【続】ろーかる・ぐるぐるNo.136
コンセプトからすると「どんぐり」を食べたい
2018/07/19
前回もお話ししましたが、冷凍おせちメーカー「銀の森」との商品開発プロジェクト。最初にやったのは、企業が進むべき道を示す「ビジョン」を明確にすることでした。恵那の地で、当たり前のように山や森の恩恵を受けてきた「銀の森」は、「ひとと森が共生する社会」を理想として企業活動を行っていくことになりました。
「さて、山田さん。ぼくたち銀の森だけで商品開発をすると、自分の生活や自分の財布からしか発想できないの。それって結局、自分たちの近所を『面』で抑えようという発想でしょ? でもね、それではこれからの時代、ダメだよね? 日本中、世界中にある『点』を『面』にすることができたら最高じゃない?そんなスイーツをつくってみてよ」
いまから思うと、ちょっと謎めいた渡辺会長の言葉に全てが詰まっていました。全国にある「点」を集めてくる原動力こそ「ひとと森は共生できる」という理想。それを伝え、共感してもらえる商品づくりが求められたのです。
「忙しい毎日に疲れた(都市)生活者に、『森のおすそわけ』を提供しようよ」
プロジェクトの冒頭から、漠然とそんなコンセプトは浮かんでいました。でも、それでユニークな具体策が生まれなければ、ただの「絵に描いた餅」です。
一つ目のポイントは世界観でした。「森のおすそわけ」に近そうな商品をいろいろ見たのですが、共通してファンシーで、カワイくて、メルヘンでした。でも疲れた大人が森に求めるのは、ホントにそんな童話のような世界でしょうか?
こういうことを検証するときに有効なのがアートディレクターの力です。今回は当社の久保田絵美さんに相談し、もっと大人っぽく、洗練されていて神秘的、オシャレな人が贈り物にしたくなるようなデザインを模索しました。
もう一つのポイントは、「森」を実感できる「事実」探し。レシピなのか、食材なのか、とにかくそれを手に入れる努力をしました。
ちょっと話は脇道にそれますが、ぼくの人生で一番お酒を飲んでいた20代も最後の頃、よく遊びに行ったのは新宿大久保界隈。当時、4~5人で楽しめるカムジャタン(豚の背骨とジャガイモを煮込んだ鍋)が3000円弱だったので、みんなでワイワイ飲んでも一人2000円ちょいの世界だったのです。その後、韓流ブームと同時に街の物価が急上昇。最近はすっかりご無沙汰してますが、そこで出合ったのが「どんぐりコンニャク」(韓国名トトリムク)と呼ばれる食材。今回、そのことを思い出して調べてみると、韓国ではどんぐりがメジャーな伝統的健康食材だということが分かりました。
「日本の森で採れたどんぐり粉でクッキーを焼いたらどうなんだろう?」
そんな思い付きを銀の森のパティシエ大谷さんに投げ掛け、試行錯誤を繰り返しました。
そうやって完成したのがパティスリー「GIN NO MORI」のクッキー缶「le peti bois(小さな森)」。どんぐりはもちろん山椒や熊笹、たっぷりの木の実やドライフルーツを使った、ちょっと贅沢な「森のおすそわけ」です(実はこのように缶に隙間なく詰め込むためには、おせち料理をお重に盛り付ける技術が生かされています)。いかがでしょう? 従来の「森のスイーツ」とは違う、ユニークな商品が出来上がったと自負しているのですが。
もし今回「なんでもいいから、面白くて売れる商品をつくってよ」なんて言われたら、心底困ったと思います。
ユニークなビジョンが明確なコンセプトを生み、全ての案はその方針によって取捨選択されました。
「なんか、いいよね」なんて曖昧は許されず、コピーライターも、アートディレクターも、インテリアデザイナーも、パティシエも、銀の森経営陣も、みんな同じ方向を見ることができました。だからこそ、手間とコストを掛けて国産どんぐり粉を使うこともできたのです。
もちろん商品単体で全てを解決することはできません。これからどれだけ豊かな「森のおすそわけ」体験を設計できるのか。まだ始まったばかりの、そのチャレンジについては、また次回。
どうぞ、召し上がれ!