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思いつく、は才能なのか?

「思いつく」を考える~のぞいてみよう、アイデアの裏側 №1

  • 水本 晋平
  • 坂口 由之

2018/02/15

思いつく、は才能なのか?

大御所ミュージシャンが、ヒット曲の誕生秘話を聞かれ、「トイレでふっと思いつきました」と答える。それを読んだファンは、なるほど、アイデアとはこういう特別な人の特別な産物なのかと妙に納得してしまう。「思いつく」という言葉が曖昧であるがゆえに生まれる「壁」である。ものを考えたりつくったりするということが、先天的な才能かのように感じてしまうし、ものづくりに取り組もうとする若者は、自身の現状と比較してむなしい嫉妬心にさいなまれる。

人の心を動かすアイデアや、世の中をアッと言わせる商品を思いつく。それは、一部の人だけが持つ特殊能力なのか。それとも、自分にもできるものなのか。その答えが知りたくて、私、電通4年目のコピーライター水本晋平と、同期のアートディレクター加藤千洋とで企画したのが、現在アドミュージアム東京で開催中の「『思いつく』を考える展」*。

*1 汐留駅徒歩1分、カレッタ汐留地下2階「アドミュージアム東京」内で開催。

2月24日(土)まで。火~土曜11:00~18:00 開館(休館日:日曜、月曜)

その企画展の内容をベースにしながら、『うんこ漢字ドリル』や『文庫X』のようなヒット商品、往年の名作広告、身の回りの日用品とジャンルを問わず、優れたアイデアの裏側には何があるのか、独自に分類した九つのテーマごとに思考の過程に迫り、「思いつく」の正体を暴くことにチャレンジしていくのが本連載だ。

まずは、脳科学から「思いつく」を考えてみた。

「思いつく」は、脳科学的にどういうことなのか。その正体を解明するひとつのアプローチとして、脳科学者の茂木健一郎氏に「思いつく」を専門的な観点から解説していただいた。

「意欲のある高齢者は、最強。」

先日、テレビの音楽番組で、ピアニストで作曲家の清塚信也氏が「初めて見た映像に合わせて即興で作曲をする」という企画に挑戦していた。スタジオで映像を見るや否や、5分もかからずに90秒尺の楽曲をピアノで作曲し共演者を驚かせたが、演奏後に「どうやって思いついたのか?」と尋ねられた清塚さんは、「今までの自分の引き出しの中で、この映像に合いそうなものを探し出した」という趣旨の解説をしていた。

茂木氏によると、この「引き出し」から探し出す、という行為こそが、まさに脳科学的な「思いつく」の正体。これまでに見聞きした、全ての知識や経験をつかさどる「脳内ビッグデータ」(側頭連合野)に対して、文脈や過去の成功体験から外れて常識外の思考をする働きをする「Thinking outside the box 」(前頭葉)からリクエストが送られることで、何かを思いつくことができるのだという。

つまり、脳科学的には「若者の方が、考えが柔軟で思いつきやすい」というようなことはなく、知識や経験が多い分、高齢者の方が「思いつく」ポテンシャルは高いといえる。広告の世界でも、クリエーティブ部署に配属された新人は、世界の広告賞受賞作品の10年分を一気に見て自分なりに分析するという課題が課される。新しいアイデアを生み出すためには、脳内に歴史をアーカイブしていくことが極めて重要であり、その努力なくして「思いつく」ことなど決してないのだ。

集中した後のリラックスで、ひらめきは生まれる。

では、冒頭で取り上げたようなアーティストの「トイレで思いついた発言」は、自己ブランディングのためのうそなのかといえば、そうではない。脳内ビッグデータと前頭葉が掛け合わさると、脳内で0.1秒の同期発火が起こり「ひらめき」が生まれるが、そのひらめきの多くは、「集中した思考の後のリラックス」で生まれるという。つまりきっかけとしてリラックスは必要であるが、ただお風呂に入るだけでは思いつけない。あらゆるインタビューに、その注釈が書いてあれば、自分も考えてみようと思う人が増えるかもしれない。

脳科学的には、脳を整理整頓し集中するための回路を「デフォルトモードネットワーク」と呼び、散歩や入浴など、スマホなどと切り離された環境をつくることで活性化する。事実、茂木さんはほぼ毎日朝のランニングでこの時間を欠かさないという。私も歩くようにアドバイスをされ即実践しようと、茂木さんへの取材後、次のプレゼン先まで40分歩いて移動をしてみたが、全く習慣化せずに終わってしまった。今年こそは…。

最後に、思いつくための脳科学的なヒントを茂木さんにさらに伺ったところ、「フロー」と「ゾーン」という言葉を教えてくれた。

「思いつくために、『フロー』の状態を目指す」

何かに集中して、時間が経過するのを忘れるような状態が「フロー」。この時、パフォーマンスが最大になり、行為自体が喜びになる。そのためには、脳に負荷をかける必要があるが、自分が何とかクリアできるかできないかくらいのレベルの負荷がいいという。

ちなみに、そのさらに高みにいくと「ゾーン」と言われる状態になる。これはトップアスリートでも人生で数回しか体験できないが、かのモーツァルトはずっとこの状態であったのではないかという説も。

思いつく < 考える

コピーライターの大先輩である磯島拓矢さんの著書『言葉の技術』には、サブタイトルとして「思いつくものではない。考えるものである。」と書かれている。曖昧模糊な「思いつく」の正体を知り、幻想に惑わされることなく考えるためのヒントを得る。アドミュージアムでの展示やこの連載が、その契機になれば幸いである。

 

ここから先は、アドミュージアム東京・学芸員の坂口由之が、アドミュージアムの展示にもある江戸の広告事例を基に、江戸の「思いつく」、アイデアの裏側を語っていく。

「エドバタイジング(江戸の広告)」に探る          

今日の広告のルーツは江戸の町人文化の中に探ることができる。

一大消費都市となった江戸中・後期に活発な商業活動が繰り広げられた。

江戸の町を中心に繰り広げられたアイデアに富んだ“萌芽的な宣伝広告”は広告コミュニケーションの普遍的な方法や可能性を示唆している。

江戸商法の哲学はお客様の存在に敬意を払い、そして世の中のためになることを尊重する基本姿勢があった。自分の利益だけを考えず、お客様に満足して喜んでもらい、喜んだ先に商売の利があるという知恵があった。

その広告作法は「粋」「洒落」「通」などの美意識を持った江戸っ子のもとで洗練されたものになっていく。まさに広告は文化の成熟度を表すといわれる。

マスメディアはもちろんインターネット、SNSのないこの時代に宣伝広告の発想の原形とも云える興味深い事例が数多くある。

「広告」という言葉すらない時代であったが、それらを筆者は「エドバタイジング」と洒落てみた。未来のヒントは歴史の中にある。人の心を動かすアイデアを江戸の広告仕掛け人たちはどのように「思いついて」いたのか?この「『思いつく』を考える展」を受けて、江戸の広告を9つの手法に分類し、次回から紹介しましょう。

◆アドミュージアム東京

江戸期からの広告の歴史展示と広告・マーケティングの専門ライブラリーを備えた、世界に類のない広告専門ミュージアム。

総合的にメディアを網羅した広告の歴史資料30万点、専門図書は約27,000冊を所蔵。ライブラリーでは書籍と広告作品のデジタルアーカイブも検索・閲覧出来ます。このミュージアムは広告の社会性や文化的価値を学ぶ場であり、人の心を動かすアイデアの宝庫。 “広告はやっぱり面白い”と実感してください。

アドミュージアム東京へ、ようこそ。