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食卓に“農”をのせようNo.4

日本のオーガニック食品購入者層、その意外な実態とは?

2018/01/31

日本のオーガニック食品購入者層、その意外な実態とは?

2017年、オーガニック業界では、世界を激震させるかもしれない大きな出来事がありました。アメリカ人が最も愛するスーパーともいわれるオーガニック食品スーパー「ホールフーズ・マーケット」がアマゾンに買収されたのです。

OTA(オーガニックトレード協会:アメリカ)の発表によると、16年のアメリカ国内オーガニック食品市場規模は397億ドル、成長率は前年比11%増。こうした成長を、「アマゾンのホールフーズ買収」のニュースは加速させることでしょう。

食品市場の1%にも満たないといわれる日本のオーガニック食品市場にも変化の兆しはあるのでしょうか。

日本のオーガニック市場を知りたい!

日本のオーガニック食品市場の変化を語るには、市場データが必要です。特に「消費者の実態・意識調査」は、変化の兆しを捉えるために欠かせません。

電通CDCは、オーガニックヴィレッジジャパンと共に『オーガニック白書』の発刊を企画。16年10月に消費者1万人を対象とした調査を行いました。

オーガニック食品の購入金額(月額)に応じて消費者を「H(high)層」「M(middle)層」「L(low)層」に分けて、それぞれの層の消費実態を見ていくと、興味深い結果が見えてきました。

■※消費者分類
H層……月間購入金額1万5000円以上
M層……月間購入金額5000円以上~1万5000円未満
L層……月間購入金額5000円未満


以下の四つのトピックを読めば、われわれは思った以上にオーガニック食品市場を知らないことに気付かされると思います。そこに、筆者は、オーガニック食品市場の成長の可能性を大いに感じています。

【実態1】60代男性が最も多く購入している。

【実態1】60代男性が最も多く購入している。
青~緑系が男性、赤~橙系が女性。男性の購買者がかなり多いことが見て取れる。

H、M、Lいずれの層でも、実は男性のシェアが小さくないことが白書からは見て取れます。月間の購入金額が最も大きいH層では、男女半々に近いスコアが出ています。中でも60代男性(13.8%)は60代女性(12.5%)よりもシェアが大きく、H層全体でも最大のシェアを持ちます。

【実態2】購入金額が上がると、購入動機も変化する。

【実態2】購入金額が上がると、購入動機も変化する。
各層におけるオーガニック食品の購入動機。購入金額が多くなるほど、生産者サポートや環境保全といった利他的な動機が増える。

購入動機では、H、M、Lどの層も「健康」「安全性」を重視しています。しかしそれだけではなく、H層は「環境保全」(32.5%)が他の層より高く、M層は「生産者サポート」(17.1%)、L層は「美容」(26.3%)と「ダイエット」(10.5%)と、それぞれ特色があります。

この結果には、「利他性の距離感」が反映されているように感じます。購入金額が上がるほどに、自分(美容、ダイエット)のためから他者のために、それも生産者のため→地球のためと「距離」が離れていっています。利他性が遠距離にまで届いているといえるかもしれません。

【実態3】野菜の次は、大豆加工品をオーガニックにしたくなる。

【実態3】野菜の次は、大豆加工品をオーガニックにしたくなる。
各層の購入したことのある/今後購入したいオーガニック商品。どの層も「野菜」は購入しているが、購入金額が増えるごとに大豆加工品→麺類、肉類というふうに購入品目も増えていく。

【L層】野菜中心に購入。
→今後の購入意向は「米・納豆・みそ・しょうゆ」が上位
【M層】野菜に加え、米や納豆・みそ・しょうゆなどの大豆加工品を多く購入。
→今後の購入意向は「麺類(うどん、そば、パスタ)や肉類」が上位
【H層】野菜+大豆加工品が上位。6位以下に麺類や肉類も増加。
→今後の購入意向は「酒類(ビール、日本酒、ワイン)や水産物」が上位

購入金額の増加に伴い、購入品目が野菜→大豆加工品→麺類・肉類という順番で遷移している傾向が見られます。つまり、消費者が購入する食材のオーガニック化には順番があるようです。

とすると、同じオーガニック食品でも、野菜より麺類や肉類の方が付加価値化を目指しやすそうです。あまり聞いたことはありませんが、「豚骨味のオーガニック麺を使ったラーメン」が流行したりするのかもしれません。

【実態4】情報入手したところで購入している。

[オーガニック食品購入先]
[オーガニック食品購入先]購入額が小さいL層ではスーパーマーケットでの購入が多いが、M層、H層では宅配の比率が上がる。
[オーガニック食品情報入手先]
[オーガニック食品情報入手先]同じく月間の購入金額が大きくなると、情報入手先も宅配の比率が上がっていく。

【L層】スーパーで購入するケースが多く、オーガニック食品に関する情報もスーパーで入手することがほとんど。
【M層】宅配(生協)で購入するケースが増える。情報入手源として、「友人知人からの口コミ情報」が相対的にポイントが高い。また、「宅配業者からのお知らせ」が増えている。
【H層】「スーパー」での購入は減り、「生協以外の宅配」「自然食品店」「百貨店」「専門店」などが増えてくる。情報入手源としては「宅配業者からのお知らせ」「ショップ店員」が多い。

「店頭での表示、説明」や「ショップ店員の説明」といった、より購入ポイントに近いところで情報を入手する傾向は全ての層に見受けられます。店頭表示の説明が面白かったり、販売員の話に納得したりすることが、購入意欲につながっているのかもしれません。

きっと、オーガニック食品は、「モノ」として買われているというより、体験の中で購入されているということなのでしょう。

国内オーガニック食品市場の未来を予想してみた

オーガニック食品市場の未来を見通すには、本当なら経年比較した方がより確かになります。しかし、16年調査は「プレ調査」の位置付けで、比較対象となるデータがまだありません。そこで、筆者が勝手にオーガニック食品市場の未来を予想してみました。

世界的には、オーガニック食品市場をけん引する先進国の健康志向が弱まることはなく、引き続き高い成長を示すでしょう。海外の流行ものに敏感な国内消費者も、この成長に刺激を受けるはずです。

そして国内人口の減少に伴い、「農産物の輸出」がクローズアップされます。2020年東京オリンピック・パラリンピックは、国内農産物をアピールする絶好の機会です。外国人にアピールする際、食材がオーガニックであることはプラスに作用します。

こうした潮流の中、もともとの市場規模が小さい国内オーガニック食品市場は、数年間は順調に数字を伸ばしていくと思います。その一方で、オーガニック食品の「付加価値」を問う声が高まるでしょう。

現状は、「安全・安心」を売り物(=付加価値)とする傾向の強いオーガニック食品。しかし市場規模が大きくなるにつれ、「本来、安全・安心とは社会のインフラであり、一般・汎用化されてしかるべき価値である」という消費者論調が強まると予測します。つまり安全・安心は「当たり前の前提」となり、こうした声はオーガニック食品の価格を押し下げる方向に働きます。

また、需要が増えた分だけ農産物生産量が増加し、流通の効率化が求められます。今はまだ珍しい「加工食品のオーガニック化」ニーズの高まりも、流通の効率化を要求するでしょう。流通の効率化はさらにオーガニック食品の価格を下げ、需要を増やし、販売現場ではオーガニック食品の品数が増えていきます。

一方、生産者からすると、オーガニック食品の生産は手間ひまが掛かります。手間ひまは生産時の原価を押し上げるので、オーガニック食品の価格低下は生産者には厳しい状況となります。しかし、AIやIoTによる「農業の情報産業化」で手間ひまやリスクを軽減できれば、価格低下に耐え得る生産体制が実現するでしょう。

こうしてオーガニック食品はリーズナブルになり、一般化されます。食材がオーガニックであることが当たり前の世の中になるのです。

観光立国を目指す日本は、来日外国人からのニーズに応えられるか?

この未来予測のように日本でオーガニック食品が一般化するためには、「外国人観光客」がキーになると私はにらんでいます。観光立国を目指す日本が、年間で3000万人に迫ろうとしている外国人観光客を「おもてなし」するのにどのような食材を使うのか。その視点です。

日本に来るような外国人観光客は、ある程度所得がある層です。高所得者は健康への関心が高く、「食べるならオーガニック食材がいい」という方も多いでしょう。外国人観光客をオーガニック食材でおもてなししたいという料理人、飲食店も増えていくのではないでしょうか。

そうした料理人、飲食店は、国内でオーガニック食材を調達できなければ、輸入に頼ることになります。国内生産者がオーガニック食材の生産に二の足を踏んでいるようなら、輸入オーガニック食材市場が急成長するかもしれません。

長らくオーガニック食品市場を観察してきた「ORGANIC VISION」の山口タカ編集長にも、国内オーガニック市場の未来を予想してもらいました。

「国内オーガニック食品市場と来日外国人の接点は、日本市場からのおもてなしだけではありません。逆に、来日外国人の方から積極的にオーガニック食品を要望する声が高まることでしょう。オリンピックのキャンプ地でも、調達する食材をオーガニックに限定してくる海外チームが出現する可能性があります」

オリンピック・パラリンピックの前後では、多くの国際交流によって日本人の意識が大きく変わるだろうという予測はさまざまなところでなされています。山口編集長は「オーガニック食品」についても意識改革があるだろうといいます。

「日本人は、オリンピックを通じた各国との交流の中で、オーガニック食材を食すことが世界では当たり前なのだと気付くことになります。今の日本の生産・流通・消費の意識の低さや遅れを感じることでしょう。日本のオーガニック食品市場が成長基調にあることは間違いありませんが、まだまだ規模が小さ過ぎます。できればオリンピック前から、世界を視野に入れたオーガニック食品生産に着手すべきだと思います」

…以上、新年最初のコラムということで、国内オーガニック市場の未来予測をしてみました。今後『オーガニック白書』の発刊を重ねて消費者の意識を経年比較すれば、市場変化の兆しはよりはっきり見えてくるはずです。2017年版の白書は4月に発表します。乞うご期待。