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“ダボス会議”リポートNo.1

世界を動かす“ダボス会議”の基本情報とトレンド

2018/03/26

スイス東部の小さな街ダボス。毎年1月、世界の政財界のリーダー3000人余りが集まる世界経済フォーラム(WEF)の年次総会、いわゆる“ダボス会議”が開催されます。 今年は、トランプ大統領が現役のアメリカ大統領として18年ぶりに参加したことなどで、話題となりました。

この会議は「世界を動かす1%の富裕層の集まり」ともいわれ、何が行われているのかは外から見ていてもよく分からないと思います。しかし、世界の政財界トップを魅了する現場には、それにふさわしいさまざまなヒントや価値があるようです。

今回はダボス会議の基本情報と、今年1月23~26日に行われた48回目のダボス会議を通して、今年のトレンドを読み解き、次のキーワードを探っていきます。

ダボス会議ってなに?

正式名称は、世界経済フォーラム(World Economic Forum)。日本ではダボス会議といわれることが多いため、イベントの団体と思われている方も多いのではないでしょうか。

ダボス会議のミッションは、対話によって世界の課題を解決しよう(committed to improving the state of the world)ということ。ジュネーブ大学の経営学の教授となったクラウス・シュワブ氏によって1971年に設立されました。

現在はジュネーブ本部の他、ニューヨーク、北京、東京、サンフランシスコの5カ所に拠点があり、およそ700人の職員が従事しています。この職員が毎年1月の年次総会のために活動しているのかというと、それだけではありません。

ダボス会議は本来、世界経済フォーラム(彼ら自身は自らを“フォーラム”と名乗ります)が、1月下旬に行う年次総会のことを指します。

その他にも中南米やASEANなど地域ごとのアジェンダを扱う会議や近年ではテクノロジー系のテーマを多く扱う中国で行われる「Annual Meeting of the New Champions」(通称サマーダボス)、各業界の専門家のカウンシルで構成する「Annual Meeting of the Global Future Councils」などのイベントがあります。さらに、13のコミュニティーもあり、決してイベントを開催するだけの組織ではありません。

影響力のあるリポート

WEFが出す代表的なリポートに「国際競争力リポート」「ジェンダーギャップリポート」「グローバルリスクリポート」などがあります。

これらは学術界、ビジネス界のパートナーと共に綿密な調査のもと作成されるため、世界的に信頼度が高いとされています。難解な内容ですが、近年ではビデオによる解説やソーシャルメディアを駆使するなど、分かりやすく親しみやすいコミュニケーションにも力を入れています。特にソーシャルメディアhttp://wef.ch/facebook、https://twitter.com/wefは、ポイントが整理されているのでトレンドをインプットするにも便利です!

●国際競争力リポート(The Global Competitiveness Report)

インフラ・労働市場・ビジネス・教育・政治・経済など、12の評価項目に基づき、世界137カ国・地域の国際競争力を測定するもので毎年9月に発表されます。2017年の日本は前年の8位から一つ下げた9位となり、市場規模や教育、インフラでは優秀なものの、マクロ経済環境が最大の弱点であると指摘されています。また労働法規の制限、税率、イノベーション能力不足などが今後の改善点として挙げられています。

●ジェンダーギャップリポート(The Global Gender Gap Report)

経済参画、政治参画、教育、健康などの4分野の14項目で、男女平等の度合いを指数化したものの順位が測定され毎年11月に発表されています。17年の日本は調査対象144カ国・地域のうち114位と前年より三つ順位を落として過去最低の順位となりました。女性の政治参画が遅れているのが主な理由とされています。

●グローバルリスクリポート(The Global Risks Report)

世界が直面している主要な課題とリスクを考察しており、企業の危機管理計画の策定には非常に参考になります。今年のダボス会議の直前に出された2018年度版では、地球環境の危機、地政学的な緊張の高まり、サイバーリスクなどが挙げられました。

グローバルリスクリポートでは、読めば読むほど懸念されているリスクは表面的ではなく連鎖していることが読み取れます。詳細は、いずれもWEFのウェブサイトで閲覧することができます。

人々はなぜ雪のリゾート地に集まる?

今年のダボスは80年ぶりの大雪で電車も車も遅延だらけ、通常30分ほどの隣町からの移動も3時間かかるなど尋常ではありませんでした。

そもそも、なぜ雪が積もる1月のダボスに、世界のトップがわざわざ出掛けていくのか、不思議に感じる人もいると思います。決して会議の合間にスキーをするわけではありませんよ!(逆に、この時期のダボスのスキー場は空いています)。

参加する世界の政財界のリーダーは「ここに来ればいろいろなトップにまとめて会えるため個別出張の数回分以上に相当する」「最新の世界の動きを知ることができる」「自社の将来の戦略が見通せる」ことに価値を見いだしているのです。実際にダボス会議では世界の課題を取り扱う400余りのセッションの他にもさまざまな会合やイベントがセットされています。

そのため、世界を動かすリーダーたちはダボス会議を「国のIR(Investor Relations)」の場として活用し、会議場の外では、各国や世界企業のPR合戦が年々激しくなってきています。

(この話は次回に詳しく解説します)

参加できるのはトップだけ?

この魅力的な会合にいったい誰が参加できるのか気になりますよね。まずはWEFの会員にならなければならないのですが、企業でWEFの会員になるためには一定の水準をクリアする必要があります。そしてイベントの参加には別途参加費もかかります。さらに、企業でも取締役以上などの役職者でなければなりません。

そういわれると「取締役以上?自分には関係ないや」と思う人もいるかもしれませんが、WEFは人材の発掘にも力を入れています。

例えば、20代の若者にはGlobal Shapers Communityに選出されるチャンスがあります。2年の任期で世界各地のハブ(拠点)を任されているメンターを中心にコミュニティーを形成しています。主に意見交換とネットワーキングを行います。またその地域と一緒にイベントを開催することもあります。

18年1月現在、世界158カ国378拠点、7200人余りが選出されています。日本にも東京、横浜、大阪、京都、福岡の5拠点があります。

30代に対しては、Young Global Leadersがあります。選出時に35歳以下でなければいけないのですが、ハーバード大学、オックスフォード大学などと提携したプログラムや海外遠征(18年はグリーンランド)もあり、参加することによって世界各地の次世代リーダーたちと意見交換できる絶好のチャンスも用意されています。著名な企業の経営者やフランスのマクロン大統領など政治家も多く輩出しています。

40代以上をターゲットにとした枠組みは特にありませんが、WEFの関連組織シュワブ財団が選出する社会起業家のコミュニティーがあります。

これらのコミュニティーに入るのにはそれぞれ自薦・他薦の上、厳しい選考委員会を経て選出されなければなりませんが、読者の皆さんにも全くチャンスがないわけではありません。英語でのコミュニケーションは必須ですが、企業の次世代を担う若手候補をこういったコミュニティーに応募させ、選出された後も参加をサポートすることができれば、グローバル化の世界で勝ち抜くヒントや武器が得られる可能性が高まるのではないでしょうか。

2018年の年次総会から見る今後の動向は?

すでにメディアの報道にも出ていますが、アメリカのトランプ大統領などG7の首脳を含めて、世界の70以上の国から首脳クラスが集まりました。

今年のテーマは「分断された世界における共通の未来の創造」(原語:Creating a Shared Future in Fractured World)。「地政学」やWEFが推し進める「第四次産業革命」を中心に400余りのセッションで構成されました。特に「ブロックチェーン」「サイバーセキュリティー」「人工知能(AI)」などが今年は目立ちました。

仮想通貨の将来性についてはまだまだ意見は分かれている状態でした。引き続きこれらのトピックは関心が高く、継続して多くの議論がされていくと思います。

この他、2年ほど前から学者を中心に活発に議論されてきたベーシックインカムは、今年は政策担当者や企業経営者も含めたトピックとして議論するようになっています。400余りのセッションの内100以上のセッションがYouTubeで見ることができます。

世界経済フォーラムがリードする第四次産業革命

最近よく耳にする「第四次産業革命」ということば、英語だと「4IR」(4th Industrial Revolution)と記されていることも多いです。2016年にシュワブ会長がこのことについて著書を出し、2017年5月にサンフランシスコに第四次産業革命センターを開設しました。

目的は、人、技術、金、制度などを自由に拡散・共有することで国境を超えたオープンイノベーションを生み、世界経済の新たな成長に貢献することと、技術進歩と各国の制度間の差である「ガバナンスギャップ」を克服し、グローバルなイノベーションを起こす拠点を構築することにあります。

センターでは、AIやヘルスケア、自動運転など次世代に必要な技術について専門家と企業が研究しています。また、日本政府や企業からも出向者がいます。

そして2018年7月には、第四次産業革命センターの世界で二つ目の拠点が東京に開設されます。また、今後はUAE、インドなど世界各所で開設される予定です。

(日本センターについては次号で詳しく紹介します)