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問題には「ターゲットについて考えろ」なんて書いていないのです

ろーかる・ぐるぐる №138

  • 山田 壮夫

2018/08/16

問題には「ターゲットについて考えろ」なんて書いていないのです

今年も明治学院大学の講義、全15コマを終了しました。きっと学生たちはいま長い、長い夏休みを満喫していることでしょう。そういえばぼくも四半世紀前、そんな時間を利用してバックパッカーをしてたっけ。

貧乏旅行で出合った料理の中で、特に印象深いのはチリの「セビーチェ」。この国は西側がずっと太平洋なので、どこへ行っても海鮮がうまかったのです。

現地で聞いたレシピは「生の白身魚とタマネギ、ニンニクをレモンと塩こしょうでマリネして、イタリアンパセリを混ぜるだけ」だったので、帰国してから何度もチャレンジしましたが、どうにも「あの味」が再現できませんでした。結局、イタリアンパセリより香りの強いコリアンダー(シャンツァイ)が必要だと気付くまで、ずいぶん時間がかかったものです。

久々につくったセビーチェ、キンキンに冷えた白ワインと抜群!

さてさて。ぼくが担当する「経営学特講」は、イノベーションの起こし方について、みんなと考える時間でした。そしてそこでは、広告業界で「クリエーティブテスト」として知られる「正解のない問題」を活用しています。

今年も「もっと万年筆が使われるようにするには、どうしたらよいだろう?」「バンジージャンプが飛びたくなるアイデアを考えてください」「パラリンピックを盛り上げるためには、どうしたらよいでしょう?」といった出題をしました。

大学で講義をするようになって今年で8年目。おのずと学生さんがつまずくポイントも分かってきました。その中の一つに「クリエーティブテストの問題には『ターゲットについて考えろ』なんて書いていないこと」があります。

以前もこのコラムで扱いましたが、この種の正解のない問題で考えるべきはただ一点。「ヒトとモノ・コトの新しい結び付き」を探すことです。学生さんはみんな熱心に予習をしてくるので、たとえば「万年筆」「バンジージャンプ」「パラリンピック」についてはそれなりに調べてきます。しかし問題文中に一言もターゲットについて書いていないからでしょう。「ヒト」についてほとんど関心を払おうとしません。

例えば今年、ある学生さんは頑張って、「バンジージャンプとマグロの最高時速は、ほとんど一緒」というちょっとアヤシゲな情報を仕入れてきました。こういう「モノ・コト」に関する、他の人が気付かない側面を手に入れることはアイデアづくりの可能性を広げます。しかし、それに比べて「ヒト」を考える余裕が十分無かったのか、結局「水泳選手がスピードに慣れる訓練として、バンジージャンプを使う」という提案にとどまってしまいました。

当の学生さん自身もホンネでは「あまりいいアイデアではない」と感じていながら、「モノ・コト」から「ヒト」へ直線的に思考した後、どうやって進めばよいかが分からず、立ち止まってしまったのです。

明治学院大学
明治学院大学
明治学院大学

このケース、せっかく「スピード慣れの訓練としてのバンジージャンプ」に気付いたのであれば、とはいえ「水泳選手はそんなにスピードの恐怖を克服する必要があったっけ?」という疑問から、例えば「F1レーサー」や動体視力が必要な「卓球選手」に思い至るかもしれません。とすると、今度はその「ヒト」の悩みを解決する「モノ・コト」にすべく、バンジーを飛びながら(「5+3=」のような)簡単な数式に答える仕組みを思い付くかもしれません。

その後も繰り返し「ヒト」と「モノ・コト」の間を行ったり、来たり。その手があったか!なアイデアを手にするためには、そんな思考法が必要なのです。

実は広告会社の小さなテストに限らず、「●●飲料の販売を拡大したい」とか「もっとモテたい!」とか、世の中で出合う問題の多くは、その文中から「ターゲット」の気配が消えています。なので、今回のコラムは広告会社を志望する学生さんにはもちろん、広くビジネスパーソンの方々にも読んでいただきたいのですが、いかがだったでしょうか?

さてさて、次回はそんな講義の末に課した「期末試験」のお話です。

どうぞ、召し上がれ!