりやすいですね。まだ汐留で働き始めて間もないですが、ロンドンの会社と比べてカルチャーショックはありましたか?

ジェイミー:会社の違いでいうと、マクギャリ―・ボウエンはいわゆるクリエーティブエージェンシーという感じで、常に音楽がかかっていたり、とても賑やかな雰囲気でした。一方、電通はもっとフォーマルな雰囲気がありますね。ただ、フォーマルだから緊張するとかということではありません。こういった環境の違いによって、電通のビジネスはクリエーティブだけでなく多岐にわたるのだと気付くことができました。

ロンドンのオフィスで同僚たちと
ロンドンのオフィスで同僚たちと

武重:最後に、日本にいる間にチャレンジしたいことはありますか?

ジェイミー:電通とDANが垣根を越えて、一体となってクライアントサービスの提供に貢献できればと思っています。リソースはすでにあるので、あとは世界中にあるお客さまのために、私たちの実績とサービスを増やすように行動するだけだと思います。
あと、プライベートでは、合羽橋のFake Foodづくりにチャレンジしてみたいですね。

武重:ありがとうございました。Fake Foodできたらぜひ見せてください。

暗黙知としてのビジネスカルチャー

ジェイミーのインタビューにもあったが、私がロンドンで働いていてストレスに感じることの多くはビジネスカルチャーの違いである。言語やビジネスの中身そのものは、学んで知識を付けることで克服できるものかもしれないが、その国、社会にある暗黙知としてのビジネスカルチャーは実際に働いて直面して初めて知ることになる。また、克服するというよりは、理解していくものなのかもしれない。

例えば、ロンドンのクリエーティブエージェンシーのオフィスでは常に流行の音楽がかかり、ときには誰かが歌いだし、社長ともファーストネームで呼び合うなど、とても自由な雰囲気に見える。

一方で、ビジネス上でのヒエラルキーはかなりはっきりしていて、マネジメント層以外は自分の肩書の範囲内で日々の業務を素早く回すことに集中し、マネジメントは、会社の経営管理、それぞれのプロジェクトへのディレクションを主にしている。また、クライアントと会食するとか、新規ビジネスを取りにいくとかいったことは、電通では現場の社員もすることだが、こちらではマネジメントの仕事になっている。前回(https://dentsu-ho.com/articles/5273)のコラムでも触れたスペシャリスト文化は、マネジメントと部下の関係でも徹底されているのである。

領域をまたがずにそれぞれの仕事に集中するというビジネスカルチャーは、ともすると電通のそれとは真逆で、電通のカルチャーにどっぷりつかってきた自分としてはいまだ違和感を感じることが多い。このような一見して分かりづらいビジネスカルチャーの違いは、仕事のあらゆる場面で思い出したように出てきて面食らうことがある。

潮流は統合型ソリューションへ

このように、人・会社単位でそれぞれの専門性・領域がはっきり分かれているというのがイギリスをはじめとした海外の広告ビジネスの特徴である。しかし一方で、近年の世界の広告ビジネスの潮流としては、広告会社が提供するサービスは電通が得意とする統合型ソリューションに近づいてきている。

元々、電通グループは10のグローバルネットワーク・ブランドを中心に、グローバルで高度な統合型ソリューションの提供をしている。また、ピュブリシスグループが設立した「Publicis One」や、WPPグループによる統合データプラットフォームの提供もその流れのひとつといえる。私たちの暮らしのベースが高度なデジタル社会となった今、生活者とのコミュニケーション設計はメディアニュートラルに考えるべきで当然の流れだろう。