【続】ろーかる・ぐるぐるNo.132
商品開発がうまく行かない原因は、結局ふたつしかない
2018/05/24
拙著『コンセプトのつくり方』について、その内容を皆さまに説明していく中で気が付いたことがあります。それは「事業や商品の開発がうまくいかない原因は、結局二つしかない」ということ。今日はそのことに絞ってお話しします。
ひとつ目の原因は「正しく考えようとして、ヒトとモノ・コトをつなぐ新しい結びつきが発見できない」ということです。
「若者向けに新たな化粧品事業を立ち上げましょう」
「子供が巣立ったシニア層向けにリフォーム商品を考えなさい」
何か事業や商品開発のテーマを与えられたとき、考えるべきはただ一点、「『ヒト』と『モノ・コト』をつなぐ新しい結び付きが何であるか?」ということだけです。
例えば長らくコーヒースタンドは「手軽に気分転換をしたいヒト」と「格安なコーヒー」の結びつきで成り立ってきました。そこにスターバックスは「街中に居場所がないヒト」と「サードプレース」(くつろぎ)という新しい結び付きを発見しました。
事業や商品を開発することはつまり、生活者との間に新しい関係を築くことに他なりません。
そして新しい結び付きがなかなか見つからない理由は、しばしば「思考法」にあります。皆さん、ビジネスとなると突然マジメに、正しく、論理的に考えようとしがちですが、そこに落とし穴があるのです。たとえばマーケティングの教科書には「プロダクトアウト」と「マーケットイン」というふたつのアプローチが紹介されています。しかし企業の意思や技術から一方的に開発を進めるだけでは、うまく行くわけがありません。
同様に自社の強みや弱みを考えず市場のニーズからのみ正しく、直線的に考えたところで、やっぱり難しいでしょう。必要なのは「その手があったか!」が見つかるまで、「ヒト」と「モノ・コト」の間を行ったり来たりを繰り返しながらホンネを探る思考法です。
広告会社には伝統的にクリエーティブテストと呼ばれるトレーニングがあります。例えば「万年筆がもっと使われるようにするには、どうしたらよいのでしょう?」とか「銭湯の利用者を増やすアイデアを考えてください」とか、そういった類のものです。ぼくは新入社員時代、このテストの意図が理解できなかったのですが、実はこういった「正解のない問題」と取り組むことによって「ヒト」と「モノ・コト」の間を行ったり来たりしながらホンネで考える技術が身に付きます。
たとえば万年筆はいま「成功しているおじさん」と「自らをエラソーに魅せる道具」という結び付きで市場をつくっているのかもしれません。それを「小学生が使ったら?」「ちゃんと使わないと字が書けないという機能を打ち出すと?」「字をうまく書きたいひとって誰だろう?」などと次々に視点をずらしながら「ヒト」と「モノ・コト」の間を往復するのです。
しかしこういった方法論を身に付けていないと、ついつい予算を掛けて手に入れた「新技術」や「調査結果」だけを頼りに、正しく考えてしまいます。以上が、商品開発がうまくいかないひとつめの原因。
もうひとつの原因は「開発チームに与えられる『お題』の質が悪い」ことです。言い換えると「ビジョンの指し示す方向が曖昧なので、開発チームは何をすべきで、何をすべきではないか、判断がつかない」ということです。
あらゆる企業は単なる金もうけを越えた基本的価値観と目的意識(=ビジョン)を持っているハズです。
経営トップは「こういう価値観で世の中に貢献しようよ」と社員に指し示す責任があります。しかし(肌感覚ですが)たとえば全国にある食品企業の8割が「おいしく、健康に」みたいなことを「企業ビジョン」として設定しています。それは決して間違いではないのでしょうが、超大手から零細企業まで同じ方向を向いて戦ったら、規模が大きいところが勝つに決まっています。
自らビジョンを示す責任を放棄して、「自由にやって良いよって言っても、うちの開発陣は何も作れないんだよなぁ…」なんてとんちんかんな愚痴をこぼす経営者が、なんと多いことでしょう。
事業・商品開発がうまくいかない原因は、ビジョンが曖昧なことに端を発する「設問」の問題(=十字フレームで言うコミュニケーション軸)と、正しく考える方法論しか知らないという「解き方」の問題(=マネジメント軸)に集約されると考えます。皆さんはどう思いますか?
ふーっ。
ガラにもなくマジメに語って喉が渇きました。こんな夜はプルプルの豚足でビールを乾杯!
どうぞ、召し上がれ!