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日記調査から分析する「大学生のリアルな生態」No.3

イマドキの大学生が「行き当たりばったりの行動」を求める二つの理由

2018/10/12

電通では産学協同プロジェクトとして、明治大学商学部・藤田結子ゼミと共同で約1年間、大学生19人の日記調査を実施。ゼミに所属する大学生と一緒に若者生活とメディアとの関わりについて調査研究を行ってきました。その調査から読み解いた「大学生のリアルな生態」を紹介する本連載、最終回である第3回では、私、木伏美加が、リサーチャーとしてイマドキの大学生の行動について探っていきたいと思います。

イマドキの若者について語られるとき、「冒険をしない」「合理的」などと言われることがあります。確かにスマートフォンが普及し、どこでも簡単にさまざまな情報が検索でき、、日々多くの情報に触れながら成長してきたイマドキの若者は、事前にしっかりと調べて行動するため失敗を未然に防ぐ力が高いのかもしれません。しかし、彼らは全てにおいて合理的に行動しているわけではありません。むしろ、大学生という限られた時間を楽しむために、あえて「行き当たりばったりの行動」を楽しんでいることが分かりました。

Case1. 「その場のノリ」を楽しむ「いつメン」旅

 

10:00に新宿駅に到着し、レンタカーを借りた。車の中でこの伊豆旅行で何をしようかと話し合っていた。観光をしてもよかったが、メンバーの性格的に観光をするような柄ではなく、いつもボウリングをしている仲ということもあり、この日もボウリングをしようということになった。旅行をしているにもかかわらず、やることが普段と全く変わらない。

(中略)

昼ごはんを食べずにボウリングをし続けてきたのでさすがに腹が減り、車の中で晩ご飯を探すことにした。インスタグラムで「ラーメン」と検索した。伊豆付近のラーメン店がたくさん出てきて、それについての投稿を見ることができる(写真やそれについての意見を得ることができる)のでかなり便利だと感じた。

しかし、思ったより良さそうな店がなかったので、仕方なく宿の近くの回転寿司で夕食をとることにした。

《リサーチャーの解説》

普段一緒に遊んでいるメンバー=「いつメン」での伊豆旅行。しかし、宿とレンタカー以外の計画は何も決まっておらず、出発してから何をするか考え始めています。スマホを使えばいくらでも情報を集められるし、あらかじめ旅の計画をしっかりと立てることができそうなのにもかかわらず、遊びも食事も「行き当たりばったりの行動」になっています。彼らは何も決めていないからこその「その場のノリ」をあえて楽しんでいるのです。実際、彼らにヒアリングをしてみると、「旅行の中身はグダグダだったけど、いつメンと旅行ができて満足度は100%」とのことでした。

Case2.失敗を成功に変える「あとづけ」の報酬

 

本来は小田急線で中央林間で降りるのだが、寝過ごしてしまい終点の片瀬江ノ島まで来てしまった。そのまま引き返そうかと思ったが、久しぶりに江ノ島まで来てなつかしさを覚え、さらに4、5限が休講だったためにまだ時間にも余裕があり、江ノ島探索をしようと決め駅を降りた。

江ノ島では時に何か買ったわけでもなく、どこか目当てのスポットに行ったわけでもないが、小学校の頃から遊んでいたその風景を眺め、少し感傷に浸った。江ノ島につながる橋を渡っている途中、中国人の観光客が一眼レフを使って江ノ島から見える夕日を撮影していた。自分も夕日を見たが、その夕日があまりにもきれいだったため、スマートフォンで写真を撮り、その写真をインスタグラムに投稿した。

《リサーチャーの解説》

電車で寝過ごしだいぶ遠くまで来てしまうという、ある意味「失敗」を犯したにもかかわらず、その後の「行き当たりばったりの行動」によってSNSに投稿するネタという「報酬」を獲得しています。

一見失敗談のように聞こえるnoteですが、その後のヒアリングでも「江ノ島に立ち寄ることができ充実感を覚えた」と話しており、失敗すらも楽しんでいることが感じられました。

思いがけなく出合った江ノ島の夕日を写真に撮ることで、インスタグラムに投稿できるネタを見つけることができ、それによって友達とのコミュニケーションが生まれています。さらには「いいね!」やコメントなどの反応も得られれば、それはイマドキの大学生にとって立派な「報酬」になるのです。

SNSなどの投稿を見ていると、あらゆる失敗をネタにして投稿している人を多く見かけます。これらも、「失敗」というマイナスな状況も、それをネタとしてコミュニケーションにつなげることができれば「報酬」となる一例であると思います。

イマドキの大学生が「行き当たりばったりの行動」を求める二つの理由

なぜイマドキの大学生は「行き当たりばったりの行動」を求めるのでしょうか。冒頭にも書きましたが、彼らは情報環境が大きく変化した中で成長してきており、あらゆる情報が簡単に検索できることが当たり前になっています。実際に、第2回でもご紹介した「SNS検索」をうまく活用しながら無駄なく効率よく情報収集していると思います。しっかりと情報収集することで、ある程度間違いのない行動をすることが可能です。例えば、お店選びをするときには、「食べログ」などの情報サイトでお客さんの評価を確認し、SNSでリアルなコメントやお店の様子を確認してから決めることができるので、来店してみたらイメージと違う、ということが起こりにくくなっています。

このように、事前にあらゆる手段で情報収集をして、間違いのない行動をする傾向が強いことが、イマドキの若者が「合理的」だと言われる所以になっているのだと思います。しかし、今回ご紹介した二つのnoteを見ても、イマドキの大学生がむしろ非合理的な行動を楽しんでとっているように感じます。イマドキの大学生がなぜこのような「行き当たりばったりの行動」を求めるのか。今回の研究で得られた考察は大きく二つあります。

①「行き当たりばったり」しやすい情報環境

スマートフォンでいつでもどこでも検索できるようになったからこそ、「行き当たりばったりの行動」がとりやすくなっていると思います。昔なら、あらかじめ計画をたてておく必要があった旅行も、今では行った先でいくらでも情報収集ができるので事前に計画を立てる必要性は薄くなりました。

むしろ、イマドキの大学生が大切にしている「その場のノリ」を考慮して行動することができるので、より旅行を楽しめると考えることもできます(「その場のノリ」で行動が変わるなら、事前に計画を立てておくことはむしろ非効率なのかもしれません。)。

彼らは、「行き当たりばったりの行動」をすることでその場その場を最大限に楽しんでいるのではないでしょうか。

②何でも分かってしまうからこその「偶然」を求める

イマドキの大学生は、検索スキルが高いがゆえに、あらゆることを体験せずとも知ることができる環境にいます。例えば、海外の観光地や秘境でさえもSNS上の写真や投稿で、どんな場所なのか、どんなことができるのかが分かってしまいます。だからこそ、「未知との遭遇」を求めているのではないでしょうか。未知との遭遇、というと大げさかもしれませんが、音楽フェスや体験型のアートイベントが盛り上がっていることも、その場所、その時間にしか得られないリアルな体験(しかもSNSやウェブサイトでは全てを伝えることができない)が求められているからなのではないかと思っています。

今回はイマドキの大学生に見られる「行き当たりばったりの行動」について取り上げました。「合理的」「無駄なことを嫌う」と言われることもあるイマドキの若者世代。しかし、彼らは合理的な一面とそうではない遊びの一面を持ち合わせながら充実した毎日を送っています。もしかしたら、彼らが教えてくれた「ゆるい行動」は忙しい毎日を過ごす大人たちにとっても必要なことなのかもしれません。

3回にわたり、現役大学生と共同で実施した日記調査から得られた「大学生のリアルな生態」をご紹介してきました。研究を進めていくうちに、情報環境が大きく変わる時代背景の中で成長してきた彼らの生き方から、膨大な情報に囲まれた現代社会を快適に生きていく上でのヒントが見つかるかもしれないと思いはじめています。