対談「2013年話題・注目商品」
消費の深層トレンドから見えてくること
第2回
2013/12/19
【第2回】
地方が頑張れば、日本全体がもっと盛り上がる
袖川: 2013年の傾向を踏まえ、これからの時代の気分や商品の深層トレンドを見通すキーワードとして掲げた五のトレンドについては、どのような印象をお持ちですか?
三浦:「手が届く未来」は、私の解釈では、何となく時間が流れていく未来ではなくて、東京オリンピックや、その先にある超高齢社会も含めてくっきり見えてきたという印象ですね。書籍やテレビでも、そういう近未来物が増えてきましたし、私の書いた『データでわかる2030年の日本』にも手ごたえがあります。
袖川: その未来は明るい未来なのでしょうか。
三浦: 普通に考えれば、あまり楽天的にはなれないですね。ただ、経済に関しては、デフレからの脱却には大きな期待がかかっていて、心情的にもそう思いたい。そういう意味では、確かに「攻めるが価値」という時代の気分は分かります。
「カジュアル・リッチ」への志向も、指摘される通りの状況かなと思います。オリンピックも来ることだし、ひとまず、ちょっとアクティブ、ちょっと積極的に、ということでしょうか。それから、「裾野力」が気になりますね。これはどういう感じでしょうか。
袖川: 先ほど三浦さんも指摘されましたが、「商品」と「時事・世相」に東京ものが三つも入っていて、東京の一人勝ちのような印象もあるのですが、一方で、地方からの情報発信力も高まっている。その裾野が広がるほど、日本全体が盛り上がっていくはずです。その期待も込めて、裾野力をキーワードの一つにしました。
裾野力は「新鮮な和」にもつながる
三浦: 日本の人口は、現在の減少ペースでいくと、3000年に80人になる計算になります。その減少傾向は、日本全体で均等なわけではなくて、私の出身地の新潟県上越市は、現在20万人都市ですが、100年後でも、すごく減るらしい。そんな都市が全国いたる所にあるはず。悲惨な未来を考えたら、やはり東京ひとり勝ちは良くないと誰もが思うでしょう。
もし100年後に、日本全体で人口が4500万人になったら、関東の1都6県で全ての人が住めることになる。では、それ以外の地域は空っぽでもいいのか、そういう日本でいいのか。そんなはずないですよね。
だから、東京の力を維持・向上させつつも、それをどう分散するかが大きな課題になってくると思います。そういう意味でも、「裾野力」は重要な観点だと思います。
袖川: おっしゃる通りですね。
三浦: これまで東京に住んできた人は、活動の場所として「東京」をすぱっと捨て去るのは難しいかもしれないけれど、たとえば、東京で稼いで、地方に住民票を置くという発想があってもいい。財政が逼迫(ひっぱく)する地方自治体も歓迎するでしょう。
北陸新幹線ができれば、上越市から約2時間で東京まで行けるようになります。地方にいても、必要なときだけ東京に出稼ぎに来てすぐ帰れる。防災面の危機管理からいっても、リダンダンシー(重複や余剰)がメリットとして生れます。
袖川: 東京で働いている人で、東京にいるより地方にいる方がパワーを出せる人も多いのではないでしょうか。
三浦: 東京で蓄積したいろんな知恵を、地方で生かしたり、おそらく、これからはそういう生き方を選択する人は増えていくのではないでしょうか。
袖川: 裾野力ともつながっているのですが、式年遷宮のようい日本の古くからの伝統であれ、カワイイ文化のような現在のものであれ、「和」の魅力が新鮮に受け止められるようになってきたということを「しんせん、ニッポン」というキーワードで掲げたのですが、これについてはどう思われますか。
三浦: Iターンも含めて、これまで都会に居ながら、地方の良さに目覚めた若い世代は敏感に感じはじめていますね。僕らが若かった80年代の頃は、若者向け雑誌の特集と百貨店がやることは同じだった。3000円の靴下を買いましょうとか、10万円のセーターを買いましょうとか。しかし今は、百貨店は昔と同じだけれども、若者向け雑誌の方は、「古本」や「地方暮らし」を特集にしたり、ずいぶん変わってきています。それこそ、「裾野力」や「しんせん、ニッポン」と同じ志向性ですね。
〔 第3回へ続く 〕
三浦 展(みうら・あつし)
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袖川 芳之(そでかわ・よしゆき) |