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デバイスから見た広告の近未来No.2

古くて新しいOOHが、マーケティングの未来を創る

2017/08/28

OOH

屋外広告や交通広告などOOHのデジタル・トランスフォーメーションが加速している。こうした中、オーディエンスの気持ちに寄り添うメッセージを自動的に届けることを可能にするプログラマティックOOHを用いることで、高い成果を出す事例も現れ始めている。古くて新しいOOH、その最前線を探った。


日本におけるデジタルOOHは大きな成長が見込まれる

アウト・オブ・ホーム、家の外の広告物全てを指すOOHの世界でもデジタルシフトが加速し始めている。この分野で代表的なものは屋外広告と交通広告。デジタルOOH(DOOH)のグローバル市場のCAGR(年平均成長率)は13.2%(※1)で、日本市場のそれは27.8%(※2)と大きな成長余力を持つ(2013~20年)。ある調査(※3)ではDOOHの2021年までの成長ポテンシャルは86%と、モバイルの67%や、オンラインの49%を抜くという見方もある。

不健全なメディアサプライチェーンを生み出すアドフラウド、ブランド価値を脅かすヘイトコンテンツなど、今デジタル広告の分野で話題になっている問題もOOHには無関係で、安心して利用できることも再評価されるポイントのひとつ。

そして何といってもDOOHは、媒体がデジタル故に「今、この瞬間」「ここだけで」を演出できる手法なので、ソーシャルメディアとの相性が良い。その上に、各種データと連携して、心に訴える体験を、状況に応じて演出ができる。さらには、こうした一連の業務や広告取引が自動化される「プログラマティックOOH」が登場し、かつ、これまでにないほどデータが取得できる今、感動的で効果的な広告を、効率的に提供できるようになっている。

(※1)2016 Peter J. Solomon Company Wall、
(※2)2015 Fuji Chimera Research Institute, Survey on Digital Signage、
(※3)2016 Ocean Outdoor, “From Paper & Paste to Pixels & Playouts”、電通「2016年 日本の広告費」

 

Source: 2016 Dentsu Advertising Expenditure of Japan for 2014, 2015 Fuji Chimera Research Institute, Survey on Digital Signage
Source: 2016 Dentsu Advertising Expenditure of Japan for 2014, 2015 Fuji Chimera Research Institute, Survey on Digital Signage
Source: 2015, 富士キメラ総
Source: 2015, 富士キメラ総研

 

「今、この瞬間」「ここだけで」を演出できるプログラマティックOOHが、カスタマージャーニーにおける行動喚起を強烈に後押しする。

さまざまな可能性が広がりつつあるOOHだが、その魅力はシンプルだ。

「OOHのいいところは、なんといっても『強制視認性』です。SNSの普及もあり、広告媒体を取り巻く状況が変わり、共通の話題をつくりにくくなったといわれている中、OOHは、出掛けた先で共通のネタを提供することができる。ここは、もっと見直されるべきポイントでしょう。また仕事の帰り道と、休みの日に遊びに出掛けたときでは、同じ広告を見ても受ける印象が全く違う。OOH媒体は古くからありますが、今、その場所で起きていることに寄り添うことで、新鮮な表現ができるのです」(浜田氏)

そしてデジタル化、プログラマティック化で、その価値は飛躍的に高まっている。

「プログラマティックOOHは広告の自動配信、自動取引など業界内のイノベーションだと受け止められがちですが、本当に恩恵を受けるのは生活者です。プログラマティックOOHは生活者の潜在的なニーズや気付きを生み出せる。例えば、場所や時間で心理状態が変わるので、商品の持つ本当の価値を、素直に受け止めることができる。その状態で見たクリエーティブを通じて、自分はこの車が欲しかったことを『発見』でき、より生活を豊かにしたり、新しい生活に踏み出せる。プログラマティックOOHの真の価値は生活者の“今”“ここで”を増幅させる意味で『Power of Now』『Power of Here』だと思っています」(神内氏)

業界が一丸となって、クリアすべき三つの課題

「強制視認性」による共通の話題の提供や、生活者に寄り添う「Power of Now」「Power of Here」を持つプログラマティックOOHだが、課題もある。主なものは三つに大別される。

①広告効果を知るための共通指標
②広告枠の自動取引
③広告を配信するための共通基盤

①の共通指標は、交通広告や屋外広告など媒体ごとにバラバラなのが現状。また広告主などのプランニングではリーチ(広告到達率)やフリークエンシー(一定期間内の広告接触率)が重視されるが、現在用いられているのは駅や道路などのサーキュレーション(広告を見る可能性のある通行者の合計)や乗降客数だ。日記式調査で、オーディエンスデータを取ることもあるが、コストが大きな負担となる。

「英国では『Route』というオーディエンス調査システムがある。これまで延べ5万人以上のモニターに対応端末を持たせ、自動的に位置情報を収集し、特定の場所、特定の時間帯におけるリーチ×フリークエンシーを求めるもので、その日本版を実現できないかと模索しています。また16年12月からはモバイル空間統計データを活用した『マチログ』を提供しています。このソリューションは、携帯電話事業者が基地局情報を元にした250メートルメッシュのオーディエンスデータをベースに、各種情報を組み合わせて解析することで、25メートルメッシュまでダウンスケーリングを可能にします。これにより、数値化や可視化は困難とされていた屋外広告のサーキュレーションが性別、年代別、曜日別、時間帯別などで集計可能となり、時間帯や曜日などによって大きく変わるオーディエンスの行動データを、動的かつ詳細把握してプランニングに生かすことが可能です。現在は渋谷と表参道の2カ所、今後は全国主要7地区の繁華街エリアへ拡大する予定です」(浜田氏)

②の自動取引は、日本固有の事情がある。屋外広告は80%のシェアに至るには1000社以上の媒体社の合意が必要になり、交通広告では関東圏の鉄道会社11社のシェアを足し合わせても50%に満たない。これらの空き枠を各社が個別に管理している他、各種サイネージへの入稿システムも異なるため、膨大な手間が掛かる。広告主がプログラマティックOOHをやりたいと考えても現状では、ごく限られた枠しか使えない。「前述のような指標に加えて、取引フローの標準化などが環境整備の第一歩」(浜田氏)であることは、OOHを扱う関係者の間では共通認識になっている。

③の配信基盤は現状ではローカルで閉じたシステムが主流で、リアルタイムに外部からの接続を許しているものは少ない。それ故あらかじめ用意していたコンテンツを、決められたタイミングで、一定期間配信する静的な配信方式が主流だった。これが常に外部接続が可能になると、リアルタイムに第三者データを活用した動的(Dynamic)なコンテンツが提供可能になる。

「Dynamicな広告を配信することが可能になると、その場所だけでなく、オーディエンスの今の気持ちに寄り添うことが可能。ある調査(※4)では、従来のDOOHと、DynamicなDOOHを見せたときの自然想起率、メッセージ想起率、引用率を比較すると、後者の方が圧倒的に効果が高いことが分かっている。特にSNSでネタにする引用率は173%増なので、顕著です」(神内氏)

ただし、既存のデジタル広告のアドサーバーとは別の配信システムが必要となることが課題だ。

「現状の通信環境では、コンテンツを事前にダウンロードしてローカルに保存しておくことが必要。スマホやパソコンならばコンテンツが表示されるまで待ってくれますが、OOHではそうはいかない。またOOHはクリックする人がいないので、クリックによって課金カウントされるシステムは使えない。仮に自動化したとしても、その1インプレッションの広告を大勢が見るので、インプレッションの定義も難しい。なので、共通指標、自動取引、配信基盤の環境整備は一元的に行う必要があるのです」(神内氏)

「共通指標/自動取引/共通基盤」→Programmatic OOH
*「従来型DOOHとの比較におけるDynamic DOOHの効果」(2015 年1月 VirtuoCity Research)
(※4)「従来型DOOHとの比較におけるDynamic DOOHの効果」(2015 年1月 VirtuoCity Research)

新しい表現の場として、クリエーターの参加を期待

さらに、プログラマティックOOHという新しい分野にチャレンジしてくれるクリエーターの登場も浜田氏は期待する。

「どんなに仕組みが整っても、やっぱり面白い企画は、クリエーターの方にしか考えられない、と痛感します。今ここで、この瞬間に出合ったら一目ぼれしちゃうかも、という瞬間を、絶妙に演出するようなクリエーティブをぜひ皆さんに面白がって考えてほしい。今後は、この瞬間に出合ったら商品買うでしょ、ダウンロードするでしょ、行っちゃうよねなど、カスタマージャーニーにおける行動喚起を強烈に後押しする媒体になるので、クリエーターにとっても新しい表現の場になることは間違いないです」

その起源は、インドネシア・スラウェシ島の推定4万年前の洞窟壁画にまでさかのぼるともいわれるOOH。この古くて新しい広告手法から、目が離せない。

プログラマティックOOHを加速させるために必要な3条件

①広告主や媒体社と共有できるwill
共通指標、取引の環境整備、配信の自動化などの課題は、実際にやってみて、便利だね、面白いね、という実感があって初めて加速するもの。良い事例が現れつつあるので、その成功体験をどんどん共有して、課題解決に向けて巻き込んでいきたい。

②その特性を活用できるクリエーターの参画
新しい分野を面白がれるクリエーターの方々に、ぜひDynamic DOOHならではの表現を追求してほしい。外部データを利用したりすることで、今までにはない、その時、その場所ならではの表現が可能になる。CMとも違う、今までのデジタルサイネージとも違う、この場所で、このタイミングで、「そうくるか!」という表現をつくり出してほしい。

③AIなどテクノロジーのトレンドも注視
本文では触れていないが、この分野ではAIの活用が目覚ましい。例えば交通量調査などでは、自動車の車種や年式などを特定して媒体価値を動的に値付けする試みも始まっている。こうしたテクノロジーがプログラマティックOOHの価値を高め、マーケティングの新境地を切り開いていく。最先端のテクノロジーを試したい方、ぜひOOHでトライしてはいかがでしょうか?

 

プログラマティックOOHの実現!

「今、この瞬間」「ここだけで」を演出できるプログラマティックOOHの大規模な活用例が出始めてきた。
その一つが、コカ・コーラシステムの“アツい夏こそ、キン冷えコーク!”のキャンペーン。
7月17日から8月27日まで、東京・大阪・名古屋・札幌・福岡で、それぞれの場所、時間帯、その日の気温などに合ったメッセージを掲出した。

例えば、渋谷のスクランブル交差点では「暑さで頭もスクランブル状態だ…」「誰かハチ公にお水を…」と、その時間、その場所の状況に合った語り掛けをするなど、プログラマティックな配信を実現させたことで、製品が消費者の置かれた環境に寄り添うOOH展開が可能になった。

渋谷のスクランブル交差点

コカ・コーラシステムは今年の夏、“アツい夏こそ、キン冷えコーク!”をテーマにしたキャンペーンを展開。テレビCMからデジタル、ソーシャル、イベントなどさまざまな生活者接点で「暑い夏に飲む、キンキンに冷えたコカ・コーラのおいしさ」を伝えるキャンペーンを展開した。

新たな取り組みの一つとして、日本初の大規模なプログラマティックOOHを展開した。全国5都市において、エリア・天気・気温・時間・ご当地イベントなどとリアルタイムで連動して、最適なメッセージや動画など150種類以上のクリエーティブを最適に出し分けることで、広告効果を最大化する試みだ。

OOH展開「炎天下の渋谷」
OOH展開「暑さで頭もスクランブル状態で…」
OOH展開「冷えたコークがスカッとうまい!」