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デジタルは、広告に起こった最も素晴らしいできごと

スタンフォードで広告会社の未来を考える №5

  • 四之宮 壮平

2018/06/22

デジタルは、広告に起こった最も素晴らしいできごと

皆さんこんにちは。

今回は最終回なので、総括としてこれまでのスタンフォードでの学びを通じて「広告」について考えてみたいと思います。

多くの貴重な学びをくれたスタンフォード。このネットワークを生かして、これからも新しい気付きや視点を獲得し、皆さまにシェアしていければと思います。
多くの貴重な学びをくれたスタンフォード。このネットワークを生かして、これからも新しい気付きや視点を獲得し、皆さまにシェアしていければと思います。

広告は、インターネットに必要不可欠な存在

シリコンバレーおよびスタンフォードの人たちは広告というものをどう捉えているのか。テックやメディア、広告に関わる業界人たちと接する中で、彼らの共通見解は上記の言葉に凝縮されていると感じます。「実質的な、コンテンツおよびフリーミアムサービスの対価である」「ウェブを生かし続けるための酸素のようなもの」。人によって表現はさまざまです。事実GoogleとFacebookという世界を代表する2社の収益の大半は広告事業によるもの。この2社に限らず世界中のインターネット企業が広告収入の恩恵を受けています。

改めて考えると、広告とは実に影響力があるビジネスなのです。「広告というマネタイズシステムをどのように進化させるか?」という課題には大きな価値があり、世界は新しい仕組みの登場を待っています。その進化の可能性を研究し、実験を続けることは広告会社の使命といえるのではないでしょうか。

デジタルは、広告が進化する最高のキッカケをくれた

スタンフォードには広告をテーマに教える「Advertising and monetization」という講義があります。そこにゲストスピーカーとして登壇したのが、アメリカの広告業界で活躍し、電通イージス・ネットワークのCaratグループを経て、現在はサンフランシスコを中心に、自らの会社でCEOやCMOらトップマネジメント向けコミュニケーションコンサルを提供するジョン・デュラム氏。4マス隆盛期を中心に活躍し、業界の酸いも甘いも知り尽くした大ベテランから出た言葉で特に印象的だったのが、下記の内容です。

「デジタルは、広告に起こった最も素晴らしい出来事だと思います。われわれはデジタルのおかげで、ようやく、消費者一人一人を理解し、カスタマイズされた情報を届け、しかもその効果を測ることが可能となった。これは、我々の業界が育んできたクリエーティビティーを生かす上で本来理想的な環境であり、こんなに喜ばしいことはない」

広告主の先にいるのは、一人一人の消費者。消費者に喜んでもらうことこそが、広告主の事業目的であると考えると、デジタル化の先に「人を幸せにするコミュニケーション」という未来の広告の姿が浮かんできます。

そして効果が測れるということは、仮に失敗があってもそこから学び、改善ができるということ。前回までのコラムでも見てきたように、挑戦~失敗~学習のサイクルは、イノベーションへとつながる道です。広告は、イノベーションに至るためのツールを手にしたのです。

しかしその一方で、デジタルがもたらす負の側面もあります。Fraud=詐欺、Privacy=個人情報漏えい、Viewability=視認性を伴わない広告掲出、こういった新たな問題も抱えるようになりました。「信頼が損なわれると、市場は縮小する」。経済学が唱えるように、デジタル化された新しい市場のさらなる成長のためには信頼の担保が必要です。信頼とはすなわちブランド。それを築いていくことがより一層重要になってくるでしょう。

良いコミュニケーションの本質は、人への理解

先日、広告業界出身で現在はスタンフォードでマーケティングを教えているスージー・ファン教授と話していた時のこと。「あらゆるビジネスの本質は、人の欲求を理解することにある。そして人に対する、共感を伴う深い洞察こそが、広告会社の価値なのではないだろうか」という会話がありました。

これは、第3回のコラムでお伝えしたアントレプレナーシップの、成功するビジネスの再現性を高める重要ポイントのひとつでもあります。スタンフォード発の、世界で熱い視線を浴びるデザイン・シンキングというビジネスアイデア発想手法は、まさに「人に対する、共感を伴う深い洞察」を中核としているからこそ、未来の起業家たちに教えられているのです。

ビジネススクールでは、学生を大ざっぱに2種類に分けるときによく「Quants(クォンツ)&Poets(ポエッツ)」という言葉を使います。前者は、定量的・論理的・サイエンス。後者は、定性的・直観的・アート。いわば理系と文系というニュアンスに近いかもしれません。経営領域は戦略的思考をベースとし、最後は数字で語らなければならないので、Quantsが重視される傾向にあります。実際、ビジネススクールの学生の出身業界を見るとファイナンスやコンサル出身者の比重が高い。対してマーケティングや広告の出身者はまだ少数派といえるでしょう。

これはビジネススクールにおいてデザイン・シンキングのようなマーケティング領域に近い方法論が注目を集めていることと無縁ではないと感じます。われわれが業界の中にいると当たり前に思うようなことも、一歩外の世界に出ると大きな価値を持つのです。スタートアップ企業をはじめ、マーケティングや広告に比較的なじみがなかった領域にこそ、成長チャンスが無限にあるのかもしれません。

私が所属するMSXプログラム104人のクラスメートの中で、広告バックグラウンドは私1人のみ。世界の舞台では日本人の広告業出身者は希少で、異業種からなるチームで大きな相乗効果が生まれうるかもしれません。(著者、広告についてプレゼン中)
私が所属するMSXプログラム104人のクラスメートの中で、広告バックグラウンドは私1人のみ。世界の舞台では日本人の広告業出身者は希少で、異業種からなるチームで大きな相乗効果が生まれうるかもしれません。(著者、広告についてプレゼン中)

成熟したものが、変わるために必要なものとは

ビジネススクールではケーススタディーを重用します。ビジネスケースとは、いわばその会社の人生。この1年間、多様な会社の人生を見せてもらいましたが、個々さまざまな違いがある一方、共通することもあります。それはあらゆる会社が、「生まれ=Startup」「育ち=Scale」「成熟し=Mature」、いずれは老いるということです。

例えば、1901年に創業した電通も117年前はStartupでした。通信事業から広告事業へとビジネスモデルの転換を経て、マスメディアの黎明期にリスクを取って挑戦し、国内そして海外へと拡大し、今があります。

新しいモノを生み出すアントレプレナーシップが注目を集めもてはやされることは自然です。しかし、成熟し大きくなった組織はどうなっていくのでしょう。老兵は去るのみなのでしょうか、それとも、再び新しい成長のサイクルへと、自らを生まれ変わらせることができるのでしょうか。

電通と親交の深い、マーケティング、ブランド論の大家であるデービッド・アーカー氏。彼の娘であるジェニファー・アーカー教授はスタンフォードビジネススクールでマーケティングを教えています。彼女が行っているマーケティングおよび経営分野における新しい試みのひとつが、個人および組織の働く目的を問い直す「Rethinking Purpose」という人気講義です。講義のゲストスピーカーとして登壇したデービッド・アーカー氏が、組織が己と向き合い「自分にとって何が最も大切なのか?」という目的を見直すことの重要性を語っていました。

「なぜ私は働くのか? そこが明確な人は強い。そして、社員たちが心から共感できる目的を持つ組織は強い。組織の目的を、社会に対する付加価値という高い次元で捉え、社員が共感できるものにすること。全ての活動をその目的達成に対して一貫させること。そしてそのような組織の生きざまを、唯一無二のストーリーとして、働く社員および社会に対して語っていくこと」

これまで目的としていたことを見直す。必要ならば新しい目的を創り出す。これは組織が変革するために必要なことなのです。しかしそのためには、顧客、消費者、社員、投資家、および関わるすべての人々と真摯にコミュニケートすることが欠かせません。人と人が対等に、「生き方」のレベルで深く向き合う。そのような根本的な姿勢こそが、組織のイノベーションには欠かせないのだと強く感じました。

デービッド・アーカー氏と。(UCバークレー大学ビジネススクール、Haas school of business名誉教授)
デービッド・アーカー氏と。(UCバークレー大学ビジネススクール、Haas school of business名誉教授)