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“ダボス会議”リポートNo.2

国を、企業を売り込む“ダボス会議”

2018/04/04

大通りはPR合戦

ダボスの街の中心部はおよそ2キロ。プロムナードとタル通り(Talstrasse)の2本の大きな通りが街の中央を通っています。世界経済フォーラムの年次総会である“ダボス会議”の期間だけ、特にプロムナードの様相が大きく変わります。そこには世界有数の企業による独自の豪華なショーケースが次々と並んでいきます。ここ2~3年は、その動きが加速しています。

左上から時計回り 各企業のショーケース Facebook、Google、HSBC、Salesforce

なぜ企業はここにショーケースをつくるのでしょうか。そもそもこのダボス会議、本会場内でパートナー企業が独自に出展できるブーススペースはありません。会場内は、世界経済フォーラムのトーンで統一されています。

「世界の経営者や有力なメディアが集まるこの場で自社のことを紹介したい」と思うのはマーケティングに携わる者としてはごく自然なことです。「新たな投資家を呼び込めないか」「ビジネスパートナーを見つけられないか」「メディアにも取り上げてほしい」。さまざまな思いがこの小さな街の様相を変えているのです。

会議の期間中、通りに面した飲食店などをパートナー企業が借り上げたり、普段は空き地になっているスペースにパートナー企業が仮設の施設を建てたりと、イベントスペースやネットワーキングスペースでは、さまざまな取り組みが行われています。

中には、商談だけをするスペースをつくる企業などもあります。本会議場にも会談スペースは設けられているのですが、予約は困難なためです。またライバルに誰と会談しているのかを知られたくない。そんな背景もあり、本会議場外に拠点を設けるところが増加し続けているのです。

左上から時計回り 各企業の拠点 Accenture、Johnson&Johnson、 FUJITSU、NOMURA

また大手メディアも年次総会の公式プログラムでメディアセッション(2018年は30セッション余り)を開催しています。それだけでは足りず、独自に施設をつくり、セッションや要人のインタビューを行ったりしています。世界の政財界のリーダーが集まるこの場はメディアにとっても格好の取材の場になっているのです。

左上から時計回り THOMSON REUTERSパビリオン、THOMSON REUTERSハウス、THE WALL STREET JOURNAL

「国のIR」としての機能

このような動きは企業だけではありません。18年は各国政府がつくるナショナルハウスが例年以上に並んでいました。通りを挟んでロシアハウスとウクライナハウスが向かい合い、G20の議長国のアルゼンチンハウスもありました。ASEANの盟主インドネシアも経済団体がメインとなってハウスを設置していました。大規模な経済代表団を送り込んだサウジアラビアもオフィスを設置していました。インドの経済団体がつくるラウンジは毎年恒例です。

各国のハウスでは国の戦略をシンポジウムなどで発信したり、食や文化を紹介したりしていました。この他、ビジネスマッチングや食事会など、さまざまなプログラムが4日間の会期に合わせて朝から夜まで行われます。この様子からもダボスに来る世界有数のパートナー企業が自国に投資を呼び込むことを重視していることが分かります。

ナショナルハウスのような大規模なものができない国は、夜に自国を紹介するパーティーをしたり、ラッピングバスを走らせたり、屋外看板を出したりしています。

左上から時計回り 各国のナショナルハウス インド(看板)、アルゼンチン、ウクライナ、ロシア+ウクライナ

日本の取り組みは?

これだけいろいろな国がイベントを行っているとなると、日本が何をしているのか気になるところです。実は、日本も毎年、「ジャパンナイト」というイベントを行っています。

ダボス会議に参加する民間企業など25社余りで構成される「ジャパンナイト実行委員会」と、農林水産省や全国農業協同組合連合会、JETRO、福島県、広島県などの協力のもとに開催されています。

世界遺産である和食と世界で評判の高い日本酒、日本のワインやビールなどが紹介されています。この体験を通して、日本全体の豊かさ、キメ細やかさ、こだわりなどの価値もうまく訴求することに成功しています。このイベントは別名「スシナイト」とも呼ばれ、世界中のエグゼクティブから「絶対に行きたいイベント」といわれているほどの人気を博しています。

ジャパンナイトの様子

ますます重要性が増す「発信力」

19年以降はどうすべきでしょうか。19年の年次総会に向けて各国、各企業の場所取りはすでに始まっています。場所取りが重要になるのは、発信力に影響を及ぼすからに他なりません。

昨今では、日本の発信力の低下を「ジャパンナッシング」「ジャパンミッシング」とやゆする声もあります。しかしながら、19年に日本ではG20やラグビー・ワールドカップ、第7回アフリカ開発会議(TICAD)、そして20年にはオリンピック・パラリンピックが行われます。このダボスの場でも日本への関心が高まっていくに違いありません。この場で日本が何を世界に向けてプレゼンテーションすべきかが非常に重要になってきます。

それも一方的な押し付けではなく、外国人から見て魅力のある日本とは何か、という視点も大事です。ダボスですから「広く大衆に」ではなく、ビジネスに結び付くようなコンテンツにするのも手ですし、課題先進国である日本の経験を世界に共有することや、日本が誇る技術力もコンテンツになり得るでしょう。

今年、「第四次産業革命日本センター」が日本に誕生

世界経済フォーラムを知る上で重要なキーワードは、「第四次産業革命」です。17年3月に世界経済フォーラムが五つ目の拠点としてサンフランシスコのベイエリアに「第四次産業革命センター」をオープンさせました。技術革新を推進し、その世界規模の影響力に対して国や企業の迅速な対応を促すために、官民連携の世界的な拠点として設立されたものです。

10個の重要テーマ別(人工知能、IoT、ブロックチェーン、自動運転、ドローン民生利用、データ政策、越境データフロー、精密医療、地球環境、ものづくり)にプロジェクトチームを立ち上げて、研究や政策提言の取りまとめをすることが目的とされています。世界有数のIT企業などを中心に誰もが耳にしたことのある35社が既にパートナー企業として参画しています。

18年に日本でも新たな動きが始まります。この第四次産業革命の動きをグローバルに加速していくために世界各地で発足予定の姉妹組織の初めての拠点が東京につくられます。このことが、ダボス会議の初日の1月23日に発表されました。

©World Economic Forum 第四次産業革命センター日本センター設立発表記者会見

7月に開設される予定の日本センターは、世界経済フォーラム、経済産業省、独立系シンクタンクのアジア・パシフィック・イニシアティブの三者による新しい形の官民パートナーシップで設立されます。この新たな官民パートナーシップは、民が主体となって運営し、官もサポートするというもので、賛同企業や機関が協力しながら運営していくところに、その特徴があります。

経済産業省は、プロジェクト単位で一時的に法規制を緩和し「まずやってみる」ことを許容する「サンドボックス」制度を創設し、実証事業や調査研究の創出、成果の提供などで協力するとしています。

このセンターの目的は、①革新的なプロジェクトの推進②グローバルな産学官パートナーシップの構築③技術と制度の差、各国間の制度の差である「ガバナンスギャップ」の克服です。

東京都内に開設予定の日本センターは、法制度や行政のあり方に関心を持つ関係者が自然と集い、イノベーションが興る空間にしたい、とのことで準備が進められています。

日本センターの重点テーマ

サンフランシスコセンターは10個のテーマで動いていますが、日本センターは、その中でも特に日本が強い、例えば「ヘルスケア」「モビリティ(自動走行・MaaS、ドローンの活用)」「ものづくり」「イノベーションを推進するための法規制の在り方」などのテーマに注力していくそうです。

経済産業省の第四次産業革命政策室の佐々木啓介室長は「ひとつでも日本発のプロジェクトやコンセプトを世界に向けて提案したい」と語ります。7月の開設に向けて、企業の参画や専任のスタッフが必要とされています。日本から世界に向けてイノベーションを興せるチャンスです。

とかく要人の参加で話題になるダボス会議ですが、会議以外にもいろいろな動きがあるので、皆さんにも関われるチャンスが訪れるかもしれません。