Uターン予備軍を動かせ!No.1
Uターン移住者調査結果から見えてきたヒント
2018/04/25
人口減少と、東京一極集中の実態
皆さんは、人口減少の深刻さをどこまでご存じでしょうか?
国交省によると、日本の人口減少は2008年から始まりましたが、このままの出生率では2050年には人口が9700万人になると推計されていて、2100年には5200万人と半減、そしてさらに200年たつと1400万人、300年で400万人と、日本は国家として消滅の危機にさらされてしまうのです。中でも地方での人口減少がまず加速し、2050年には、人が居住している地域の6割で人口が半分以下となり、さらにその3分の1の地域には人が住まなくなると推計されています。これが「地方消滅」と言われるものです。
地方での人口減少の中で、今最大の問題になっているのは、人口の東京一極集中です。国は早期からこの解消を目指して対策を講じていますが、地方から東京圏(1都3県)への人の流れはなかなか止まりません。また、全国1700余りの自治体のうち、「大阪市、名古屋市、仙台市、札幌市、福岡市」をはじめとした64自治体からの人の流れが、東京圏への転入超過増分の50%を占めていることが明らかになりました(図1)。
地域の中核的な都市は、東京圏への人口流出のダム機能を果たすことが期待されているのに、近くの地域から人を集め、東京圏に人を送り出すポンプの役割を果たしていたのです。そして東京は地方からの人口をのみ込み、その圧倒的な出生率の低さから人口減少を進めている、ブラックホールと言えるでしょう。
東京一極集中のカンフル剤 「Uターン」の実態調査を初めて実施
このような東京一極集中を解消するには「Uターン移住」の促進が有効ではないか? という考えから、電通地方創生室では、昨年11月、Uターン者の実態を定量的に把握するために、全国1700人余りの実際にUターンした人を対象にした調査を実施しました。
調査方法 : webによる定量調査
調査対象 : 20~60代男女 全国の実際のUターン移住者 1714名
※ 転勤など外部要因は除外/1都3県から東京流出 上位64団体へのUターン
調査時期 : 2017年10月19日~11月6日
Uターン者の実態は「平均37歳。独身者」
調査前の仮説としては、典型的なUターン者のイメージは、「シニア夫婦」で、「もともと就職で上京し、定年間近の故郷に対する気持ちが高まってくる時期。折しも子供は独立し、夫婦は身軽になっている。戻る人が多いのは南の地方が多く、スローライフを期待してUターンに至る」といったものでした(図2)。
しかし実際に調査をしてみますと、これは大きな誤りでした。
◍シニア夫婦ではなく「平均37歳。独身者」。
◍就職ではなく「学校入学」で上京。
◍定年間近ではなく「バリバリの働き盛り」。
◍望郷の念よりも「東京生活へのストレス」がきっかけ。
◍子供が独立ではなくまだ「両親の家近くに住む」ことを望むステージ。
◍南国よりも「北国」。
◍スローライフを求めてではなく、「会社員が別の企業に転職する」。
「東京への憧れから、上京した人が、東京生活も一段落し、新鮮さも薄れていく中で、首都圏はずっと住める場所ではないという思いに至る」「東京のせわしない生活や人間関係にストレスがたまっていく中で、両親の近くに戻る選択をする」という訳です(図3)。
Uターンに対する最大の障壁は「仕事とお金」
また、Uターンまでの最大の障壁が、「仕事とお金」のことであることも分かりました。これは検討期だけでなく、思い立った時から、Uターンした後の現在に至るまで、もう後戻りできないと不安材料となっていたのです(図4)。
さらに、将来の地方創生の担い手といえば、人口増が期待できる「若年層」。20~35歳の若年層を見てみますと、
◍より強い東京への憧れと、より強いふるさとへの不満を感じて上京。
◍より東京生活に対するストレスが強く、両親の方が心配し、自分も両親の近くに住みたくなり、それに反比例するかのように郷土愛が高まってくる。
◍Uターンに関して、仕事や金のことへの悩みが深く、しかも移住のための情報が不足。
という、より悩みの深い実情が見えてきました。
でもUターンした人は幸せに!?
このようにUターンには悩みがつきものなのですが、今回の調査の最大の発見だったのが、若年層も含め、Uターンを成し遂げ、地元に戻った人たちは、以前より生活満足度が向上しているということでした(図5)。
この図は「生活満足度を10段階で評価した10~8というかなり満足度の高い人の割合」を、Uターン後までの時系列で示しています。棒グラフが全体、赤線グラフが若年層です。
上京時は、東京への憧れがかなえられ、4割以上の人が高い満足を示しています。が、東京にいる間に、東京生活でのストレスから満足度は急激に低下。しかし、それでもUターン後は上京した時以上に生活満足度は高くなっていることを示しています。
つまり、東京生活でのストレスからか、親の近く、懐かしいふるさとでの生活を求めてUターンしており、やや挫折気味のUターンとも思えるのですが、現在は多くの人がストレスから解放され、懐かしいふるさとでの生活によって、憧れの東京に来た時よりも「幸せ」になっていたのです。
今はまださまざまな理由でUターンを思いとどまっている人が大勢います。でも既にUターンした人たちは「幸せ」になっている。 このことに、今まだためらっているUターン潜在層を活性化させるチャンスがあると考えています。
Uターン予備軍を活性化させていくための三つのヒント
この調査結果とこの調査前に電通九州が実施したグループインタビューなどを見ると、このUターン潜在層の活性化のためには、三つの事が必要であることが示唆されます。
1.現在は自分の思い込みも、周りの見え方も、ややネガティブな
若年層Uターンに対するイメージを変え、Uターンを活性化させる
ための環境を整えること。
2.Uターンを意識する時、場合においての「Uターン後の生活を
イメージする」機会を増やし、気付きを与えること。
3.そして、いざUターンを思い立った時には、最大の障壁となる
「仕事」の情報を得やすくすること。
さまざまな移住のタイプの中でも、ふるさととの関係性という強みを持ち、地方創生に向けてのカンフル剤になり得るUターン。潜在層はまだまだいます。でもこのままではその多くの人はUターンに至らないでしょう。総務省の調査でも3人に1人は移住希望がありながら、移住予定があるという人は1%台にとどまっています。
この希望と現実のギャップをどうやったら埋めることができるのでしょう?
各自治体もさまざまな促進策を実施していますが、効果をなかなか上げられないのはなぜでしょう?
これから3回の連載では、この第1回のUターン実態調査結果を踏まえ、第2回Uターンを加速するために今の若者の価値観の変化を見ていきます。そして第3回でわれわれの考えるUターン潜在層を活性化させるためのヒント(施策アイデア)を示していきたいと思います。