loading...

電通報ビジネスにもっとアイデアを。

なぜか元気な会社のヒミツseason2No.40

情報は、偏るもの。それを、どうにかしたい

2024/10/23

「オリジナリティ」を持つ“元気な会社”のヒミツを、電通「カンパニーデザイン」チームが探りにゆく本連載。第40回は「すべての町を、美味しい港町に。」のスローガン(ビジョン)のもと、日本の水産業にテクノロジーの力で新たな流通をつくる、というチャレンジを続けるUUUO(ウーオ)を取り上げます。

文責:柴田修志(電通BXCC)

この連載の取材を通じて、僕自身が知りたいな、教えてほしいな、と思っていることがある。それは、クリエイティブの本質とはなにか?ということだ。過去に取材させていただいた「鐘ヶ江」「Creema」「CoeFont」……いずれの回にも、大いなる学びがあった。

そんな僕が、今回ドアノックしたのは、UUUOという会社だ。「スマホを用いた鮮魚の売買」を実用化した、スタートアップ企業だという。クリエイティブとは、縁遠いビジネスのように思う。なのに、どうしたわけか、板倉社長の話をどうしても聞いてみたくなった。鳥取県の漁師町で育ち、物流会社を経て、広島で起業。こう言ってはなんだが、クリエイティブの要素は、なにも感じられない。

でも、僕の直感は正しかった。板倉社長から出る飾らない一言一言には、はっ、とさせられることばかりだ。その姿勢は、「おかしいな、どうしてうまくいってないのかな」といういたってシンプルなもの。ゼロイチ、すなわち「ゼロからイチを生み出す」クリエイティビティとはこういうことなのだということを、役得ながら今回も大いに学ばせていただいた。

板倉一智氏:UUUO(ウーオ)代表取締役 鳥取県出身。実家から徒歩10分の場所に港があり、親族や幼なじみの多くが漁業従事者。新卒で大手物流企業へ就職。帰省のたびに漁船の減少など水産業の衰退を目の当たりにする。これまでの水産流通をデジタルに変換することで情報の非対称性が解決され産地・消費地ともに新たな流通をつくることを目指し起業。

板倉一智氏:UUUO(ウーオ)代表取締役
鳥取県出身。実家から徒歩10分の場所に港があり、親族や幼なじみの多くが漁業従事者。新卒で大手物流企業へ就職。帰省のたびに漁船の減少など水産業の衰退を目の当たりにする。これまでの水産流通をデジタルに変換することで情報の非対称性が解決され産地・消費地ともに新たな流通をつくることを目指し起業。

起業のきっかけは、地元への驚きとショック

漁師町のご出身ですよね?という問いかけから、板倉社長への取材を始めた。「そうです。鳥取の、家から歩いてすぐのところが漁港、という町で育ちました。だからといって、将来は漁師になるぞ、といった気持ちはありませんでした。新卒で、東京の物流会社に入ったくらいですから。でも、帰省するたびに、明らかに船の数が減っている。にぎやかだった魚市場も、活気がない。外へ出たからこそ気づいたことだと思うのですが、その光景は驚きとショックを受けるに十分なものでした」

ドラマであれば、そこで即、起業!となるところだが、板倉社長の場合はちがった。「まずは、親戚や幼なじみの話を聞いてみることにしました。中でもショックだったのは、自分の子どもには(漁業関連の仕事を)継がせたくない、という幼なじみの一言でした。命がけともいえるリスクを背負いながら、それに見合った収入が得られないわけですから」

繰り返しになるが、ドラマであれば「よし、このオレがなんとかしてみせる!」となるはずだ。でも、板倉社長の心に湧きあがった気持ちは、どうしてなんだろう?なぜ、魚価が上がらないんだろう?というものだったという。「正直にいうと、人のために、社会のために役立ちたい!という気持ちではなかったです。とにかく知りたい、という気持ちが抑えられなくなっていった。なので、魚屋さんからなにから、会える人には片っぱしから会って、調べられることはとことん調べあげました」

日本の漁獲量は、1980年代をピークに下降している。その理由を、板倉社長はこう分析する。「一つは、海水温の上昇により取れる量が減ってきていること。もう一つは、その魚を取る漁師の数が減ってきていることだと思います」。ことの深刻さがよく分かるコメントだ。
日本の漁獲量は、1980年代をピークに下降している。その理由を、板倉社長はこう分析する。「一つは、海水温の上昇により取れる量が減ってきていること。もう一つは、その魚を取る漁師の数が減ってきていることだと思います」。ことの深刻さがよく分かるコメントだ。

水産業界を、モーレツにどうにかしたい

人に会って話を聞き、資料をあたって、また人と会う。地道な調べを進めているうちに、板倉社長の中で、徐々に、ある思いが芽生えはじめたのだという。「この業界そのものを、モーレツにどうにかしたい!と思ったんです。絶対にこの状況、みんな困っているはずだ、どうしてそれを誰も変えようとしないのだろう、と」

板倉社長がまず始めたのは、仲買業者として買参権(セリに参加する権利)を取得すること。水産業を盛り上げていきたい、という事業展望とともに踏み出したものの、周囲の同業者の反応は冷たかったという。「スマホで魚を売り買いする?なに言ってんだ?と、8年前はそんな感じでした。僕らのような新参者の存在は、既得権益が脅かされるライバルになるわけですから、それもあったと思います」

板倉社長が買参権にこだわったのには、理由がある。「圧倒的に知見が足りなかったですから。水産流通のための新たなプラットフォームをつくる前に、まずは自分たちの手で実際に魚を買って売る、という当たり前のことから始めようと思ったんです。市場が休みのときは、新規のお客さんになってくれそうなお店を一つ一つ開拓していきました。その結果、『半年で、買った魚の量が10倍?兄ちゃん、やるねえ。スゲーじゃねえか!』みたいなことになっていきました。泥くさいやり方かもしれませんが、そうすることで周囲のこちらを見る目が変わってきます。コイツら、ガチだ!みたいな(笑)」。おやおや?ドラマっぽい展開になってきたぞ、と思うと同時に、板倉社長の話の続きがモーレツに知りたくなってきた。

活気あふれる魚市場の様子(セリの風景)

活気あふれる魚市場の様子(大量のカニ)
「活気あふれる魚市場は、オトナの仕事場、オトナの本気を感じた、いわば原風景です」と、板倉社長は言う。「まさか自分が、その業界で働くことになるとは思ってもいませんでしたが、みんなで集まって、みんなが真剣にワクワクしているあの感じは、いまでも仕事を続けていく上での大きな心のよりどころとなっています」

チャレンジは、ルールの中で

もちろん、いろいろと怒られもしました、と板倉社長は続ける。「あげゼリ、というものがあって、セリで箱一杯の鯵(あじ)の相場が5000円だとしますよね。こちらはそれが欲しいものだから、最初から一気に8000円!と手をあげてしまう。まあ、落とせるは落とせるんですが、そうすると次のセリが8000円から始まる習わしがあるんですね。後で『兄ちゃんさあ、あまり場を荒らさないでくれる?』みたいなお𠮟りを先輩方から受けるんです。知らないことだらけなので、とにかく学ぶことに必死でした」

チャレンジというものはあくまで商習慣のルールの中でやっていかないと、長い目で見たときに結果としてうまくいかない、ということなのだろう。「とはいうものの、既存のプレーヤーは課題の認識はあっても、新しいアクションはなかなか起こせません。顧客の新規開拓にしてもそうです。だから、まずは僕らがやってみる」。新規開拓ということそのものが、これまでの商習慣にないことだとすれば、そこでのチャレンジは周りからのリスペクト獲得につながる。板倉社長のチャレンジは、無謀なことへの独りよがりの暴走では決してない、ということだ。

UUUOが2024年に新規開拓した高品質スーパー「アバンセ」の売り場。全国から仕入れた新鮮な水産物を求めて、多くの魚好きが集まるお店だ。
UUUOが2024年に新規開拓した高品質スーパー「アバンセ」の売り場。全国から仕入れた新鮮な水産物を求めて、多くの魚好きが集まるお店だ。

プレーヤーであり、ユーザーでありたい

スマホを用いて「売り手」と「買い手」をつなぐマッチング方式そのもののイメージは、起業前からすでに見えていた、と板倉社長は言う。「情報の非対称性(偏り)を是正する仕組みを提供するということです。ただ、そうしたプラットフォームをつくるにあたって必要な、売り手の希望に沿った細かなチューニング方法や買い手側の商売の実態といった、魚の流通に関する基本的なことを僕らはなにも分かっていない。だから、なによりまず僕ら自身が、プレーヤーであり、ユーザーにならなければならない、と思ったんです。自分たちのつくったシステムを自分たちが使ってみて、一人のユーザーとして自分たちが納得できれば、僕らが提供するサービスを売り込む際のなによりの説得力になりますから」

プレーヤーあるいはユーザーとしての知見を高め、独自のプラットフォームをつくり、最終的に水産業界全体をカバーするネットワークをつくることが目標なのだ、と板倉社長は言う。思わず「うわあ、一石三鳥ですね!」という言葉が漏れてしまった。UUUOが掲げる3つのバリュー〈百折不撓(ひゃくせつふとう)/全員当事者/まずは小さな1ケース〉についてのコメントも至ってシンプルだ。「僕らの価値って、なんだろう?ということを社員みんなで言い合って決めました。百折不撓については、『どれだけくじけても、しつこいまでに、あきらめない』のが僕のいいところだ、とみんなが言うので、それに乗っかっただけです(笑)」。これこそがまさに、「ゼロイチ」の精神であり気概なのだ、と改めて思った。

UUUOが網羅する漁港の情報は、全国でおよそ200カ所。毎日更新される水産物の出品情報が、写真を交えて飛び交う。将来的には、魚の売り買いをするすべての人が利用するサービスを目指していると板倉社長は言う。
UUUOが網羅する漁港の情報は、全国でおよそ200カ所。毎日更新される水産物の出品情報が、写真を交えて飛び交う。将来的には、魚の売り買いをするすべての人が利用するサービスを目指していると板倉社長は言う。

マーケティングまでやれる水産会社、それが僕らの強み

UUUOが提供するサービスは、鮮魚流通のマーケットプレイスとしての「UUUO」と水産業者間の受発注システム「atohama(アトハマ)」を二大柱としている。「UUUOにアクセスするようになって、売り上げが2倍になりました!」とか、「アトハマ以前の(手書き&FAXによるアナログな)受発注など、いまでは考えられない!」といったお客さまからの生の声が、板倉社長にとってなによりの励みになるのだという。

「改善すべき商習慣は変えていく一方で、古き良き商習慣を大切にすることも大事だと思っています。たとえばUUUOでは出品者自らが、自ら撮影した写真や動画を公表し、商品の良しあしを自らが評価する、といったことが進んで行われています。売る側にとって不利なことを、なぜ正直に公表するのか。それは、一度でも悪い魚をつかまされたお客さんは離れていってしまう、ということを売る側がよく分かっているから。そうした誇り高い心意気のようなものは、デジタルを用いようが変わることのない、素晴らしい商習慣だと思います」。UUUOはただ単に売り手と買い手のニーズをマッチングさせているのではない。心と心をマッチングさせているのだ。

インタビューの最後に、将来、板倉社長が思い描く事業が達成されたとして、そのときに見える風景はどんなものだと思いますか?という質問をした。「そうですね。魚の売買のためのツールというよりは、水産業界になくてはならないインフラになっていればいいですね。ツールからインフラに至るまでの道のりはまだまだ……20年くらいかかります。でも、ということは、まだまだやれること、やりたいことだらけ、とも言える」。目を輝かせながらそう語る板倉社長は、次のようにインタビューを締めくくった。「すべての町を美味(おい)しい港町にしたいと思っている会社は、現時点では僕らしかいませんからね」。穏やかなその表情に、揺るぎない信念と気高き自信が見て取れた。

UUUO社員の集合写真
UUUO 企業ロゴ

UUUOのHPは、こちら

「カンパニーデザイン」チームロゴ

「オリジナリティ」を持つ“元気な会社”のヒミツを、電通「カンパニーデザイン」チームが探りにゆく本連載。第40回は「すべての町を、美味しい港町に。」のスローガン(ビジョン)のもと、テクノロジーの力で日本の水産流通に新風を吹き込むスタートアップ企業、UUUO(ウーオ)を紹介しました。

season1の連載は、こちら
「カンパニーデザイン」プロジェクトサイトは、こちら


【編集後記】

取材の最後、いつものように編集部から、ちょっとヘンテコな質問を板倉社長に投げかけてみた。「マッチングとロマン、ということについてお話をうかがいたいんです。たとえば『婚活マッチングサイトで出会って結婚しました』というカップルと『大恋愛の末、駆け落ち同然で結婚にいたりました』というカップルがいたとして、どちらがドラマチックか、どちらにロマンを感じるか、と言われたら圧倒的に後者だと思うんですよ」と。板倉社長の答えはこうだった。

「ロマンと言えるかどうか分かりませんが、課題を解決する、そのプロセスがたまらなく楽しいですね。あっ、これは解けるぞ、という肌ざわり感のようなものにドキドキ、ワクワクするというか、そんな感じです」。肌ざわり感というワードには、ゾクッとさせられた。ゼロからイチを生み出す。それも、お客さまと共に、一人のプレーヤーとして……。スマホから伝わってくる肌ざわり感、これはロマンだと思った。

「いい魚が手に入ったぞー!」という喜びは、売る側にとっても買う側にとっても、格別なもののように思う。心の奥がじんわりと満たされていくような幸福感、母なる海への感謝の気持ち、誇らしさ……。ロマンだ、まさにロマンとしか言いようがない。編集後記を書いていて、なんだか無性に魚が食べたくなった。

tw