【続】ろーかる・ぐるぐるNo.137
点を面にする「ビジョン」
2018/08/02
岐阜県多治見市が40.7度を記録した翌日、同じ東濃エリアの恵那へ灼熱の日帰り出張をしました。この日は母の84歳、誕生日。前回このコラムでもご紹介したパティスリーGIN NO MORIでお祝いを買いました。
本来は取り分け用サイズのラムレーズンパイですが、あっという間にひとりで完食。若い頃アメリカでアイスクリーム5個にバナナとチョコレートファッジをトッピングした巨大スイーツを平らげた胃袋は、いまだ健在なようです。
さて、冷凍おせちメーカー「銀の森」との商品開発プロジェクト。「ひとと森は共生できる」というビジョンを確定し、忙しい毎日に疲れた生活者に「どんぐりクッキー」を企画したところまでお話ししました。今日はその続きです。
パティスリーGIN NO MORIに並ぶのは、「森のおすそわけ」を実感できる商品。例えば日本の森で採れたどんぐり粉のクッキーもそうですし、クルミがざくざく入ったピーカンパイも、母に贈ったラムレーズンも、すべて森の恵みを意識して設計しました。ところでそんな商品に込めた「思い」をお客様と共有するためには、具体的に何をしたらよいのでしょうか?ぼくたちは大きくふたつの準備を進めました。
一つは「ひとと森との共生」というビジョンを直接、お客様と共有する機会をつくることでした。
銀の森が理想とするのは薄暗く湿気の多い太古の森でも、青森ヒバや秋田杉、木曽檜のような単一樹種による「美林」でもありません。それは深く豊かな雑木林。ある程度人の手も入り、風通しの良い森です。そしてこの森で主役となるのがどんぐりの木。
ひとことで「どんぐり」と言っても国内には22種類あるそうで、クヌギ、ブナ、アカガシ、マテバシイからクリまでを含みます。そんな森を、もっともっと増やしたいのです。
そこで、森に入ってどんぐりを拾い、家に持ち帰って芽吹かせ、2年くらい育てたところで恵那の地に植林し、大きくなったらどんぐりを収穫して食べる。そんな「運動」をスタートさせます。手始めに社内有志メンバーが昨秋から手をつけ、いま苗木を育てているところです。今後は広く生活者の皆さんが、誰でも参加できる仕組みをつくっていきますが、その詳細はまた後日。ともあれ、みんなで「どんぐりの森」を育てることによって、銀の森の理念を広めたいのです。
もう一つがターゲットである「忙しい毎日に疲れた都市生活者」にふさわしいブランドの世界観づくり。「森」をテーマにすると、どうしてもファンシーで子どもっぽくなりがちですが、それとは一線を画す「大人の世界」にしたかったのです。
お店の中央には大きな「銀のどんぐりの木」を配し、特製のどんぐりライトがやわらかな光を放ちます。自分が美味しいと思うものしかつくらない森の料理長「チェス」と、五感と経験を頼りに森の食材をさがしだす副料理長「ナッツ」。架空のパティシエふたりの菓子工房をイメージしました。
自分たちの手で「どんぐりの森」を植える体験と、洗練された「どんぐりの森」に迷い込む体験。この二つがお客様と「ビジョン」を結ぶための仕掛けです。
前回も書きましたが、プロジェクトの当初、会長から「点を面にせよ」という指示がありました。「施設のあるところから半径●キロメートル」という「面」で考えるのではなく、全国に散在しているだろう自分たちが提供する価値に共感してくださるお客様(=点)をいかに集めて来るか、というお題です。
そのためには商品も施策も、まだまだ「思い」を共有するために十分ではありませんが、一歩一歩、確実に進んでまいります。
どうぞ、召し上がれ!