デジタルソリューションを乗りこなせ! 新規事業開発との向き合い方No.2
プラットフォームビジネスの環境分析は「3C」から「5C」へ
2018/08/21
前回はデジタル時代のマーケターに必要な知見の変遷と、これから必要とされるスキルをご紹介しました。今回は、デジタルサービス、主にプラットフォームビジネスの事業開発やソリューション商品開発の初期ステップで、私が実際に使っている環境分析のフレームワークをご紹介します。
<目次>
▼プラットフォームビジネスを見極めるには「3C」では足りない!
▼CollaboratorとControllerを加えて「5C」へ
▼「5C」を応用して、ビジネス環境を俯瞰的・立体的に捉える
▼大切なことは、フレームを活用し、考え続けること
プラットフォームビジネスを見極めるには「3C」では足りない!
ご存じの方も多いと思いますが、環境分析の有名なフレームワークの一つに、「3C分析」があります。これはCustomer(市場・顧客)・Competitor(競合)・Company(自社)の三つの主要プレーヤーの状況分析を通じて、ビジネスのKSF(Key Success Factor=成功要因)を見いだし、自社の戦略を決定するためのものです。
3Cについて詳しく解説する書籍や情報はたくさんあるので、詳細は割愛しますが、ビジネスモデルがシンプルでステークホルダーが少ない場合には有効なフレームワークです。
しかし、今デジタルで展開されているプラットフォームビジネスを分析すると、3Cに分類できないプレーヤーが多数出てきます。
プラットフォームビジネスとは、簡単にいうと、供給側と需要側の双方が取引する場を提供することで収益を上げるビジネスのこと。
例えば、iTunes StoreやKindleストアなどは楽曲提供元や出版元とユーザーをつなぐ場をつくっています。その他、メルカリやココナラのように個人間で取引をするものも。また、自社サービスも提供しつつ他社コンテンツを引き入れている携帯キャリアも、広義的にはプラットフォームビジネスといえるでしょう。具体的には、次のようなプレーヤーが生まれています。
コンテンツ提供者:プラットフォーム上でコンテンツ・サービスを提供し、プラットフォームに価値を生むプレーヤー
(例)App Storeのアプリ、LINEスタンプ、YouTubeの動画
サービス提供者:配信プラットフォームの「場」となるサービス自体を提供するプレーヤー。すなわちプラットフォーマー
(例)iTunes Store、Kindleストア、Yahoo!ショッピング
インフラ提供者:プラットフォームのさらに下層で基盤となるOSやサーバーなどのインフラを提供するプレーヤー
(例)Amazon Web Services、Android OS、iOS
パートナー(サポーター):コンテンツ提供者へのアドバイスや専門の事業支援を行うプレーヤー
(例)各種代理店や認定コンサルタント、CtoCでの運用代行サービス
私が自社プラットフォームサービスの開発責任者だった頃、OSの提供者やサーバー事業者など“インフラ部分のルール”を握っているプレーヤーとの調整に、想像以上に多くの時間を費やしていました。3Cに必ずしも含まれない、新たに生まれたプレーヤーが関わる場面がたくさんあったのです。
コンテンツ提供者はもちろん、サービス提供者(プラットフォーマー)も、自分たちの置かれている市況を正しく理解する必要があります。インフラ基盤の特性や動向を見極めることがサービスの運営全体に影響を及ぼすからです。
CollaboratorとControllerを加えて「5C」へ
3Cに新たな要素を加えるフレームワークの例は多々あります。「市場」に前述した新たなプレーヤーを加えるやり方や、「Contextまたは Climate」(社会背景または気候)と「Collaborator」(協力者)を加えるやり方、「Customer's Customer」(顧客の顧客)と「Customer's Competitor」(顧客の競合者)、「Community」(地域や所属グループ関係)を加えるやり方などを聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。
私はプラットフォームビジネスに関わる参画事業者と階層の整理をするために、次の二つのプレーヤーをフレームに加え、「5C」にしています。
Collaborator(協力者):参画事業者や提携先などのプレーヤー
Controller(管理者):サービス提供者(プラットフォーマー)の他、プラットフォームを支えるOSやサーバーなど、場を提供するプレーヤー
図にすると「5C」は下記のような構造を持っています。
「協力者」には、プラットフォームの価値を生み出しているコンテンツ提供者の他、コンテンツ提供者の動きをサポートするプレーヤーも含まれます。「管理者」にはサービス提供者やインフラ提供者が当てはまります。
「5C」を応用して、ビジネス環境を俯瞰的・立体的に捉える
複層性や階層性があるプラットフォームビジネスは、5Cフレームを応用することで、各プレーヤーを俯瞰的・立体的に捉えることができます。
複層性があるのは、同じ階層に存在する複数のプラットフォームに、自社が同時に所属するケースです。例えば、「iOS・Android双方のOSに対応したアプリサービスを開発・販売している」といったケース。他にも「流通プラットフォームA・流通プラットフォームBの双方で自社のアパレル商品を販売する」というケースも該当します。
各プラットフォームの間でも熾烈な競争が繰り広げられているため、新規参入する事業者は、市況を正しく見極め、「どのプラットフォーム上で事業を展開することが望ましいか」という分析を絶えず行わなければなりません。
5Cを応用し、日本国内最大級のコミュニケーションアプリであるLINEを中心に据えてスマートフォン市場を見てみましょう。
この図を上から順に見ていくと、LINEは、LINE内でスタンプを売りたいクリエーターにとってはController(管理者)であることが分かります。一方で、下の階層を見ると、LINEはAPI(※)連携先と多数の協力関係を築きながら、他のコミュニケーションアプリとユーザーを取り合っていることが見て取れます。さらに下の階層では、スマートフォンOSの流通プラットフォーム上で主要アプリストアの規定に沿ってアプリを提供する一つのプレーヤーであることが分かります。
※API(Application Programming Interface)は、ソフトウエアの機能を公開し、他のソフトウエアと機能を共有できるようにする仕組み
5Cでプラットフォームビジネスを分析する際は、自社が所属するレイヤーの前後がどのような構造になっているのか、事業環境を考えることが有用です。
大切なことは、フレームを活用し、考え続けること
おさらいになりますが、プラットフォームビジネスでは3C(自社、競合、顧客)のいずれにも当てはまらないプレーヤーが存在します。それらのプレーヤーが、ビジネスを成立させる上で重要な役割を担っている点は見逃せません。そのため、5Cのフレームを使って、各プレーヤーの役割・関係性を洗い出していく必要があります。
プラットフォームビジネスの多様なプレーヤーを正しく捉えるポイントは下記2点です。
1.協力者や管理者の存在:自社にとって競合にも顧客にも該当しないプレーヤーがいること。
2.階層の存在:プラットフォームとなる仕組みを提供しているプレーヤーも、何らかのプラットフォームに属していること。
事業開発や商品開発において、市況を見誤ると、パートナーにすべき相手と組めなかったり、参入するプラットフォームや階層を間違え、プラットフォーマーのルールに振り回されたりすることになりかねません。
プラットフォームビジネスへの参入を考える際は、上記のポイントを押さえ、自社の5C分析をぜひ実施してみてください。
最後に、フレームワークはあくまでも制約を置いて分析することで問題解決・意思決定を早めるための一手段にすぎません。当然、限界もあり、完璧なフレームワークは存在しないことを認識しておく必要があります。
前回記事ではスキルに着眼し、その変化・変遷をお見せしましたが、これからも新しいビジネスモデルが出てきます。最も重要なことはフレームワークを活用するだけでなく、枠組みに捉われ過ぎず、絶えず考え続けることです。
次回は事業やサービスを設計・運営していく上でのリソース管理の考え方について紹介します。