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この連載では、書籍『広告法』の中から、特に実務的にフォーカスしたい点を取り上げて、Q&A形式で解説していきます。

今回は、広告制作における第三者の創作物の無断利用(意図しない利用も含みます)について取り上げます。

Q. グラフィック広告を制作しました。民家を借りて屋内のロケをしたのですが、広告で撮影された写真の登場人物の背景の壁に、飾られていた絵画が写り込んでいました。ピントがずれているので明瞭ではないものの、どのような絵画かは大体分かります。

この絵の作者から、広告が絵画の著作権侵害に当たるというクレームが入ったのですが、本当に著作権侵害になってしまうのでしょうか?
連載第2回で、他人が思想又は感情を創作的に表現したもの(=著作物)を無断で広告に利用(無断複製)したり、少しだけ変えて利用(無断改変)したりする場合には、著作権侵害の問題となり得るという説明をしました。

このケースでは、広告に他人の著作物を無断で利用していることになりますから、著作権侵害に該当するのでしょうか。

A. Qのような、第三者の著作物の写真へ写り込みのケースにおいては、写り込んでいても著作権侵害にはならない可能性があります。

ただし、事実上のクレームの可能性は否定できません。よって、広告制作の実務上は十分な配慮をする必要があるといえるでしょう。
著作権法には、著作者が権利を行使できない場合について定められています。そのうちのひとつがこの写り込みのケースです。

写真の撮影などの方法によって著作物を創作する際に、その撮影などをしようとする物から分離することが困難であるために一緒に写り込んでしまうような物があるとします。

撮影は複製するということですから、一緒に写り込んでしまうものが第三者の著作物だった場合には、第三者の著作物を複製していることになります。とすると、無断で撮影すれば、著作権侵害になるように思われます。

しかし、一緒に写り込んでしまうものが第三者の著作物であったとしても、創作しようとしている著作物の軽微な構成部分にすぎない場合には、撮影などの方法による創作に伴って複製等してしまっても、原則として著作権侵害には該当しません(著作権法30条の2第1項)ので、実際の写り込みの態様次第ですが、Qのようなケースでは著作権侵害にはならないのではないかと思われます。

もっとも、写り込んだ著作物の著作者等からの事実上のクレームの可能性は否定できませんから、広告制作の実務上、撮影の際には、写り込みについては十分な配慮をする必要があるといえるでしょう。

以下に、広告制作実務において問題となりがちなケースについて挙げることにします。

【問題となりがちなケース】

■無断複製の問題となりがちなケース
・絵や写真などをスキャナーで取り込んで広告で使用してしまうケース
・小説の一節などを無断で引用してしまうケース
・許諾を受けた場合でも、そこで約束した利用期間を超えて利用するケース
・許諾を受けた場合でも、約束した利用範囲を勝手に拡大して利用するケース

■無断改変の問題となりがちなケース
・絵や写真などをスキャナーで取り込んだだけではなく、それをオリジナルと少しだけ変えて使用するケース
・映画やドラマなどのパロディー

上記は、著作権侵害の問題となり得るケースですが、これ以外にも、設例のように法的な問題ではないけれども、クレームの可能性があるケースというものもあります。広告の制作においては、第三者のものの利用については慎重にする必要があるでしょう。

詳しくは、広告に関連する法規制を網羅的に、実務的に、理論的に解説を試みた『広告法』を手に取ってみてください。

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著者

長谷川 雅典

長谷川 雅典

株式会社電通

1996年電通入社、マーケティング局と営業局で勤務の後、法務室に異動(部署名はいずれも当時)。2007年旧司法試験に合格し、司法修習を経て電通に復帰。弁護士・弁理士登録。著書に、『業界別・場面別 役員がしっておきたい法的責任-役員責任追及訴訟に学ぶ現場対応策-』(経済法令研究会、2014)(共著)、『経済刑事裁判例に学ぶ不正予防・対応策-法的・会計的視点から-』(経済法令研究会、2015)(共著)、『平成27年5月施行 会社法・同施行規則 主要改正条文の逐条解説』(新日本法規、2015)(共著)、『広告法規マニュアル第39号 不当表示規制の概要及び措置命令の最近の事例』(東京広告協会、2016)、『広告法』(商事法務、2017)(編集代表)。

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