「購買」につながる魅力的なブランドとは?
2017/12/14
商品やサービスに対する生活者の「検索」や「購買」といった行動に、企業の魅力はどのように関係するのか? 企業のブランドをあずかる方であれば、誰もが気になるこのテーマ、企業広報戦略研究所(電通パブリックリレーションズ内)らでは研究・分析を行い、今年の日本マーケティング学会で発表しました。
企業の魅力をテーマにした本連載の最終回では、生活者の購買行動モデルのAISASモデルに基づいて、生活者の検索(サーチ)・購買(アクション)・共有(シェア)の3段階の行動と、企業の魅力との関係性について分析を深めます。
Point
企業の魅力要素と、生活者の具体的な行動との関係性
・「企業の魅力」の3ファクター「Trust(信頼)」「Vitality(活力)」「Value(提供価値)」と、生活者の購買行動との関係が明らかに。
・Search(検索)には「Vitality(活力)」が、Action(購買)には「Value(提供価値)」に加え、「Trust(信頼)」が重要に。
・Share(共有)では、SNSでのシェアには「Vitality(活力)」が、リアルな共有(口コミなど)には「Trust(信頼)」が重要となる。
・自社のブランド力において、AISASなどマーケティングファネル上での課題はなにか? その課題に対して自社の魅力の不足部分を「見える化」し、対策を立案することが重要。
■生活者視点で三つの魅力ファクターに分類
企業広報戦略研究所では、企業の魅力を「人的魅力」「会社的魅力」「商品的魅力」の三つに分類してモデルを設計し、調査・研究を重ねてきました。これは、経営者やブランド担当者から見て、ステークホルダーとの関係性の理解が得られやすく、対応策を講じやすいと考えた企業視点での分類です。
この三つの魅力は12項目ずつに細分化され、合計36項目の設問で生活者1万人に調査をしています。
今回はこの調査結果を活用して、生活者視点でのファクター(因子)がないかを探索的に分析し、検索や購買行動との関係性について調べました。
企業経営者やブランド担当者の視点で「人的魅力」「会社的魅力」「商品的魅力」の三つに分類していた全36項目の魅力を、生活者調査の結果を元に横断的に因子分析したところ、「Trust(信頼)」「Vitality(活力)」「Value(提供価値)」という新たな生活者視点の三つの魅力ファクターが見えてきました。
第1ファクターは「まじめで信頼できる社員がいる」「リスクへの備えがしっかりしている」「地域に密着し発展に貢献している」「安定的な収益基盤がある」などが高い因子負荷量を示していることから、「Trust(信頼)」と名付けています。
第2ファクターは「起業家やベンチャー企業に積極的な支援をしている」「実力主義的な職場風土である」「M&Aなど積極的な投資で事業拡大をしている」「自由な議論ができる風通しの良い社風である」などが高い因子負荷量を示していることから「Vitality(活力)」と名付けています。
第3ファクターは「コアなファンが多い商品サービスを提供している」「オリジナリティーや独創性がある商品サービスを提供している」などが高い因子負荷量を示していることから「Value(提供価値)」と名付けています。
■魅力を感じた後、生活者はどう行動する?
一方、生活者は、企業に魅力を感じた後に、どのような購買行動をとるのでしょうか。生活者の購買行動と、先ほどの魅力ファクターとの関係性を分析すると、次のようになります。
※上記は、分かりやすく単純化した表となりますので詳細な分析データは、マーケティング学会発表論文をご参照ください。
調査分析結果からのポイントは以下の3点です。
・生活者にネット検索や企業サイト閲覧といったサーチ行動を促すためには、「実力主義的な職場風土」「M&Aなど積極的な投資」といったVitality(活力)系のコンテンツが重要。
・商品・サービスを実際に見に行く視察や購入といったアクションに進めるためには、「Value(提供価値)」系のコンテンツはもちろん重要だが、「まじめで信頼できる社員」「リスクへの備え」「地域に密着」などのTrust(信頼)系のコンテンツの重要性が明らかに。
・シェア行動のうち、ソーシャルメディア投稿にはVitality(活力)系のコンテンツが、リアル共有(口コミなど)にはTrust(信頼)系のコンテンツの相性が良い。
■自社の魅力的な行動(ファクト)を棚卸ししてみませんか?
動画などが拡散し話題をそれなりに獲得していても、販売への結び付きがいまひとつ弱い、購入者のエンゲージメント率や、口コミ数が伸び悩んでいるなど、企業のブランド課題にはさまざまなものがあります。自社の課題をAISASモデルなどマーケティングファネル上でいま一度見直し、発信しているコンテンツ特性とブランド課題の相性が適切かを見直すことが重要です。
企業広報戦略研究所では、魅力とは「企業の内面から湧き起こり、企業の行動として外部に認知されるもの」と考えています。広告宣伝などで形成されるイメージに加えて、実際の企業行動(ファクト)として、実績を積み重ねていくことで相乗効果が生まれるのではないでしょうか。そのためにも、自社の経営戦略・ブランド戦略における企業行動(ファクト)の不足部分について、魅力度モデルなどを活用して棚卸しし、全社の魅力要素を“見える化”していくことをお薦めします。
こうした活動は、自社にとって良い経営環境を構築するためのブランディング活動を効率的に推進していく第1歩になると確信しています。
今回の連載が、皆さまのブランド戦略にお役に立てれば幸いです。
詳しくは、企業広報戦略研究所(電通パブリックリレーションズ内)までお問い合わせください。
※本稿は、日本マーケティング学会の研究発表大会「マーケティングカンファレンス2017」で、最優秀賞「ベストペーパー賞」を受賞した研究論文に基づいています。研究論文の本編は「企業の魅力要素と購買行動の考察」をご参照ください。
北見幸一(東京都市大学 都市生活学部 准教授)、阪井完二(電通パブリックリレーションズ 局長)、末次祥行(電通パブリックリレーションズ 部長)