『急いでデジタルクリエイティブの本当の話をします。』
2017/10/27
今回取り上げるのは、小霜オフィス、no problem LLC .代表、コピーライター/クリエーティブディレクター/クリエーティブコンサルタントの小霜和也氏による『急いでデジタルクリエイティブの本当の話をします。』(宣伝会議)です。
前著『ここらで広告コピーの本当の話をします。』が広告コピーを主軸に、広告クリエーティブにおける本質的な考え方・変わらない真理を説いたものだとすると、本書はデジタル領域における広告クリエーティブの実践編です。
タイトルに「急いで」と掲げているのは 「広告制作者のデジタルトランスフォーメーションが『早急に』求められている」ためですが、もう1点、5GやAIスピーカーの普及などデジタル環境は急速に変化していくので、(本書の本質的な要旨は変わらないにしても)事例として多数紹介されている実践的なTIPSは「今」しか有効ではないから、ということもあるのではないでしょうか(さあ、急いで書店へ走りましょう!)。
マスクリエーティブの武器をデジタルクリエーティブで存分に振るう
本書は、今までマスクリエーティブを主戦場としていた広告クリエーターが、ベースとなる理論は変えずにデジタルクリエーティブに挑み、結果を出してきた、その戦いの記録でもあります。
なぜそのようなことが可能だったのか?
(ご本人の能力をいったん脇に置くと)最も大きな外部要因は「デジタル環境下の動画広告枠が充実してきたから」です。小霜氏は、本書の中で「Web動画」ではなく「WebCM」という言い方を提唱しています。
マーケティングは科学です。ロジックに下支えされることで商品が売れるための仮説をギリギリまで確信に追い込んでいく作業とも言えるでしょう。Web動画でもそれができると僕は考えていました。当たるも八卦ではない、投資に対してリターンの見込める「票読み」できるものになったとき、Web動画は「WebCM」になるのだと。(P26-27)
テレビCMと同じようにギリギリまで考え、確かなクオリティーで映像素材を作り、テレビの出稿計画と同じようにターゲットへのリーチとフリークエンシーを最適化したプランニングができれば、Webは高い精度で効果の予測が可能な「第6のマスメディア」になる、というわけです。
デジタルにおけるクリエーティブ、プロモーションの企画といえば、初期には通信による「インタラクティブ性」を活用すること、近年は個人へのSNSの普及により「バズによる拡散力」に注目が集まることが多かったかと思います。しかし、話題化による拡散頼みでは、どれくらいの効果が見込めそうか、が不確かにならざるをえません。マーケティング計画本体とは別にテストマーケとして実施するのであればよいのですが(実際に、成功すれば比較的低コストで大きな成果を得ることも可能です)、それだけにプロダクトやサービスの命運を担わせてしまうのは非常に危険です。
昨今、ネガティブな形での話題化(いわゆる炎上)をしてしまうプロモーション事例が散見されますが、その原因も「バズらせなければリーチが取れない…」「そのためにはインパクトの強い企画でなければならない…」と、どんどん先鋭化していき、結果、受け手にとって一線を越えた表現になってしまう、ということに尽きるのではないでしょうか(本書には書かれていない内容ですが、これも、小霜氏の受け売りです…)。
もちろん、デジタルクリエーティブならではの方法論も
さて、WebCMは、WebにテレビCM的な考え方とアプローチを持ち込むわけですが、もちろん、そのまま転用するのではありません。配信先の媒体特性(媒体そのものの特徴と、視聴者の視聴態度の二つの要素があります)に合ったクリエーティブである必要があります。
例えば、日本における利用者が既に4000万人を超えているYouTubeは動画配信先としてプランニングから外せませんが、出し方としては「視聴者が見たい動画が始まる前に見せるプレロール」「途中で挟むミッドロール」「スキップできない6秒以下のバンパー」といった手法があり、それぞれ目的に応じてメリット・デメリットがあります。またYouTubeはそもそも動画を見ようとして視聴しているので音声はONになっていますが、SNSのタイムラインに露出させる「インフィード広告」の場合は消音で接触していることが多いので字幕を入れないとメッセージが伝わりません。
他にも、テレビCMの場合は、冒頭で「なんのCMだろう」と思わせておいて「そうきたか!」と予想を裏切るパターンが成立しますが、WebCMの場合は「自分に関係ない」と思われた時点で飛ばされて別のコンテンツに移ってしまうなど、気を付けるべき実践的なTIPSが豊富に紹介されています。
ただ、大切なことはこれらの方法論を丸暗記するのではなく、「ターゲットはそのときどういう状態なのか?」「どのように感じそうか?」「どのような行動を起こしそうか?」といったことに都度立ち戻って考え、最適な手法を選ぶ、その本質的な思考のフレームを学び取ることです。なぜなら、デジタルメディアはデジタルゆえに、その広告枠の仕様や運用方針をけっこうな頻度で更新しますし、それ以外にも新たなメディアやプロモーション手法が次々と開発されているからです。
このことを小霜氏は「デジタルによる広告ビジネスモデルのflow化」としています。
これまでのモデルは固定化されていました。表現物を作ってフィーをもらい、メディアに納品して手数料を受け取る。その決まった形式が何十年も続いていました。クリエイターは15秒でどういうお話を作るか、15段でどういう見え面を作るかで悩んでいればよかった。今後は、そうはいきません。広告の仕組みも、その中のクリエイティブのあり方も、日々更新されていくのです。(P275)
広告クリエーティブの本質を見失わないために
そんなflowな環境の中で、われわれは、何をよりどころにすればよいのでしょうか? 前著でも本書でも、広告クリエーティブの本質は以下のように定義されています。
広告クリエイティブとは、モノとヒトとの新しい関係を創る(Createする)メソッド(P139)
もう少し要素をブレークダウンした定義だと以下の通りです。
広告コピーは商品の優位性を、ターゲットにどう自分にとっての価値と気づかせるかというメソッド(P30)
つまり、広告クリエーティブの本質とは「商品の優位性を、ターゲットに自分にとっての価値として気づかせ、商品とターゲットの間に新しい関係性を築く」ことといえます。
デジタルはターゲティングをより精緻に行うことを可能にしました。このことは広告クリエーティブにとっても大きなプラスとなるはずです。
一方で、デジタルゆえの落とし穴もあります。あらゆるデータを数値として計測することができるので、「商品とターゲットの間に新しい関係性を築く」という本質を見失い「スコアをどう上げるか?」がクリエーティブの目的になってしまうことがままあります。しかし、仮に100万Viewを獲得したとしても、見た人が商品に価値を感じなければ、売り上げに貢献はできないでしょう。
広告クリエーティブの本来的な使命からぶれずに、デジタルを取り込んでどうドライブをかけていくのか。その多くのヒントが本書にあります。
少しでも気になった方は「急いで」目を通し現在の状況にキャッチアップ、本質的なデジタルクリエーティブに関する考え方を脳みそにインストールいただいた上で、以降はご自身の実践によってソフトウェアのアップデートされることを推奨いたします!