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広告だけじゃない!電通クリエーター FILENo.3

プランナー・有元沙矢香「特徴のない私がたどり着いたクリエーティブのスタイル」

2018/10/15

広告の枠にとらわれない電通クリエーターを取り上げるインタビュー連載。第3回は、テレビCMだけでなく、ミュージックビデオ(MV)などのコンテンツ制作も手掛けるプランナー、有元沙矢香氏(第1CRプランニング局)に話を聞いた。

「自分の中だけで答えを探さない」のが仕事のスタンス

──現在の部署に来たきっかけや、主に担当している仕事について教えてください。

ずっとテレビが大好きで、CMをつくる仕事を担当することが多かったのですが、10年目を過ぎて新しいことにも挑戦したいと思っていたタイミングで異動も経験し、新規事業やサービスを考える機会も増えてきました。

そこで新しいつながりが生まれたり、キャリアを重ねる中でさまざまな部署で活躍している同期からも仕事の話が来るようになりました。そんな中で、アーティストのミュージックビデオ(以下MV)といったコンテンツ寄りの仕事にも出合いました。

──広告をつくる仕事と、MVなどのコンテンツをつくる仕事では、取り組む姿勢に違いはありますか?

私の中ではあまり変わらないかもしれません。コンテンツの中身を考える順序って、CMを考えるときと結構近いかなと思います。商品が「モノ」ではなく、MVなら「音楽」や「歌詞」「アーティスト」になるので、それをどうやって伝えて好きになってもらうかを考えます。

──企画を立てるときは、具体的にはどのように考えているのでしょうか?

私、自分にとがった個性がないのがコンプレックスで。すごく普通の人なんですよね。影響を受けやすいし、流されやすい。でも、だんだんそれでいいかと思うようになって、今は、「自分の中だけで答えを探さない」というのが、企画を立てるうえでの私のスタンス。

具体的には、周りの人たちが対象の商品に対してどういう興味を持っているのか持っていないのか、ファンの人はどんなきっかけで好きになって、どこが好きで、今どんなふうに思っているのかなどの心の動きを結構しつこく聞きます。人が何かを好きになるってすごいエネルギーなので聞いていて飽きません。

インターネットのつぶやきや口コミなども見ますが、ネットやデータ上にない情報の方がリアルで興味深いものが多いので、自分で直接聞いた狭くても深い情報の中から何か面白いきっかけを探すことが多いですね。

例えばJUJUさんの「いいわけ」という楽曲は、とにかく恋愛における女性のドロドロとした切ない想いを歌った歌詞が印象的だったので、職場の人たちやプライベートの友人まで、ターゲットである20~40代の女性20人くらいに楽曲を聴いてもらい、思い浮かんだ自身の恋愛体験談を書いてもらいました。

そうすると、十人十色の面白い話が出てくるんですが、その中でも「女の人って世代に関係なく誰でもこういうことを思うんだな」という共通点も見えてきたりして。

その「みんなに共通するドロドロの感情」に触れるようなストーリーを映像としてつくれれば、歌詞との相乗効果で共感してもらえるのではないかと思ったんです。「共感する感情」を洗い出した上で、さらにそれをとことん切なく伝えるために漫画家の矢沢あいさんにお願いしました。

 

「せりふがない」MVで感情の変化や共感をいかに生むか

──JUJUさんといえば、同じく有元さんが企画された「東京」のMVが、2018年10月12日時点で、YouTube上で680万回以上再生されるヒット作になっています。

 

私自身、父との別れを経験していたので、最初は実体験に基づいて台本を書き進めていました。ただ、客観的な視点に立てているか検証するためにも、ここでも周りに聞くという方法をとりました。営業やクライアントの方々、制作チームと話しているうちに「東京に出てきた人の親との距離感」や「親との別れ」についてそれぞれが感じたことのある感情にまた共通点が見えてきたりして、そこを大事にして台本を整理していきました。

その中で、「親の日記」というエピソードに出合ったんです。MVってドラマと違って「せりふ」がないものなので、感情や状況の変化をフラットに伝えられる日記を軸にするというのはすごくいいなと思って、採用しました。

──「自分には特徴がない」とおっしゃっていましたが、周りの人にヒアリングをして、誰にでも共通しそうな感情やエピソードを作品に落とし込むことができるのは、有元さんの大きな特徴だと感じます。

クリエーターといえば自分の中でどうしてもつくりたいと思うものが湧き上がってくるものだと思っていたのですが、残念ながらそうでもなくて。

でもその中で、「自分の中だけで答えを探さない」というのが、一つ見つけ出した自分なりの方法というか、特徴なのかもしれませんね。誰かの偏愛に寄り添ったり、自分と真逆の人にヒアリングしているうちに、アイデアが見つかったり、自分だけでは思い付かないようなものが作れることがあったりするのは楽しいです。

関わった人みんなが幸せになれる作品を作り続けたい

──有元さんの企画は、スポーツくじBIG「キョウコとお姉ちゃん」のCMでの深田恭子さんとマツコ・デラックスさんのように、「見た瞬間に面白いと思える設定」のものが多いと思います。ああいった設定は、どのように考えられているのですか?

私、毎日6時間くらいテレビを見ているのですが(笑)、マツコ・デラックスさんって、確かに第一想起は毒舌キャラかもしれませんが、その裏には膨大な知識量と温かい目線があって、そして、情にもあふれていたり、謙虚さも持ち合わせていらしたり。マツコさんのそういう慎ましい側面を全面に出したいと思い、すごくおしとやかなお姉さん(マツコさん)と真逆のアグレッシブな妹(深田さん)という設定にしました。

いわゆる、いつも使われているキャラとは違う、その人の隠れた良さが見える設定を見せることで、視聴者に「この人って本当はこういう人なのかもしれない」と思ってもらいたいなと。

あとは、お笑い芸人の方を心からリスペクトしているのですが、芸人の方が出ている広告ってその人たちのギャグがそのまま使われていることが多いじゃないですか。しかもそれがつまらなくなっていたらすごく悲しい。テレビを見まくっているからこそ、出ていただく方の才能というか、得意なことをなるべく深く理解して、引き出せる方法を考えたいと心掛けています。その方が新しいものになると思いますし、その人の良さを引き出せれば出演者にも「このCMに出てよかったな」と思ってもらえるんじゃないかと。

出演者が輝ける土壌をつくりたいという思いは常に持っています。

──話を伺っていると、作品に関わる人たちをとても大切にされているんだなということが感じられました。

ありがとうございます。私はとにかく誰かが喜んでくれることがすごくうれしいんです。

MVは動画に対するコメント欄を見ることができますよね。視聴者のコメントを見ていると、「映像を見たことによってこういう経験を思い出した」という感想があったりして。ただ目に触れたときの瞬間的な思いだけじゃなくて、心のより深いところまで届いたのかなと感じられるときは「あぁ、つくれてよかったなぁ」と感慨深くなります。

──有元さんが今後やりたいことを教えてください。

広告であっても、何かあったときに、見た人の心のよりどころになるような、人の感情にちょっと踏み込んでいくことは、これからも大事にしていきたいです。あとは、一緒に作る人たちとの関係性も大切に、その化学反応でこれまでになかったものを作れるといいなと思います。

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どこか自分の経験とリンクし、心の奥まで響いてくるような有元さんの作品。

自分の気持ちを押し通すのではなく、関わる多くの人の感情をくみ取り、作品に反映させている有元さんだからこそつくり出せるものなのだと分かりました。

ありがとうございました。