「いい歌」で課題解決しませんか?No.2
歌の共感力。一緒にお風呂に入ったことを大人になっても覚えていてね
2017/11/08
自ら作詞・作曲・演奏・歌唱までをこなすクリエーティブディレクター(以下CD)・赤松隆一郎さんが、「歌を軸とした統合キャンペーンによるコミュニケーション課題解決」をワンストップでクライアントに提供する社内ユニット、「HUMMING BRAIN」(ハミング・ブレイン)を結成しました。今回は歌の共感力というテーマについて赤松さんに聞きます。
【目次】
▼「売る」という軸と「共感する」という軸
▼「ナイーブ」は、なぜ植物性でやさしい泡立ちなのか?
▼なぜ麦茶のCMソングで“おいしさ”や“機能 ”から距離を置いたのか?
▼一度歌にしてみると、伝えるべき一番コアな要素が見えてくる
「売る」という軸と「共感する」という軸
ハミング・ブレインの赤松です。今回は「CMソングでは何を歌うのか?」についてお話しします。
「歌で商品やサービスを広告する」というと、多くの場合は商品の特徴、機能性、競合商品との差異など「クライアントが商品情報として一番伝えたいこと」をメロディーに乗せて歌ってしまいがちです。例えば仮に「すごく汚れの落ちる洗濯洗剤」のCMソングをつくるとなると、どうしても「びっくりする白さ♪」とか「洗浄力〇〇倍♪」といったことに気持ちが行きがちになるんですね。
これは「売りたい」という軸に立った歌と言えます。確かに、そうした商品情報をメロディーでくるんでしまえばなんとなく耳当たりが良くなったりもしますが、それだけではなかなか届くものにはなりません。
僕が心掛けているのは、「視聴者の感情や生活に触れ、共感を生む」ことです。商品やサービスには必ず“その先の物語”があり、それはどこかで人の心とつながっています。その商品と視聴者の間に漂う単純でない感情を表現するために、「歌」にするのです。
(考え方の例)
「すごく汚れの落ちる洗濯洗剤がある」
↓
「驚くほど白くなる!」→焦ってここを歌にしない。
↓
「そのことで自分の人生がどう変わるだろうか?」→“その先の物語”を考える。
↓
「今まで白いシャツを着ているときは食べるのをちゅうちょしていたパスタを大胆に食べるようになるかもしれない。誰かにシミを付けられても寛大でいられるかも」
↓
「つまり、自分が朗らかでやさしくなれる、かも」→ここから歌づくりを始める。
汚れがよく落ちる商品だから「よく落ちるよ!」と歌うのではなく、「汚れがよく落ちることは人生に何をもたらすのか?」という軸に立つんですね。大げさかもしれないですが、まずはそこから歌のことを思い始めるわけです。
「ナイーブ」は、なぜ植物性でやさしい泡立ちなのか?
実際のCM例を紹介しましょう。僕がクラシエ「ナイーブ」のCM(2014年)で制作した「おふろのうた」です。
ナイーブ「覚えていてね」編(2014年)/クラシエ ※クリックで動画を再生します
まず、ナイーブというボディーソープの特徴は「植物性でやさしい泡立ちだから、肌にやさしい」というものです。仮にその製品特徴を“そのまんま”歌ったらどうでしょうか?
【例】「ナイーブのやさしい泡で洗ったら〜、心も体もやさしくなれました♪」
これはこれで成立しますが、きっと心にあまり残らないですよね。これは「売りたい」という軸の発想と言えます。
そこで、ただ「やさしい」ことを伝えるのではなく、「なぜやさしいのか」「やさしいということは人の心に何をもたらすのか」を一歩進んで考えてみます。
「なぜ植物性で泡立ちがよくやさしいボディーソープが必要なのか?」
「なぜお風呂でやさしい気持ちになる必要があるのか?」
いろいろ考えを練っていき、商品ターゲットである親子がナイーブを使うところを思い浮かべたとき、「どうしてボディーソープにやさしさが必要なのか」が見えてきました。
“親子がお風呂に入る時間は人生の中でわずかの間。
だからこそ、お風呂の思い出はやさしくあるべきだ”
僕にも中学生と高校生の子どもがいますが、彼らと一緒にお風呂に入る時間はあっという間に過ぎてしまったという感覚があったんですね。正直、まだしばらくはいつでも一緒に入れると油断していたら、気が付けば子どもは一人でお風呂に入るようになっていた。
自分の経験からも(笑)、親子の大切な時だからこそ、「そこにはやさしいボディーソープが必要なのだ」と考えたわけです。
そこまで踏み込んで歌をつくれば、単なる商品機能の訴求に終わらず、「CMを見た人たちの心や人生」と「商品」の間に、接点と共感が生まれます。
とはいえ、感情やメッセージを追求しすぎて商品を置き去りにしてしまうと、CMとして成立しません。「売る」という軸と「共感」という軸を行ったり来たりしながらつくることが必要です。
このCMでは、最後に「優しく洗おう 植物性のナイーブ」というフレーズで締めつつ、そこに至るまでの歌詞は“商品の先にある物語”を…というバランスにしました。
僕がCDやプランナーと音楽制作を兼任していることの利点は、このバランスを一人見る感覚だと思います。歌をつくりながら、一方で「訴求要素は一つに絞った方がいいな」「ここまでストレートに表現すると、トータルのキャンペーンで見た時に広がりがなくなるな」といったジャッジができるんですね。
なぜ麦茶のCMソングで“おいしさ”や“機能”から距離を置いたのか?
前回紹介したサントリー「GREEN DA・KA・RA やさしい麦茶」のCMでも、同じ考えでつくっています。最新の「ママのかお」編の歌詞を解説します。
GREEN DA・KA・RA やさしい麦茶「ママのかお」編 30秒 ムギちゃん/サントリー
YouTubeはコチラ
※サントリー公式チャンネル (SUNTORY)より
飲料のCMですが“おいしさ”や“機能(成分)”の訴求は一切せず、商品とは一見関係ない歌詞になっていますね。
そもそも「やさしい麦茶」という商品名が伝えたいこと全てを表していますし、映像としてムギちゃんがおいしそうに飲んでいれば「親子で飲める麦茶」という商品訴求としては十分。カフェインゼロ! とかミネラル豊富! といったスペックを歌で説明する必要はないわけです。
このときもいつもと同じように「やさしい麦茶」の「やさしい」って何だろう? じゃあその反対側って何だろう? といった具合に“商品の先の物語”を考えていき、「ママのおこった顔は〜♪」の歌が生まれました。
子どもにとって、ママにおこられるのは愉快ではないですし、おこったママ自身も同じ気持ちだと思います。そこをやさしく和ませるために、ママのおこった顔が「〇〇に似ている」という面白い歌はどうだろう、と。おこられた子どもにとっては小さな反撃にもなるし(笑)、ママも一緒に笑えて、空気が和むんじゃないかと。
そこからは試行錯誤です。例えば、最後に「モアイのときもある〜♪」ではなく「でもやっぱりママがすき〜♪」という展開もあり得ます。だけど、最後はやはり子どもに寄り添いたかった。そこでまたモアイが出てきたほうがきっと楽しいし、もっと笑えるんじゃないかなという判断を、CDの視点でするわけです。「ママがすき」は今回はナシ、というディレクションができる。
おかげさまで、このCMはCM総合研究所の作品別好感度(2017年6月度)で1位になることができました。特に多くのお子さんや親御さんの支持をいただけた理由は、「商品やブランドが、視聴者の感情に寄り添う」という歌づくりができたからだと思います。
一度歌にしてみると、伝えるべき一番コアな要素が見えてくる
CMに限らず、企画とは「制約をかける作業」です。制約というと何かネガティブな響きですが、商品やサービスの強みを浮き上がらせるためのポジティブな作業です。
企画をするとき、僕らは何かをゼロから生み出しているわけではありません。企画の詳細を考える前に、まずはより深く考えを巡らせるために“掘り進めていくべきポイント”を特定する必要があります。このときなんらかの形で制約をかけることで、製品やサービスの“掘り進めていくべきポイント”を特定しやすくなるのです。
その点、「歌にする」というのは、すごく良い制約なんです。メロディーに乗せる時点で字数が制約されるので、自然と「伝えるべき一番大事なコア要素」を一生懸命考えることになります。「一回歌にしてみる」だけで、すごく良いディレクションができているんですね。その過程できちんと要素を削ぎ落とせれば、強く人の心に届くメッセージになります。
企業が何かコミュニケーション課題に取り組む際は、「そういえばハミング・ブレインっていうチームがいたな」「一応、歌モノでも1本考えてみてよ」くらいのライトな感覚で構わないので、ぜひ気軽にご相談いただければと思います。
コミュニケーションのプロである広告会社の視点でつくる「歌軸の課題解決」は、きっと皆さんが喜んでくれるかたちで役に立てるし、世の中を面白くできると思っています。
以上、2回にわたってハミング・ブレインの活動についてお伝えしました。ぜひ、いい歌で皆さんの課題解決のお手伝いをさせてください!
歌を軸にあらゆる課題を解決するユニット「HUMMING BRAIN」(ハミング・ブレイン)
http://www.hummingbrain.jp/
「歌軸」での課題解決をワンストップで提供する、多分野のスペシャリスト集団。CMプランニングから楽曲制作・演奏までを行うクリエーティブ・ディレクター赤松隆一郎を中心に、アートディレクター、コピーライター、PRプランナーなど、それぞれ強みを持ったメンバーが集う。メンバーの共通項はもちろん「歌や音楽が好きなこと」。