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「盛る」カルチャーと新しい広告のかたち

『シェアしたがる心理』のシェアしたくなる話 №5

  • 崔  智安
  • 天野 彬

2018/06/22

「盛る」カルチャーと新しい広告のかたち

昨年10月、電通メディアイノベーションラボの天野彬氏の著作『シェアしたがる心理―SNSの情報環境を読み解く7つの視点―』(発行:宣伝会議)が発売されました。

同書で展開した議論を深掘りするべく、これまで3人のゲストと対談をしてきましたが、シリーズの最終回となる今回は、人気アプリ「SNOW」を手掛けるSNOW Corporation 日本統括の崔智安氏を迎え、「盛る」カルチャーが写真や動画を使ったコミュニケーションにどのような影響を与えているのか、ひいてはそれが広告にどんな新しい風を運び込むのか、その今とこれからについて考察していきます。

左から天野彬氏(電通メディアイノベーションラボ)、崔智安氏(Snow Corporation 日本統括)
左から天野彬氏(電通メディアイノベーションラボ)、崔智安氏(Snow Corporation 日本統括)

日本の「盛る」カルチャーの特徴とは!?

天野:この対談のキーワード「盛る」に、まず定義を与えておきましょう。オリジナルの意味は、文字通り「髪を盛る」などかつてのギャル文化に顕著な「外見を派手に見せる」ことでしたが、今ではそこから転じて自分の容姿を良く見せること一般を指す言葉になりました。

良い角度で映った写真に、「盛れてる!」というのはまさにそういった意味ですね。そのような「盛る」の用法を大きくけん引しているのが、SNOWだと僕は考えています。

誰もが手軽にセルフィーを、ひいては「デジタル上の自分」を盛ることができる時代を切り開き、その結果として若年層にとって写真や動画を「盛る」ことをカルチャーにまで昇華したと思います。崔さんは、このような動向をどのように捉えていますか?

崔:SNOWは、2015年9月に韓国でローンチして、11月からグローバル展開しました。日本では約半年で無料アプリの総合ランキング1位を獲得、1年後には世界で8000万ダウンロードを突破しました。SNOWの登場で、写真や動画を「盛る」という概念が一般的になったと思います。

これまでも「盛れる」サービスはありましたが、SNOWがこれほど多くの方に支持されたのは、技術的には顔認証の精度の高さだと思います。撮影時のレスポンスが早くて、瞬時に盛れる。あと、いろいろなスタンプが選べることですね。

天野:流行するウェブ・アプリサービスは、機能として優れていることはもちろん、ユーザーの価値観や行動、そしてその集積として文化にまで影響を与える要素があると考えています。

例えば、Googleなら「ググる」という言葉が生まれたり、Twitterの登場で「つぶやく」ことが一般化したり。その意味で、SNOWは、「盛る」ということをカルチャーとして普及させたわけですね。

盛ることに慣れている若いユーザーと、そうでないユーザーの間では、デジタルコミュニケーション一般におけるメンタリティーも異なるとさえいえそうです。

崔:そうですね。国によっても、憧れる顔というのは微妙に違うと感じます。韓国人女性は、髪がロングストレートでシャープな感じのキレイな顔に憧れますが、日本は、もう少し丸みのあるカワイイ顔が人気です。なのでSNOWは、日本と韓国でコンテンツを使い分けたり、ローカライズしたりすることにすごく気を配っています。

天野:著書でも欧米的な盛れる顔を志向した機能を提供するSnapchatと、アジア的な盛れる顔を志向した機能を提供するSNOWとの区別に触れましたが、さらにその中でも韓国と日本での差異など、細かなニュアンスを把握されているわけですね。

崔:他にも日本人は「ウケる」ことも重要視しています。変顔とか。カワイイ人ほど変顔したりしますよね。

天野:確かにちょっと変な顔になる加工が好きな人はたくさんいますね! おそらく照れ隠しとか、自分をちょっと下げてみる婉曲的な感じとか、そういう文化も関係しているように思います。

また最近は顔だけでなく声が変わる動画もあるのが面白いと思っていて、それを使っているユーザーは本当の自分とは違う何かになりきって、普段はやれないことや言えないことを発信して面白がっている気がします。

「盛る」テクノロジーによって、自分自身を拡張して遊ぶ感覚がそこには見え隠れしているかのようです。

ちなみに、SNOW利用者の男女比はどれくらいですか?

崔:男性が3で女性が7です。男性が意外と多いなと感じるかもしれませんが、今の10~20代男子は、中性的なカワイイ感じの顔が人気で、そういう顔になりたいと思っている子が多いです。だから顔を盛ることに抵抗はないし、自撮りの写真をSNSにどんどん投稿して自己表現をしていくのが当たり前になっています。

天野:盛って自撮りをしてシェアする文化は、やはり若い世代から醸成されているのですね!

「盛る」時代の使ってもらえる広告論

天野:アプリを使って盛ったものをみんなでシェアする場に、企業のコミュニケーションが重なり合っていくようになったのが、ここ数年の新しいトピックだと思います。

例えば動画フィルターを使うと"ブランドのキャラクターが顔にマスクされる"といった機能も今では一般化してきました。僕はこうしたブランドとユーザーとの間の新しい接点に注目しており、これこそが例えばLINEのスタンプのような「使ってもらえる広告」の、ビジュアルコミュニケーション時代ならではのアップデートだと思っているんです。SNOWではどのような施策を行っていますか?

崔智安氏(Snow Corporation 日本統括)

崔:これまでの広告は、企業側から一方的に情報を流して、ユーザーにどうぞ見てくださいというのが一般的だったと思いますが、近ごろは広告に対する消費者のリテラシーがすごく高くなっています。

SNS時代においては、ユーザーがブランドや商品を理解し、自分なりの表現で、自分がメディアとなって発信するのが、最も説得力のある広まり方だと考えています。昔から口コミやバイラルはあったのですが、そのための便利ツールとしてSNSが登場したので、バイラルのスピードや引き込まれ方が速くなりました。

SNOWを広告媒体に選ばれる企業からは、自社ブランドのスタンプをつくってほしいという要望が一番多いです。ロゴやキャラクター、商品を露出したスタンプをユーザーに使ってもらうことで、コミュニケーションを取りたいと考えていて、これまでに数十社とタイアップしました。

ただ、SNOWを媒体にする場合、今までの広告と同じようには考えられないと思います。SNOWは見るものではなく、スタンプで自分のオリジナルの表現をして、それをみんなでシェアするものだからです。

われわれとしても見てもらうのではなく、やってもらうことが大前提なので、ブランドや商品のイメージを残しつつ、かなり面白いものをつくらなければいけないというハードルの高さを感じています。

天野:口コミというのは、考えてみれば昔からあったわけです。本当に良いものは伝えたくなる、好きなものをシェアしたくなるのは普遍的なことですから。では今、何が重要なのかといえば、それが今の時代はメッセージ的に1 to 1で伝えるのか、ソーシャル的に1 to Nで伝えるのかなど、広げ方も多様化し、そして細かな単位で頻繁にシェアされるようになってきたことだと思います。

だからこそ、そのきっかけづくりが重要となっています。言い換えれば、企業やブランドが、生活者とこれまでになかった関係性を築いていくチャンスが増えているわけですよね。

崔:そうですね。さまざまな企業にSNOWを利用いただいていますが、ユーザーの反応もよく、多くの方に満足いただいています。

ARで“空間を盛る”時代へ

天野:この分野はテクノロジーの発展も日進月歩ですよね。今後やりたいことを聞かせてください。

崔:最近、SNOWはアウトリンクを搭載しました。これによって、SNOWで撮った写真を企業のブランディングページやキャンペーンページに、そのまま飛ばせるようになりました。撮影→保存→投稿の手間が少なくなることで、企業にとってはコンバーション率が上がり、ユーザーもキャンペーンなどに参加しやすくなります。

天野:コミュニケーションの敷居を下げることは大事ですね。ユーザーはちょっと面倒だとすぐ離脱しちゃいますから…特にスマホユーザーはその傾向が顕著です。これまで以上に、サービス設計の上でステップ数をいかに減らすかが大切になってくると思います。

崔:それから、今年一番のアップデートは、ARスタンプの登場です。SNOWのアウトカメラを通して見ると、実際は何もない空間にバナナが出てきたりして、そこに人がいると、その人がバナナを見ているような動画遊びができます。今後はフロントカメラだけでなく、アウトカメラでの世界もSNOWを通して映し出したいと考えています。

ARスタンプの画像
 ARスタンプの画像

天野:ARスタンプ楽しいです! この機能は、ユーザーにとって、どういう面白さやメリットがありますか?

崔:それはVRに近いことかもしれないし、空間を盛ることかもしれないですね。例えば、子どもとARキャラクターが遊んでいるシーンをパパが撮るとか。思い出の写真をもっと良く写せるようになるとか。

左上は、元画像、その他はARスタンプの画像(空を自動的に認識し、風景を一変させることができる「空フィルター」)
左上は、元画像、その他はARスタンプの画像(空を自動的に認識し、風景を一変させることができる「空フィルター」)

天野:日本のユーザーは、実はスマホのインカメラをあまり使わず、アウトカメラを使う割合が高いというデータを見たことがあります。それを念頭に置いたとき、こうした機能はすごく親和性があるなと感じます。

また著書の中では、これからカメラは「撮る」ものから「見る」ものに拡張されていくというトレンドを指摘しました。

カメラは一般的に考えれば「撮る」ためのものですが、ARの特性は現実空間と情報空間の重層(オーバーレイ)を実現することですから、そのリッチな体験のためにカメラが使われるようなるわけで、それはカメラが「見る」ためのものになる変化を意味します。

SNOWは今までインカメラで自撮りするためのアプリと認識されていたと思いますが、このようなトレンドとも合致するような、そこからの鮮やかな転換だと感じます。

最後に、企業の課題解決という面での展望も聞かせてください。

崔:アイデア次第で、表現できる商材やブランドはもっと広がると思います。例えばARスタンプは、何もない空間にバーチャルの商材を置くこともできます。海外の事例では、高級自動車をARで登場させて、車のオーナーになったような写真が撮れるサービスがあります。最初はそういう単純なものから始まるんじゃないかなと思っています。

他には、現在、全身を認識する技術を開発しているのですが、この技術を使えば、SNOWの中で人気ブランドの新作を着ることも可能です。今までは、店に行って服を探して着るから、時間も労力もすごくかかったけれど、それが瞬時にできるようになる。それも新しいブランドコミュニケーションのやり方だと思います。

天野:サービスの力によって企業とユーザーのコミュニケーションを体験レベルで拡張して規模を広げていくこと―これは間違いないトレンドですね。

崔:なので、やれることはたくさんあると思います。ARにしても、どう活用してどんな表現ができるか、今後の課題ですね。テクノロジーをもっと進化させていけば、できることがどんどん増えてくるのではないでしょうか。

電通メディアイノベーションラボ天野彬氏

天野:ここまでの議論を通じて、セルフィーをおしゃれに盛れるという皆がよく知るSNOWの出発点から、大きく盛ること自体をアップデートしていく可能性を伺えたのがとても印象的でした。

自分をよく見せるだけでなく、場を楽しくするとか空間を楽しくするとか、そういうユーザーにとっての効用がこれから支持されていくサービスの要件でもあると思います。

そしてブランドがそこに乗っかることで、良いコミュニケーションや関係づくりをしていく余地がまだまだあるなと感じることができましたし、私もSNOWユーザーの一人として今後に期待したい気持ちが高まりました。本日は貴重な機会をありがとうございました!

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