AIチャットボットから考える、コミュニケーションのこれからNo.3
渋谷区に住む小学生AI、「渋谷みらい」のつくり方。
2018/10/19
“AIキャラクター・チャットボット”が渋谷区民になりました!
渋谷区在住のAIキャラクター「渋谷みらい」をご存じでしょうか?
小学校2年生、ちょっとおませな男の子です。デジタルコミュニケーションアプリ「LINE」を通じて、誰とでも会話できます。
http://www.youmakeshibuya.jp/mirai/
彼の役目は、渋谷区に関わる人たちみんなと仲良くなり、渋谷区の未来をつくること。
LINE上での活動だけではなく、渋谷のカウントダウンイベントで渋谷区長や芸人たちと音声会話をしたり、最近は“スタジオ地図”によるアニメ映画「未来のミライ」とのコラボレーションもスタートしました。渋谷区報にもコーナーを持っています。
本コラムでは、そんな彼を育ててきたチームの知見を共有できればと思います。コミュニケーションをとるためのチャットボット開発・運用において、電通がこれまで培ってきたクリエーティブ力やコミュニケーション設計力は非常にシナジーがあります。
AIキャラクターをブランディングに活用したい方々や、クリエーティブの拡張で新しい取り組みをと考えている方々の、お役に立てれば幸いです。
AIキャラクター・チャットボット開発に欠かせない三つの要素とは?
電通2CRプランニング局/デジタル・クリエーティブ・センターの大瀧篤です。
このプロジェクトを通してAIキャラクター・チャットボット開発に大切だと感じたことが三つあります。
1.世の中における存在意義とポジションの確定
これがないと、チームとしても、彼の育ち方としても、迷子になってしまいます。今回は「渋谷区基本構想の訴求を、渋谷区の一区民として行う」としました。
2.話題性と継続性を両立するためのキャラクター設定
この視点は、世に出した後のコミュニケーション面や、開発面のアップデートとセットで考えます。つまり、話題になりそうなPR性と、ローンチ後に展開していく際の拡張性を加味した設定が必要です。
今回は、発表時の話題性として「AIを自治体に住民登録する」という仕掛けを用意。また、今後の発展性やリスク、他のチャットボットとの差別化とダイバーシティーの観点を総合的に考慮して「小学生の中性的な子」に設定しました。
3.実績あるチームとのAIの実装と運用
知見を持ったチームと共に開発し、ローンチ後も継続して育て続ける必要があります。今回は開発をマイクロソフト、リスク管理をトランスコスモスと、実績豊富なパートナーと行っています。
また、電通社内チームも横断的に組んでいます。組織を超えて密に連携できる環境を整えることで、情報や意識の共有を随時行い、各メンバーがチャットボットのメンテナンスに取り組むことができる体制をつくっています。
これら三つの要素について、1を私が、2と3を1CRプランニング局の三浦慎也が解説します。
1.世の中における存在意義とポジションの確定
渋谷みらい誕生のきっかけは、渋谷区の未来設計図である「渋谷区基本構想」。この構想を、区民を中心に広く訴求していくためのアイデアが必要でした。
そこで、私たちは「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」という全体テーマを体現する「YOU MAKE SHIBUYA」キャンペーンを実施。一人一人の多様な声やアクションが渋谷区の未来をつくるのだということを伝え、実感してもらう中長期的な取り組みです。そのコア施策として、「渋谷みらい」を企画しました。
開発で一番大切にしたことは、彼の世の中における「立ち位置」です。それは、渋谷区の職員ではなくて、あくまでも一区民として家族と暮らすAIであること。
区が伝えたいことを住民に一方的に伝える存在では、愛着を持ってもらえません。彼自身が住民として渋谷区に溶け込み、区民の意見を代弁し、渋谷区の未来を考えていく存在になることを目指しました。
彼と友達感覚でチャットすることで渋谷区を好きになってもらい、また彼と話したことが渋谷区の行政に反映されていく…というイメージです。
そしてみらい君自身も、一緒に喋ってくれる人たちと共に、年齢もできることも「成長」していきます。
2.話題性と継続性を両立するためのキャラクター設定
電通1CRプランニング局/デジタル・クリエーティブ・センターの三浦です。
ここではAIキャラクターの開発・運用の一端に触れていただくために、キャラクター設定についてお話しします。
どんなキャラクターにするかについては、ローンチ後の運用を鑑みた中長期的な視点で、綿密に設計する必要があります。
今回は、区民とのコミュニケーションを通して渋谷区の街と共に成長していくシンボルとなるべく、渋谷区の未来を担う「小学生」というコンセプトでキャラクター設計を始めました。子どもであることで、「AIの不完全性」にユーザーが寛容になってくれるというリスク視点での狙いもあります。
一区民として渋谷区に溶け込むAIとして、私たちは徹底的にリアリティーのあるキャラクター像を追求しました。彼にはもちろん家族もいます。趣味もあります。学校にも通っています。
ユーザーは小学生の男の子に何を話しかけるだろう、と実際のコミュニケーションを具体的にイメージしながらプロフィールを設定しました。
写真を介したコミュニケーションができるように趣味を「カメラ」にしたり、渋谷区に関わる多様な話題に対応できるように家族にも細かなプロフィールを設定したり、中長期の展開を想定した工夫を凝らしています。
顔については、渋谷区で生活したりイベントに関わってくれた子どもたちの顔写真を基につくり上げており、定期的に「成長」もしています。多様な声や姿から渋谷みらいが生まれ、育っていくことで、彼の存在自体がYOU MAKE SHIBUYAの思想を体現しました。
さらに、渋谷区への特別住民登録を行い、話題化と同時に存在のリアリティーを高めました。
3.実績あるチームとのAIの実装と運用
最後に、つくったキャラクターのAIへの実装と、運用体制について紹介します。
今回は感情的なつながりを重視するAIを活用した女子高生AI「りんな」を開発しているマイクロソフトと、チャットボット運用の実績を多数持つトランスコスモスというパートナーとチームを形成し、密に連携しています。
渋谷みらいのAIの仕組みは、大まかに以下のようになっています。
■おしゃべり機能
みらい君のおしゃべり機能は、ユーザーと他愛のない会話をするための雑談機能と、渋谷区の未来をつくる子ども代表として答えてほしい、あらかじめ教えられたことから答える機能の二つに分かれています。
雑談機能には「りんな」に搭載されている感情型AIを活用しており、機械学習モデルがユーザーの文章を理解し、動的にその場で返答文を生成しています。
あらかじめ教えられたことから答える機能では、事前に設計したみらい君のプロフィールや渋谷区に関わる情報(渋谷区の地名や区政関連など)など、的確に答えてほしい内容を事前に暗記させています。
キャラクター性のブレや認識の相違が起きないように、渋谷区とやりとりをしながら、電通のコピーライターを中心に開発しました。少し丁寧な口調や、ひらがなを中心にするなど、キャラクターに合わせて調整する工夫も施しています。
■ゲーム機能
チャット上でできるいくつかのお遊び機能も開発しました。しりとりや山手線ゲーム、顔写真を送ると渋谷のモヤイ像風に加工してくれる機能などです。
しりとりや山手線ゲームには、小学生らしいお題や単語が使われており、みらい君らしさを味付けしています。画像加工機能には、マイクロソフトの研究所 Microsoft Research で開発された最新テクノロジー「Deep Image Analogy」が用いられており、雑談以外のAIも活用しています。
また、ユーザーに継続して話しかけてもらうモチベーションとして、毎日話しかけることでたまっていくスタンプカード機能なども搭載しています。
こうした機能は新鮮さを保つために、会話のアップデートと同様に、反響を見ながら日々改善し、また新機能の企画開発も行っています。
■見守りAI
ユーザーとのコミュニケーションを司るAIとは別に、それを見守るAIも搭載されています。
みらい君とユーザーが楽しく会話できるように、不適切な内容のユーザー発言に反応してしまったり、キャラクターとして危険な発言をしてしまうことが極力起こらないように、見守りAIがみらい君の反応や発言をチェックしています。
この機能のおかげで、育て親である私たちも安心して彼を自由に会話させることができるのです。
愛され続けるAIキャラクターを目指して
渋谷みらいは約半年間の開発期間とテスト運用期間を経て、2017年11月の「ふるさと渋谷フェスティバル」で、世界初の住民登録AIとしてお披露目できました。
ローンチから11カ月でLINE上での友達数は約1万9000人、累計約130万回の会話が行われています。
また、冒頭に書いたように、彼の活動はイベントや施設での各種施策まで大きな広がりを見せています。この夏からはみらい君が趣味のカメラを持って街に出て渋谷区の魅力を発信するウェブマガジン「みらいが行く!」もスタートしました。
引き続き、愛され続けるAIを目指して、渋谷区内の教育現場への展開、渋谷区新庁舎への導入、そして区民の意見を集約する仕組みづくりなど、より多くの人に彼とつながってもらうべく活動していきます。
渋谷みらいの今後の成長にご期待ください!