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マテリアル・イノベーション!No.2

ソックス型化粧品、開発秘話!小さく早く低コストなマイクロビジネス

2018/03/07

左:木幡 容子、右:堀田 峰布子

ユニークなマテリアル(素材・材料)を発掘し、広告会社のクリエーティブの力で新しい価値を持つ商品を開発・販売する電通の「マテリアル・イノベーション」プロジェクト。その第1弾として、着るだけで肌を美しく整えるソックス型化粧品「リリコトリコ」が発売中です。

企画・開発からPR、販売までを手掛けているのは、たった3人の電通社員。そのうちの2人、堀田峰布子と木幡容子がプロジェクトを振り返ります。


<目次>
この面白い素材で、世の中に新しいことを巻き起こしたい
ソックスにワッペンを付けるだけで商品価値が変わる
「感性価値の付加」が新しいビジネスになる

この面白い素材で、世の中に新しいことを巻き起こしたい

堀田:「マテリアル・イノベーション」プロジェクトの企画経緯と目的は前回コラムで書かせていただきましたが、今回は一緒にプロジェクトを手掛けている木幡さんと対談という形で、もうちょっと舞台裏のお話もしつつプロジェクトを振り返ろうと思います。

木幡:振り返るといっても、まだ終わってないですけどね(笑)。今もホワイトデー向けのギフトセットを絶賛発売中です!

堀田:木幡さんとはかなり前から「ジャンルを問わず、何かイノベーティブなことをやろう」と話していたけれど、ついに実現しちゃいましたね。最初に話したのは、2016年の12月頃でしたっけ?

木幡:そうそう。堀田さんから「面白い素材がある」と言われて、それが帝人フロンティアが開発した「着る化粧品」ことラフィナンだったんです。

堀田:ラフィナンは衝撃でしたね。「化粧品なのに繊維」という時点で面白くて、この素材でアパレル商品をつくれば世の中に新しいことを巻き起こせると思いました。そしたらすぐに木幡さんが「その素材なら、タイツをつくったら面白いんじゃない?」と乗っかってくれたと。

木幡:私が単にタイツがすごく好きなこともあって(笑)、真っ先に「タイツだ!」って思ったんですよ。冬って足が乾燥してカサカサになるから、履いているだけで肌が潤うタイツなら欲しい人もたくさんいるはずですから。

堀田:「スキンケアの手間いらず!」「クリームみたいにベタベタしない!」「かわいいタイツだったら、一石二鳥!」って、妄想がどんどんふくらんでいきましたね。

木幡:それで、なんで電通が商品開発とか販売を?ってよく聞かれますが、堀田さんの「マイクロビジネス」構想もあったんですけど、当時はちょうど私が電通サイエンスジャムに出向していたんですよね。電通サイエンスジャムでは「イノベーションを起こすプロダクト開発」もテーマのひとつに事業を展開しているので、話を通しやすかったという。

堀田:私は電通の持つクリエーティブ力を使えば広告だけでなくいろんなことができるはずだと考えていて、そのための実績をつくりたいと思っていて。前回書いた「マイクロビジネス」の構想とラフィナンがぴったりハマったんです。このプロジェクトの話をしたとき、会社の反応はどうでしたか?

木幡:私の上司は「どうぞ、どうぞ」でしたね。新しいことにはどんどんチャレンジしよう、予算面などで援助はするからと。とはいえ、普段電通サイエンスジャムが手掛けているのは、基本的にB to Bに向けたIT系のプロダクトが多く、こういうB to Cのプロダクトはそんなになかったんですけど。 

堀田:今回は、新機能素材に対して電通の強みであるクリエーティブを加えることで生まれる新しい価値を見せたかったので、どうしても一般のお客さまに手が届くようなB to Cのものにしたかったんですよね。

ソックスにワッペンを付けるだけで商品価値が変わる

堀田さん
堀田さん

堀田: 2017年1月の帝人フロンティアとの初ミーティングのときに、最初に言われたのが「電通さん、広告のお話ですか?」っていう(笑)。「ラフィナンでタイツがつくりたいんです」って言ったら驚かれましたね。

木幡:広告会社がタイツをつくると思わないですよね。それで、当時の私たちはラフィナンの特性をきちんと理解しておらず、無謀な提案も多かったですね。「ラフィナンという素材は糸を長く編み上げるのが技術的に難しいので、タイツには向かない」と言われたときも、「どうしてもつくれませんか?」って、かなり粘ったし。最終的にプロジェクトをソックスに変更したのが5月でしたっけ。 

堀田:そう。肌が乾燥する季節である秋冬商戦に間に合わせるためには、すぐにでも決断しなきゃいけないっていう、ギリギリのタイミングでした。

木幡:「ソックスでいこう!」って決めて本格的に開発が始まったわけですが、そこからが大変でしたよね…。結局発売は12月になっちゃったし。

堀田:企画・開発からPR、販売や在庫管理まで、アートディレクションをしてくれた遠藤生萌さんを入れてもたった3人で進めてきたから、常に苦労がありましたね。

木幡:本当に、企画の段階から1個1個フェーズが進むたびに壁にぶつかる感じでした。

堀田:しっかり計画は立てたけど、想定外のことは起こる。アパレル業界独特の常識や慣習だったり、化粧品ということで東京都薬務課からの指摘や指導だったり…。まず、ソックスのカラーバリエーションが2色だけっていうのが最初の想定外でしたね。

木幡:ラフィナンがきれいに染まりにくいということで、黒とグレー以外の色だとムラになってしまうというね…。「じゃあパターンを編み込んだり、プリントしたりはできますか」と聞いたら、それもできないと。若い人に買ってもらうには黒とグレーの無地じゃつまらないし、どうしようかと1カ月ぐらい考えましたね。最終的に、私がよく行く靴下屋さんにたまたま堀田さんと行ったら、ワッペンをペタペタくっつけたソックスがあって「あ、これならいける!」と2人で顔を見合わせたという。

堀田:ワッペンは、自分好みにパーソナライズできるのが大きかったですね。無地のソックスにただ「ワッペンを付ける」というひと手間を加えるだけで、商品価値をガラッと変えられる。そこからアートディレクターの遠藤さんもプロジェクトに引き込んで、あれこれデザインを考えていったわけですが。

木幡:最初はワッペンのモチーフに、花とか、鳥とか、金魚とか、キノコとか…。

堀田:足からキノコが生えてるシュールなやつね(笑)。それに初期はもっとかわいらしいテイストでしたね。

木幡:シャープな印象にしたくて方向性を変えたんですよね。いろいろと検討して、結局モチーフは蝶々で、かつ、大人が付けてもサマになるワッペンを目指そうって。

堀田:遠藤さんも、ディティールにこだわってデザインをしてくれましたね。「糸の選び方やステッチの入れ方で表情が全然変わるから」と細かく指示を入れてくれるうちに、どんどん理想の形が見えてきました。

木幡:デザイン面ではワッペン一点勝負だったので、遠藤さんの力には本当に助けられたと思います。

堀田:パッケージやカード、ステッカーも含めてリリコトリコの商品メッセージ性をしっかりとビジュアル化してくれて。プロダクトデザインの仕事は初チャレンジなのに、楽しそうにやってくれましたね。ちなみに木幡さんは、今回楽しかったことってなんですか?

木幡:自分たちが企画・開発した商品の実物が届いたときが一番うれしいというか、衝撃を受けましたね。「ホントにできちゃったよ~」って(笑)。今まで絵に描いた餅しか見たことなかったのに、そのお餅が実物としていきなり目の前に現れた感じでした。

堀田:そうだったんだ(笑)。B to Cのプロダクト開発も面白いでしょ?

木幡:面白い!「自分たちで本当に商品をつくって売るところまでできちゃうんだ」という手応えが得られたのがよかったです。

「感性価値の付加」が新しいビジネスになる

木幡さん
木幡さん

堀田:今回マイクロビジネスの実践ということで、短期間ですごい勢いで進めましたが、初めての試みということもあり、ものすごい事件もいくつかありましたね。

木幡:特に最後の「販売できません!事件」は、詳しいことは言えないけどびっくりした(笑)。でもトラブル時も堀田さんが粛々と交渉をしてくれて心強かったです。

堀田:ちなみに、そのときは納品が遅れた分の補てんとして「販売ロスの期間は何日なので、販売計画からするとこのくらいの売り上げがあったと思われるため、その分ディスカウントしてください」と交渉もしていました。

木幡:さすが堀田さんの「しぶとさ」…(笑)。無事発売までたどり着いたのは、堀田さんの交渉力と粘り強さのおかげですね。これまで、いろんなプロダクト開発に携わってきている人だから頼りになるなあと思いました。

堀田:自分としては、自分の手の届く範囲内のコンパクトなビジネスは、コントロールする労力もコンパクトだからむしろラクだったかな。

木幡:コンパクトならではのスピード感は新鮮でしたね。普通プロダクトを開発するっていうと、商品化するまでプロトタイプを延々つくり続けることも結構あるじゃないですか。

堀田:プロトタイピングを飛び越して、いきなり小さく早く低コストで商品化していくビジネスモデルって、イノベーティブだと思ってたんですよ。仮説ではなく「実際にユーザーに売る」ことでリアルなフィードバックが得られるし。マイクロな規模ということもあり、大プロジェクトでは試せないようないろいろなチャレンジもできるし。

木幡:実際、チャレンジばかりでしたね!企画で終わらず、販売、プロモーション、在庫管理まで全部自分たちでやるっていう体験もそうそうないですよ。

リリコトリコ

堀田:今回はECサイト開設や在庫管理まで、できる限りオープンなサービスを使うことで低コストを実現しましたけど、梱包にせよ配送にせよ安い業者さんを探してコスト計算をして、1円でも安くを追求しましたね。画期的なビジネスモデルです!という実績にするためには、黒字化させないと意味がないですから。

木幡:予算も商品単価も開発期間も、電通史上まれに見るミニマムな事業プロジェクトだと思います(笑)。でも、大きいビジネスや通常の電通業務では得られない学びがたくさんあるなと。

堀田:自分たちで一通り全部体験できたことで、「押さえなきゃいけないツボ」は分かりましたよね。次回は企画から販売開始までもっと短期間でいけると思うし、このノウハウで大企業の新規事業開発のプロジェクトだったり、ゆくゆくは、個人で物をつくったり売ったりしたい人へのサポートもできるかなぁと思っています。世の中の働き方が変わって、副業がもっと一般的になったときに、きっとフィットすると思うんです。

木幡:個人的にはもうちょっと工業的な、金型を使って製造するプロダクトでのマイクロビジネスにも挑戦したくなりました。今回みたいなアナログな素材の方が低コストでスピーディーだとは分かりつつも、あえて金型で。

堀田:私はもっと新しい仕組みや考え方を掘り起こしてみたいな。「B to Bでしか使われずに埋もれてしまったもの」って、マテリアル以外にもたくさんあるはずですよね。そこに電通ならではのクリエーティブの力を活用したアプローチでどんどんフォーカスして、具現化していくのも面白いかなって。それが新しいビジネスの仕組みやイノベーションにつながっていくと嬉しいです。

木幡:また面白いことをやりましょう!

リリコトリコ